農村の過去
「毎日行っているけれども、迷惑じゃないかな」
「いえ。メリッサ様は農村のために動いているのです」
「そうなのかな」
「のんびりしていたら、種蒔きの時期が来ますから」
翌日、私は農村にある村長の家へ。
セシリアも一緒に。
馬車をほぼ毎日停めていたから、お世話になり続けているけれど。
「これは領主様、本日も集落の確認ですかな?」
「いえ、あの。この村の歴史を知りたいんです」
私達は集落を見るのではなく、村長に話を聞きたかった。
それを聞いた彼は驚いた表情をしている。
「歴史、とな?」
「どうして均すようにしたのか。そしてそれぞれの集落で独立しているのではなく、一つになっているのか」
私は訊きたいことを、モルガンにぶつける。
するとため息を吐いて、頷くように話した。
「分かったわい。中に入りなされ」
「ええ」
私達は村長の家にある客間へと案内された。
娘のルシアが紅茶を用意する。
「ルシア、これを教会に渡して持ってくるのじゃ」
「はい!」
モルガンは、何かの紙をルシアに手渡すと、教会に行かせた。
どうしたのだろう。
「さて、ルシアが帰ってくるまでに、アイゼンポールの歴史について教えよう。均す事にしたのも分かるはずじゃ」
「お願いします」
モルガンはゆっくりと話していった。
「昔のアイゼンポール……わしが生まれるよりもずっと前じゃが。このように一つの村ではなかった」
「やっぱり」
「東や西、南など、それぞれが自分の種籾、自分の倉、自分の判断を持っていた」
分かれていた時には、独自の動きをしていたのね。
それが自然でしょうし。
「じゃが、ある年に”不運が積み重なり”、飢饉が起きた」
「飢饉……」
今の私にとっては、飢饉という言葉は遠くないもの。前世は遠かったけれど。
それが昔、起こっていたんだ。
「お父様、持ってきました」
ルシアが古い羊皮紙を持って、戻ってきた。
「ありがとう。ここに飢饉の記録がある」
モルガンはそれを開いて、私達に見せる。
「東では早霜、西では長雨、南では害獣。さらには港町のトラブルで交易路も不安定に」
厄災のオンパレードね。
古文書にも書かれているわ。おおよその収穫量だって。極端に少ないけれど。
こんなのどうしようもないじゃない。
『回廊は道を作り、同時に奪う理由を作った』
古文書にはそんな文も。
へぇ、そんなのもあったのね。
「それでも種籾を守り、蒔く量を減らして、自分らで維持するようにした」
だけど出来る限りの対策をしたのね。
「しかし、一番力の無い集落が崩壊した。冬を越せず、寒さと飢えで苦しんだ。だから生き延びようと、人々はマドレーヌの地を命がけで逃げ出した」
残酷な現実。
崩壊がかつて起きていた。
おそらく今以上に。
彼らの末裔はどうなっているのかしら。
「だからこの事をきっかけに、『一つの集落が死ぬなら、皆で少しずつ削った方がいい』と、村を一つにして、倉を一つにまとめ、帳簿を作って、差を見せないようにしたのじゃ」
おそらくこの時点では問題なかった。
しかも、飢饉の経験から考えたものだろうし。
「どうしてそれからずっとこのままなの?」
その当時には問題なかった。
でも時代が変わるにつれて、制度疲労を起こして、使えなくなってくる。
だから変えたって良かったと思うのに。
「均したことで、誰も死ななかった年があった。その成功からじゃ」
上手くいっていたのか。
「『あの時、均したから助かった』、それが村の共通認識になった」
成功の経験が今日まで続いているのね。
それでもぎりぎりなんとかなっていた。
「ただ人が増えたことで、集落の差が拡大して、それぞれの気候の差がより顕著になったのじゃ」
明らかな疲労を起こしていた。
格差がより出てきている。
「均すのをやめるということは、あの日の判断を否定することになる。それをしたくないのじゃ」
私は何も言えなかった。
「わしらはな……また”選ぶ側”に戻るのが怖いんじゃ」
俯いたまま、モルガンは話した。
「……昔は、そうするしかなかったのです」
セシリアは多少なりとも知っているかのように、呟いた。
彼女は知っていた。でも、答えは言わない。
(村は正しかった)
もし私が、その年の領主だったとしても、きっと同じ判断をした。
そして今も正しい。
でも、前提が古くなってしまった。
だからこそ、変えないと。
『神は、道を示さず。選びしは、常に人であった』
私は古文書の最後にあった文を見た。
つまり、選択するのは神様じゃなくて、私達ってことか。
変えることは、過去を否定する事じゃない。そう信じている。




