女神の告白と、特典が無い理由
「どういうこと?」
私が問いかけると、マドレーヌは空を見上げた。
橙色が残っていた空は、藍色に染まっていて、最初の星が滲むように浮かんでいた。
「もし特典があったら、あなたは”正しい答え”を探した」
マドレーヌは私にそう言い放った。
当たり前じゃん。
「……悪い?」
そう言い返した私。
机の上に答えが無かったとしても、探すんだから。
「悪くないわ。ただーー」
私のことを否定しないマドレーヌ。
少しだけ息をして、言葉を出していった。
「その場合、あなたは”人の判断”を見なかった」
マドレーヌの言葉を耳にした瞬間、胸の奥が少し揺れた感じがする。
「農村も、港町も、帳簿の外の人も。全部、”正解”で処理して終わってた」
私は何も言えなかった。
ほんのちょっとだけ、沈黙が流れていく。
「それは救いじゃない。整理よ」
はっきりとした、逃げ場のない言葉だった。
「私は奇跡を配る役じゃない」
配る役じゃないって、貴女は女神じゃないの?
「マドレーヌ辺境領を壊さず、続かせる役」
なにそれ。
ただ続けているだけってことじゃん。
「だからあなたには、何も渡さなかった」
マドレーヌ・エスティアはそう私に説明していく。
転生特典を渡さなかった理由を。
「……ずるい」
私はその説明に対して、率直に感想を伝える。
「ええ。神様って、だいたいずるいの」
否定するわけでもなく、肯定していた。
「撤回しなさい」って、言われるかと思ったけれど。
「でもね」
声のトーンが柔らかくなった。
落ち着いた感じ。
「あなたが今日、ここで愚痴を言えた時点で、もう”役目”は始まってる」
「役目って……」
なんなのだろう。
特典が無いのに役目って。
「帳簿に書けないものを、見続ける役」
貧乏くじを引いたかもしれない。
責任だけが加算されているって。
「特典は?」
私はもう一度確認してみた、
「無いわ」
短くはっきりと。
「一生?」
「ええ、一生」
マドレーヌは言い切ってしまった。
これで私には転生特典は得られないのが確定。
「……ほんと、最悪」
私は深くため息を吐いた。
「そうかもしれないわね」
微笑みながら私をじっと見ている。
「三週目、行きたい気分。特典がないんだったら、見続けるなら」
今度は得られるかもしれないから。
心の中では冗談っぽいけれど、ほんのわずかだけあったりはする。
「できるわよ」
一瞬だけ、想像してしまった。
農村に行く前の私。
帳簿を見る前の私。
まだ、何も知らなかった私。
全部やり直せるなら――
楽かもしれない。
「え?」
それに対してマドレーヌは、はっきりと肯定していた。
どうしてなんだろう。
「記憶を持ってやり直すのも、選択のひとつ」
一瞬だけ間が流れる。
「あなたが三週目を選ぶなら、私は止めない」
すると、マドレーヌは真顔になっていた。
「でもーー私はもう、あなたを見ない」
何故かこの時だけ、冷たい感じの目をしている。
それは軽蔑に近いものを感じた。
「やり直しを選ぶ人は多い」
息を吐いた。
「でもね。見続ける人は、少ないの」
「冗談。逃げるわけにはいかないから」
本気じゃない。
乙女ゲームの悪役令嬢になったのも、面白いから。
領主になっているし。
「そう。なら、私は見てるから」
すると微笑みを戻して、温かさを戻した。
「逃げない限り、ちゃんと」
マドレーヌは立ち上がった。
微笑みを続けながら。
「それ、応援?」
広場を後にしようとしているマドレーヌを、呼び止める。
「いいえ」
立ち止まるマドレーヌ。
「確認よ」
そして振り返った。
「壊さない人か、どうかの」




