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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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転生特典なし

 夕方、私は港町タレスブールの庁舎前にやってきた。

 橙色だいだいいろの空に藍色あいいろつつもうとしている。


「はぁ……」


 広場にあるベンチに腰掛けながら、広場からの海を見ていた。

 今日も一日が終わろうとしていて、人々は市場の店仕舞いや港での仕事を終えようとしている。


「……正しくしたはずなのに」


 農村アイゼンポールは解決のいとぐちが見えているのに。


「なんで、こんなに重たいのよ」


 私は海に向かって思いっきり愚痴ぐちを叫んでいた。

 そして海をにらみ付ける。


「スキルも無い、特典もない、奇跡もない」


 転生したらチート的なものが得られるはずよね。

 それなのに。


「あるのは帳簿と責任だけって」


 自分に対して笑いが出てきてしまった。

 こんなに得られないなんて。


「顔、疲れ切ってるわね」


「マドレーヌさん……」


 隣では、いつの間にかマドレーヌがかごを抱えて座っていた。

 いつの間にやってきたんだろう。

 愚痴を言いまくっていたから、気づかなかったかもしれないけれど。

 マドレーヌに気づかれたのもあって、少しだけ私は落ち着いた。

 だから港の音だけが少しだけ耳に入ってくる。

 会話はちょっとの間だけなかった。


「ねえ……ちょっと、話してもいいかしら?」


 それを破るように、マドレーヌに話しかける。


「ええ。どうぞ」


 少しだけ間を置いて、私の事を打ち明ける。


「私、転生者なんだけど」


「そうだったの。前世があるのね」


 驚きは少なくて、私の告白を受け入れているようだった。

 さっきの愚痴も聞いているからね。


「私、人生二週目で詰んじゃったわ」


「大変ねぇ」


 マドレーヌは人ごとのように、受け流すような返事をしてきた。


「大変で済ませないで!」


 もう彼女に感情をぶつける感じになっていた。

 ただ、広場にいる人は私を見ていないし、聞いている様子も無かった。


「転生特典、欲しかった」


 さっきよりは声の感じを落ち着かせる。

 でも愚痴は出てきてしまう。


「一つでいいから欲しかった」


 次から次へと言葉が。


「”正解”が分かるやつとか」


 マドレーヌは否定しないで聞いていた。


「せめて”それは違う”って止めてくれるやつ!」


 また私は大きめの声を出していた。


「そんなに不満なら、神様に直接言えば?」


「……は?」


 ここまで聞いていたマドレーヌが、そう提案してきた。

 神様にね。

 直接、言えるの?


「ーーたぶん、聞いているわよ」


 聞いているって。

 教会に行けばいいの? そこにある。

 でも、私はそこに移動するのも面倒に感じてしまう。


「聞いているなら、来なさいよ!!」


 私は思いっきり、海に向かってさけんだ。


「なんで私だけ、こんな役なのか説明しなさい!」


 断罪されて、追放される悪役令嬢なんて。

 責任ばかりがのしかかる領主なんて。


「便利スキル寄越よこしなさいよ!」


 水平線の向こうまで届きそうな声で、神様に愚痴をぶつけた。

 そして言った後、我に返っていく。

 マドレーヌに言われるがまま、叫ぶなんてね。


「……私、何言っているんだろう」


「はい、来ました」


 返ってくるはずのない、返事が返ってきた。

 ――声が、さっきより少し近い。

 それだけで、空気が変わった。


「え?」


 私は声の方向を見てみる。

 そこにはマドレーヌが立っているだけ。

 冗談かと思った。


「近所のパン屋の奥さんじゃなくて」


 落ち着いた声で私にべていく。


「この、マドレーヌ辺境領担当女神です。よろしく」


 微笑みながら、自身を女神だって告白していた。


「……は?」


 突然のことで、私は受け入れられない。


「待って、待って」


 マドレーヌが女神?


「今、何て?」


 現実離れした言葉が交わされていた。

 これまで、普通に話していたけれど。


「だから私は、ここの女神です。名前はマドレーヌ・エスティア」


 はっきりと言い放っている。


「貴女が、女神なのね……?」


「はい」


 完全に肯定していた。

 女神がちゃんと見ていたなんて。


「じゃあ! 私の転生特典は!?」


 こんなネタばらし、信じられなかった。

 だから問いかける。


「ありません」


「即答!?」


 無いって……あの愚痴、無駄だったの!?

 私は笑おうとして、失敗した。

 膝に力が入らず、ベンチに座り直す。


「あなたに渡したら、この領地は壊れてたから」


 微笑みながらそう伝える。


「力はね、”正しい人”より”早い人”を壊すの」


「……それ、慰め?」


 壊れるから貰えないなんて。

 今の状態になっているのが、良い事って言いたいみたいな。


「説明」


 ……説明って。


ここで何度も言ったでしょう? ”怒られない決断は、後から効く”って」


 確かに言っていたっけ。


「あなたは”迷う役”」


「私が?」


「即断できない。正解を信じ切れない」


 完全に悪口じゃん。

 女神が言って良いのかしら。


「だから、帳簿の外を見る」


 でも、私の動き、ちゃんと見ているのね。


「神としては最悪。人としては、最適解」


 フォローになっているのかな。

 なっていない。


「……最低ね」


「ええ」


 こんな形でバラすし、直球に言ってくるし。


「でも、逃げなかったでしょう?」


 それは事実だけど。


「……特典、欲しかったな」


 貰えるんだったら貰いたい。

 ちょっとくらいあったって、ばちが当たらないだろうし。


「分かるわ」


 マドレーヌは頷いた。


「”特典が無い”って、一番逃げられないのよ」


「最悪じゃん」


「でも、無いからこそ気づけたのよ」


 港の方から、船のロープが軋む音がした。

 世界は、何も変わっていない顔をしていた。

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