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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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3/22

追放当日

「朝になりましたのね」


 天気は青空。朝の光が眩しい。

 王都の景色はいつもと変わっていない。

 テンプレみたいに晴れてるくせに、私の気分だけはどんよりだ。

 今日、私はこの屋敷……王都を離れて飛び地のマドレーヌ辺境領へ行くのだから。

 もうこの屋敷で寝ることも、おそらくは無い。

 たった二日だけか、記憶が戻ってから。

 一昨日の夜に思い出して、今日追放って。テスト前日に教科書渡すのと同じでは?

 赤点にさせるような。


「おはようございます」


「ええ、おはよう」


 私は下に降りて、簡単な朝食を食べる。

 メイドが挨拶をしてくれる。

 冷たいような感じだけれども、こうなるに相応しいかもしれない。

 屋敷の中はいつも通りに流れているけれど、私の周りだけ時が止まったようだった。

 それにしても朝食が、いつもよりも少ないような。

 待遇が悪くなっていない?

 時計の音だけが、いつもよりも響いているし。

 まるでその時を待っているかのような。

 ドアの前には、準備した荷物が置かれていて、馬車に詰め込む用意が出来ている。


「はいーーお嬢様、お迎えです」


 やがて執事がドアを開けて私を呼んだ。

 ついにここを離れる時間になってしまった。


「メリッサ・ビュージンゲン、王家の命令でマドレーヌ辺境領に向かう。馬車に乗り込むように」


「分かったわ」


 ドアの前には監視であろう兵士が立っていて、屋敷の前に馬車が停まっている。

 やはり殿下の言ったとおり、馬車は小さかった。

 とりあえず見送りのために執事だけが立っている。


「ご幸運を」


「ええ、あなたこそね」


 それだけ伝えて、執事は背を向けて、日常業務に戻ってしまった。

 他に見送りに来てくれるメイドも居なくて、静かな出立。


「……行きましょうか」


 荷物を馬車に詰め込んで、私は乗り込んだ。

 扉が閉められて、もうこの屋敷には戻れない。扉を閉める金属音が王都から私を離れさせた。


(うわ、本当にこのルート直行コースなんだ。公式ルートすぎない?)


 馬車はビュージンゲン邸を離れて、飛び地であるマドレーヌ辺境領へと向かっていく。

 最初、屋敷が王都の中にあることもあって、王都の市街地を走っていた。

 いつも見慣れた景色だけれども、離れることになると違って見えた。

 見慣れたのは、メリッサとしての記憶だけれども。

 人々が行き交っていて、日常が流れていく。

 お店では商品の売買が発生し、楽しそうな会話をしている。

 あそこのお店って、いつも私が利用していたっけ。

 もう行けなくなるのね。

 この街並み、最初で最期に体験した帰省と違って”懐かしむ未来”すら無いの。

 けっこう寂しいね。

 この石畳の道だって、馬車を使ったり歩いたりしていたけれどね。

 やがて王都の門が見えてきた。ここを通れば、王都からは離れる。


「ねえ誰か、『冗談でした』って言わない? 言わないよね、はい知ってた」


 私は誰にも返答する訳じゃ無いのに、独り言を喋っていた。


「……もう、出るのね」


 人や馬車の出入りがあるから、門も日常が流れている。

 兵士が立っているけれども、問題がありそうな人物を止めていて、簡単なチェックのみで済ませている。

 この馬車も一度停車して、兵士に書類を見せていた。


「マドレーヌ辺境領へ向かうのだな」


「ああ」


「よし、通れ」


 簡単な会話の後、何も調べられず、馬車は門を通っていく。

 門自体は大きいから、門の影に入って馬車の中が少しだけ暗くなる。

 馬車自体は、王都から郊外へと進んでいく。

 門を通っていったら、人の流れは少なくなった。門の外にも建物はあるけれど、主に平原が広がっている。

 そして私の背後に王都があり、馬車は少しずつ王都から離れていった。


(あ、ほんとに”終わった側”なんだ、私)


 門にある王家の紋章がまだ見えている。

 これに縛られていたのか、守られていたのか、分からないけれどね。

 まだしばらくは馬車の窓から王都は見えているけれど、少しずつ見えなくなっていく。

 転生後から過ごしてきた王都は、もう過去のものへとなっていく気がした。

 静かに馬車は進んでいく。

 私は地平線に消えていく建物の輪郭や塔を見ていた。

 時間が経つと、馬車からは王都の景色は見えなくなり、ついに私は王都から完全に離れてしまった。


「もう見えなくなったわ……」


 目を凝らしても、王都の街は見えていない。

 地平線の先になってしまったのね。


(……遠くなっちゃったな)


 ゲームで見ていた光景、もう戻れないのかな。

 やがて石畳から土の道へ。揺れも大きくなっていく。

 馬車の走行音も変わっていった。

 私は揺れに身を預けながら、王都の事を考えていた。

 でも静かすぎる馬車の中と一定のリズムが、私を眠気を誘っていく。

 まるで電車の中でうとうとするかのように。

 窓の景色だって、単調な草原や山脈が見えているのみで、変わらない。

 まぶたが重い。


(いやいや、人生の節目で寝るなって話なんだけど、眠いものは眠い)


 考えている事だってぼんやりとしてきてしまう。

 何かを考えていたはずなんだけれども、思い出せない。

 起きたら全部夢オチ、とかは、もちろんないよね。

 そんな都合良いことなんてないはず。


(ああ、ずっと寝ていたい)


 首や肩の力が抜けていく。

 私はやがて眠りに入ってしまった。

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