マドレーヌの訪問
「さて、これは問題ないわね」
私はこの書類を片付ける。
ひとつ片付いた。そう思っていたんだけど。
「メリッサ様、お客様です」
ミカエラが書斎にやってきて、そう伝えてきた。
お客様って。
「誰かしら?」
そう訊いてみる。
「マドレーヌさん、だそうです」
ミカエラが言った人物。
それって、昨日会った女神じゃん。
というか、どうしてここにやってくるのかな。
「分かったわ」
応接室にいるのかな、そう思って行こうと立ち上がったら。
「マドレーヌさん、こちらはメリッサ様の書斎です」
「いいじゃない。メリッサさんがいるんだから」
すると、この書斎へマドレーヌが入ってきたのだ。
当然であるが、ミカエラは困惑していた。
ミカエラは何か言いかけて、結局言葉を飲み込んだ。
まるで、止めてはいけない相手のように。
確かにね。
セシリアも苦笑いしていて、この状況を眺めていた。そして一瞬だけ、観察するような視線を向けていた。
どうしてお客様としてやってきているのに、微妙に勝手な事をしているんだろう。
マドレーヌって、女神のはずだよね。
「メリッサ様、応接室にご案内しますか?」
ミカエラが指示を仰いでいる。
そりゃあこうなるよね。
「大丈夫よ。ここで」
「分かりました」
ミカエラは出ていった。
「お茶をご用意いたしますね」
そう言って、続いてセシリアが出ていく。
書斎には私とマドレーヌだけ。
マドレーヌは部屋を見回し、小さく頷いた。
「ねえ、どうしてこの屋敷に?」
そう問いかけた。
するとマドレーヌは微笑んだ。
「まあ、メリッサさんの様子をね」
とぼけた感じで、答えていくマドレーヌ。
本当にそうなのかしら。
「ねえ、これ……私のせいかしら?」
だから、片付けようとしていたこの古い書類を指さした。
マドレーヌは詳しく知っていそうな、この書類を。
私がそう言って少しの間、沈黙が流れていく。
その間マドレーヌは、書類を見て一呼吸していた。
「原因ではあるけれど、罪ではないわ」
微笑んだまま、そう返事をした。
気にしていないかのように。
「均しをやめた瞬間、”見えない余り”は消えるの」
淡々と言葉を続けていくマドレーヌ。
何かを考えるような表情をしていた。
「余りが消えると、余りで生きていたものも消える」
はっきりと結果を言い放っていた。
でも、それ以上詳しくは言わなかったけれど。
「……そう」
私は何も言えず、ただ聞いているだけ。
否定も反論する気持ちも起きなかった。
「壊れたんじゃないの」
少し間が空いて、続きの言葉を述べていく。
「世界の形が変わっただけ」
責めるようには言わなかった。
「あなた、”見ている役”でしょう?」
そう付け加えて。
昨日言われたことを、補強させるように。
「ええ」
私はそれだけしか言えなかった。
その辺りで、セシリアが書斎に紅茶を運んできた。
「さて、重い話はこれくらいで」
微笑みに戻して、私を見つめている。
「あの書類は生き《・》て《・》い《・》る《・》から」
マドレーヌは、書類を軽く触った。紙の音が書斎に響く。
はっきりと、知っているのね。
「紅茶、ありがとうね」
マドレーヌは紅茶のカップを手に取って、一口飲んだのだった。
「美味しいわね」
笑顔を見せながら、感想を口にする。
「ええ。精神安定用のよ」




