朝、均されない村
次の日、私はいつも通りの朝を迎えていた。
空は雲で覆われていて、少し暗めだった。
セシリアがいつも通りの準備をしている。
出かける準備をね。
「今日も農村に行かれるのですね」
「ええ。でも今日は見るだけにするわ」
様子を見るだけ。
私には昨日以上の事は出来ない。転生特典のスキルでもあれば、思いついたかもしれないけれど。
「いつもの光景、かもしれないかな」
ただ昨日、宣言してすぐに変わるわけじゃない。
反応を見るような感じになりそう。
「分かりました」
私は馬車に乗って、農村まで移動していく。
馬車に乗っている最中、私は村人の会話を拾った。
「今年は村の倉、開けないらしい」
「ああ、領主様が『最後の砦に戻す』って」
もう知っているのね。
やがて、馬車は村長の家へと着いた。
「領主様。お加減はいかがじゃな?」
馬車から降りると、村長が出迎えた。
「ええ。良いわ」
「……本当に、均さないのじゃな?」
私の簡単な挨拶を済ませると、モルガンは考え込むように確認のように問いかけてきた。
「ええ。『均さなくても済む間”は」
私の返答に対して、モルガンは反対も賛成の言葉も無かった。
その代わり、ただ一言。
「覚悟のいる判断になりそうじゃな」
「だから、私がやります」
私はメリッサ・ビュージンゲン。
悪役令嬢なのだから。
「領主様がそう考えておられるのなら、何も言いますまい。わしは、ちょっと農作業がありますので、これで」
そう伝えて、モルガンは去っていった。
「……わたしは、その判断が正しいと思います」
少し間が空いた後、セシリアがぽつりと自身の意見を述べていった。
意見は同じだったのね。
「このマドレーヌ辺境領のためになりますでしょうから」
「そっか」
私はそう呟いた。
そのまま集落を見ていく。
思っていたけれども、まだ変わりは無い。
むしろ変わっていたら、ありえないけれども。女神の介入でもあったのかなって思ってしまうくらいに。
「均す必要が無いのか?」
「”向こう”に流すこともないということか」
村人達が雑談をしている。
やはり昨日の事だよね。
続けているのは、私には何のことか分からなかったけれども。
向こうって、東の事なのかな?
「ま、いいんじゃないか」
「だな。余らせていた年があったくらいだからな」
笑いながらまた農作業をしていた。
「来年はどうなるかな」
誰かがそう呟いたが、返事はなかった。
忙しさに流されるように、話題は途切れた。
しばらく私は集落を見ていった後、屋敷へと帰ることにした。
馬車からでも、畑を見続けていた。
このアイゼンポールが枯れることがないように、願いながら。
誰も怒っていない。
だから、怖い。




