猫の通る道
「本当、ただパンを食べにきただけなのに、なんで疲れちゃうんだろう」
馬車に乗ったまま、私は呟いた。
上り坂なので、スピードは遅め。
「視察は精神を消耗しますので」
セシリアはそう補足していた。
「だから視察じゃないってば」
何で視察っていうことにしているの。
確かに、セシリアと一緒に港町へ来ているけれど。
「……でも」
窓の外を見て、少し言葉を抑える。
ほんのちょっとだけ、馬車の中は静かになっていた。
「誰も困っていなかった」
パンを買い求めていたけれど、大きな混乱は起きていない。
均しをやめたから、港町に余剰がほぼ入ってこない。
必要な量は来ているけれど。
それでも普通にパンを買っていた。
十分に焼けていた。
「はい」
平然とセシリアは同意した。
「それが一番怖いのよね」
変化が簡単に受け入れられている。
この飛び地の特徴かしら。
「余剰が減ると、工夫が増えます」
セシリアがそう言葉にした港町。
近くの広場には、新しい露店が見えている。
すれ違うように、パンを食べながら歩いている姿も。
そしてニャーニャーと猫の鳴き声が。
「良いことなのかしら」
ものが無いって事だから。
「判断は後で決まります」
後でね。
この地の歴史書に、悪口が書かれないかな。
「あれ?」
急に馬車が停まった。
まだ、屋敷じゃないのに。
どうしてだろう。
「領主様、通れません」
御者がそう、私に報告する。
どうしたんだろう。
「ちょっと待って。どうして、猫に領主が止められているの!?」
馬車から降りて、状況を確認してみた。
そこには、道の真ん中を野良猫がふさいでいる状況が。
猫は、のんびりしているようだった。
一匹だけじゃなくて、何匹も。
座っていたり、くねくねと転がっているのも。
猫達はパン屋の方から、やってきているみたいだった。
やっぱり釣られていたのね。
「追い払いましょうか」
セシリアはそう提案した。
確かにこのまま坂道のままもイヤだから。
「とりあえず、様子を見ましょう」
私はそう言ったものの、どんな感じかもっと見てみたくて、近づいた。
こんなの前世で見たくらいだから。
ただ、何匹かはそのまま逃げていく。
「ほらほら~」
一匹だけは逃げなかったものの、触ろうとしたら嫌がった。
引っかかれなかったけれど、流石に良くなかったか。
前世とは違うから、噛まれたり引っかかれたりしたら、面倒なことになりそう。
「警戒しているのね」
「仕方ないですね」
でもこれで通り道の邪魔は無くなったので、馬車は進んでいった。
そして屋敷へと着いて、私は書斎へと戻る。
少ししたら、セシリアが麦湯を持ってきた。
「ふぅ、今日はもう何もしない」
マドレーヌにパンという状況で疲れちゃったから、今日の仕事は終わり。
とりあえず、書斎でのんびりとしていた。
「分かりました」
もうすぐ夕方になるだろうから。
「メリッサ様、外出中に王都から書簡が届いております」
そんな時、ミカエラが少々、慌てた様子で入ってきた。
手には封筒が。
「王都?」
こんなのが届くなんて、始めて。
本国からわざわざ、マドレーヌ辺境領へ届けるなんてね。
私はミカエラから書簡を受け取った。
「重要そうね」
書簡には、王家の紋章がついた封蝋が。
「ですが急ぎではありません。ここはマリーデグリー王国の飛び地ですから」
気になる。
でも今の私には、疲労が出ている。
王都から日数が掛かっているから見てみたいけれど、もう今日はお腹いっぱい。
「……明日開ける」




