私が変えかけているもの
数日後の朝。
雲があるものの、水色が空の大部分を覆っていた。
窓から見える港町は、音が小さめながらも、いつものようにしっかりと耳に入ってきた。
「……今日は、何も起きていないわね」
と、港町の鐘の音も聞こえてくる。
私は安心しながら朝の準備をしていく。朝食は食べ終わっていた。
準備はセシリアも手伝ってくれている。
今日は何をしようかな。
「良いわね、こういう日」
「はい。少なくとも”表向き”は」
セシリアは含みを持たせたセリフを口にした。
”表向き”は、って。
裏はどうなっているのかしら。
「とりあえず今日は、港町に遊びに行くわね」
表向き、何も起きてないから、出かけるのが良いのかもしれない。
「そうですか。行ってらっしゃいませ」
セシリアはついていかないんだ。
まあ、遊びに行くからね。
「何をするわけじゃないけれど」
私は坂や階段を降りていって、港町を見ていく。
朝だから人々がせわしなく動いていて、一日の始まりを直に感じられた。
やがて港の市場へとやってくる。
獲れたての魚が売られていて、どれか買いたくなってしまった。
「今日は安いよ。良いのがあるからさ」
「そうなのね」
新鮮そうなものを買うことに。
またセシリアに焼いてもらおうかしら。
それとも、煮てもらう?
「毎度あり!」
私は魚を袋に入れ、そのまま市場の中を歩いていった。
すると、噂話が聞こえてきた。
「今年は……来ないらしい」
「そうなのか」
何が来ないんだろうね。
私は疑問に思ったけれども、聞こえる噂話は同じ方向を指していた。
「あの倉、開けないって」
「決まったことなのか」
「まあ、今は”ここ”に関しては困らないけれどな」
やはりね。
人々の声は農村に関することね。
噂って何度も反復するのかしら。
私は市場から、港の倉庫まで歩いていった。
「メリッサさん、おはようございます」
「おはようリュシア」
倉庫の近くで荷物を運んでいる彼、元気がよさそう。
本当に頑張っているのね。
「今年は、外に回す分も無いな」
そんな時、木箱を見ながら、商人がぼそっと口に出していた。
「減るんじゃなくて……無い、だな」
別の商人も呟いた。
完全に流れが変わったと言いたいのね。
「確かに穀物の木箱、最近持っていないですね」
リュシアが会話を眺めるように、呟いた。
均すのをやめさせたことで、外に回す分がこれまでと変わったのは分かっている。
でも、止めた覚えはなかった。
「私が触れたせいで、動いたものがある?」
あれが最善の結果だと思ったけれども、領域外で変化が起きている。
私は止められたのかな。
「あっ、マドレーヌさん」
階段を上がった庁舎前の広場。
そこにマドレーヌが座っていた。
「おはよう。メリッサさん」
私が声を掛けると、微笑みながら私を見ていた。
「何か悩んでいるのかしら?」
見ただけで、言い当ててしまった。
どう見ているんだろうね。
「まあ、そんなところ」
私は途切れるように答えた。
「実は私が把握していないところで、変化が起きちゃって……」
「そうなのね」
マドレーヌは、私の言葉に頷いた。
「上手くいくと思っていたんだけど」
「優しい決断ほど、後で”優しくない結果”を連れてくるのよね」
すると軽い口調で、そんな皮肉を私に伝えてきた。
まるでずっと前に経験したかのような感じ。
「マドレーヌさんって、そんな事あったりするの?」
「まあね」
でも詳細は言わなかった。
ただ肯定しただけ。
「そうなのね」
私もそう返事しただけ。
何も壊れていない。
それでもーーもう、元の場所には戻れなかった。




