王国からの書簡5
すでにマドレーヌはいなくなっていた。
「……いたよね?」
そうセシリアに問いかける。
でも、きょとんとしていて、分かっていないようだった。
「誰がですか?」
見えていないのかな。
さっきも空中に向かって話しているって、言っていたし。
でも、マドレーヌと昨日やりとりしたよね。
「マドレーヌさん」
「今日は来ていませんよ」
見えるときと見えないときがあるのね。
それに、何度もいたりいなかったりして、気まぐれすぎない?
あれでよく女神が務まるわね。
「はぁ……まあ、いいわ」
でも、パンの感触は本物。
ちょっとふんわりとしているような。
(『手伝いなさいよ』ってキレたのが恥ずかしい)
女神には伝わっているんだけどね。
セシリアには分からなかったから。
「さてと、殿下にどう誤魔化していこう」
何も起きないように。
「ねえ、隠せるところあるのかしら?」
「ありません」
彼女任せだけれども、訊いてみるとこにした。
そうしたらこの反応。
ですよね。
「無理なのね」
「はい」
軽く頷くセシリア。
「港町の猫って、大丈夫かな」
大量発生しているけれど。
管理できていないって言われないかな。
「難しいかもしれません」
「そっか」
苦笑いしながら、状況を遠い目で見ていたのだった。
どうしようないのだから。
殿下にボロクソに言われる。婚約破棄の場面と同様に。
だからこそ、どうにでもなれって思えてくる。
「おいしい」
私はマドレーヌに貰ったパンを食べて呟いた。
今は少しだけ、考えたかったから。
「何事も起こらないでほしい」
有効な対策が出来ないまま、前日になってしまった。
視察の前日、ミカエラが書斎にやってきた。
「メリッサ様」
「何かあったの?」
「農村のルシア嬢がお越しになられました」
ルシアって、村長の娘ね。
急にどうしたのかしら。
「メリッサ様、突然参りまして、申し訳ありません」
彼女一人だなんてね。
大丈夫だったのかな。
「良いのよ。大丈夫だから」
ルシアが頭を下げて、詫びているようだった。
そんなこと一切感じていないけれどね。
「実は、数日前くらいから、何匹も農村へ猫がやってきまして」
「猫!? 港町じゃなくて?」
大量発生しているのは知っているけれど、農村にもやってくるなんて。
猫の行動力、凄いわね。
「はい」
「元々飼っていた猫、じゃないのよね?」
倉庫にもネズミは出てくるだろうから、その対策として飼っているってことはないのかな。
「いいえ。確かに飼い猫はいますが、数が多いんです」
野良猫が混じっているのね。
これ、トラブルにならないかしら。
もうなっているわね。
ああ、直前にこんな問題が出てくるなんてね……。
私はいつの間にか苦笑いをしていたのだった。




