農村の解決策
私は夕食を食べ終わった後、書斎で港町の灯りを見ていた。ぽつりぽつりとあるけれども、今日だけは”遠く”感じた。
机の上では帳簿がまだ置かれている。でも、開けなかった。
他にも書類は溜まっているけれども、まだまだ積まれたまま。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
セシリアが薬草茶を置いて、書斎を出ていった。
それを飲んで落ち着こうとする。
身体は温まるけれども、完全には落ち着かなかった。
頭の中で今日の事を整理する。
『均す判断は正しかった』
『飢饉の中で、それしか選べなかった』
『救われた人がいたのは事実』
村長が教えてくれた、過去の農村。
過去の村は、間違っていない。
だから、今の村も間違っていない。
アイゼンポールがあるのは、過去のおかげだから。
正しい判断だった。
そう理解してしまったからこそ、逃げ場がなくなった。
だったらーー更新するしかない。
「ならどうすればいいのか」
これからの解決策を考えていく。
・種籾を再分配する。
これは今を削るだけで、必ず誰かが死ぬ。
・西から東へ回す。
次は西が死ぬ。
・港から買う。
依存が始まって、根本的な解決にはならない。
・女神に頼る。
そんなの本当にいるのかしら。神頼みにしかならないけれど。
「どれも”延命”でしかない」
問題を先送りにしているだけ。
本当の解決っていうのも難しいかもしれないけれど。
「分け方の問題じゃないわね」
昨日の村人の言葉から考えてみる。
アイゼンポールの村人は最初から均す前提で動いていない。
均さないようにしていて、均すのは最後の手段。
それならば前提を捨てればいい。
「だったら、均すのを毎回するというのをやめればいい」
私は紙に解決策を書いていく。
・村の中心にある倉庫は、常用から緊急備蓄に変える。
・各集落の自助判断を認める。
・帳簿を『結果』ではなく、『状況記録』に変える。
・均すのは”非常時の年”に限定し、平年の全面的な均しはやめる。
「耐える努力を隠させないし、それを”なかったこと”にしない」
とりあえず集落での差を前提にした設計にしないと。
・霜の早い東:作付けを前倒しにして、耐寒作物を奨励させる。
・安定した西:余剰を”未来用”として正式に管理する。
・港町と農村で、『来年・再来年を見越した契約を』を結ぶ。
「全体で増やすのをやめる」
均す前提で耐える構造そのものを、ここで終わらせる。
これをやれば、集落差が可視化される。
不満が出てくる。
それに村長の過去の判断を更新することになる。
「でもいい」
失敗したら、責任は自分が被るから。
「誰も悪くなかったから、私が悪者になる」
責任だけは均さない。
私が引き受ける。私は”悪役令嬢”なのだから。
「明日は”配る話”をしない。”作り直す話”をする」
そう決めて、書斎を後にした。




