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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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静かな帳簿の違和感

「完全に片付くのはいつになるのかしら」


「分からないですね」


 数日後、私は屋敷の書斎しょさいで書類を片付けていった。

 セシリアは麦湯むぎゆを出して、それを飲んでいく。

 こんなのあるのね。

 麦茶にそっくりな味。

 でも喉は潤うわね。


「次から次に出てきているって事は、ないよね」


 にしても本当、どれだけあるのかしら。

 結構片付けたかったけれども。

 加速かそくスキルでもあったらいいのに。そうなれば、さっさと終わったはず。

 それに何で転生特典が無いんだろう。

 確かに教会でいらないから、『間違ったら止めて欲しい』って願ったけれどね。

 まあ、私がダブルスタンダードになるのは、良くないよね。

 私は誰に言うでもなく、心の中で愚痴ぐちっていた。

 とはいえ、忙しさは感じていなかったけれど。


「農村はまだ、分からないよね」


 宣言してから数日が経っているけれども、すぐに状況が変わるわけじゃない。

 時間が大きく経過しないと、分からない。

 不安はあるけれども、大きくはなかった。

 机の上には書類だけじゃなくて、帳簿ちょうぼが置かれている。

 最近開かなかったけれど、私は帳簿を開いた。


「変わりない、よね」


 帳簿自体の数字は変わっていない。

 これに何か追加されていたら、怖いけれども。


「あれ? セシリア、これに書き込んだの?」


 途中から書かれている部分。

 最近の所に関しては、私は書いていない。

 だから、彼女に訊いてみた。

 セリシアはちょうど、おかわりの麦湯を持ってきていたから。


「はい」


 セシリアは肯定の返事をしていた。


「許可したっけ?」


「しました」


 勝手かなと思ったけれど、私にはこれを書くことは出来ないかもしれない。まだ。

 だから、そのまま通していった。

 言い争っても、解決しないのだから。


備考欄びこうらんもセシリアが?」


「勿論です」


 よく見てみると、備考欄が増えていた。


 『今年度、東の集落は早霜はやじものため作付量さくづけりょうを二割削減』


 『本年は発動条件に該当せず』


 様々な事柄が書かれている。

 色々と今までの書き方とは違っていた。

 数字は同じなのに、”前提”だけが静かに書き換わっているようだった。


「ねえ、セシリア」


「何でしょうか」


 今は書類整理をしていた。

 何も言っていなくて、ただ黙々と作業を。


「この帳簿、前より……書きづらくなってない?」


 するとセシリアは一拍いっぱく置いた。

 いつもよりも、が長く。


「判断が変わりましたから」


 確かに変わったけれどね。

 私が変えたから。


「現場が、考えただけですよ。異常ではありません」


 セシリアは言葉を続けていたけれども、納得なっとくは出来なかった。

 さらに問いかけてみる。


「異常じゃないのに、なんでこんなに息苦しいの?」


 するとさらに空気が変わっていった。

 やがて、重い口を開いていくセシリア。


「……領主様。今までの帳簿は、”迷わないための道具”でした」


 一呼吸置いて、声を継いでいく。


「でも今は違います。あれは”迷っている人が、責任を避けられない記録”です」


 私をじっくりと眺め、はっきりと言い放った。


「……逃げ場がなくなった、ってこと?」


 セシリアは、不味い薬を飲んだような表情を見せて。


「はい。ですがそれは、”今まで誰も背負ってこなかった重さ”です」


 背負ってこなかった重さ。

 今までの領主は別だったのかしら。背負わなかったのか、背負えなかったのか。

 確かめる手段はないけれども。

 ただ、私は戻れないのだけは分かった。

 さらに帳簿を見ていった。


「あれ?」


 最近の以外には、”他国分”という項目があるけれども、セシリアが書いていったところにはない。

 ずっと見落としていたけれども。

 どうしてなんだろう。


「他国分って何?」


「均すために余ったものを出したものです」


 セシリアはそれだけだった。

 それ以上このことで、何も言わなかった。

 私は一旦帳簿を閉じて、書類に手を付けていった。

 やがて仕事は夜まで続いて、結構の量を減らすことが出来た。


「ふぅ……」


 夕食を食べ終わって、書斎からの景色を眺める。

 港町の灯りが見えていた。いつものように……

 いや、何となく違っているように感じた。

 それが何か分からないけれど。


(私は変えた。でも、壊した実感はまだない)


 だからこそ……怖い。


「セシリア……」


 ふと薬草茶を持ってきた彼女。

 私の様子を見て、ただ一言呟つぶやいた。


「もう、元の帳簿には戻りません」

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