均す前提
「貴女は、本当についてくるのね」
「ええ。見届けたいのですから」
私は三日連続で農村を訪れていた。
セシリアも一緒に。
馬車を村長の家に停めて、それぞれの集落を見て回ることに。
モルガンは今日、一緒じゃない。村長の仕事があるというのもあるから。
私達は村長の家に停めさせてもらって、そこから道案内も含めて、ルシアと一緒に集落へ。
「村人は普段通りの作業をしているわね」
「そうですね」
「この時期には、特にこんな感じですよ」
乾いた土を均し、平らにしていた。
種籾袋を運んで、納屋で選別していく。
ルシアの説明で、私は納得する。
私が前世で見たものを思い出すと、多少はこんなのを農家の人がしていたっけ。
「いつもの光景、なのかしら」
ぼんやりこの様子を見ながらも、何か頭の中では別のものが。
(帳簿も、倉庫も、集落差も見た。なのに、まだ何か引っかかる……)
でも、答えが出てこない。
難しい。けれど、すぐには思い浮かばないのは当たり前。
悩んでいると、若い農家の男性と年配の女性の声が聞こえる。
「今年は、うち三袋でいいですよね」
「ええ。東が早霜だったから、今年はそっち優先で」
私はそれを聞いた途端に、足を止めた。
何のことだろう。
(三袋? 何の三袋? 誰が決めたの?)
次々と疑問が湧いてくる。
答えが出てこないのに、分からないことが出てきている。
私は二人に問いかけることにした。
「ねえ、その数は誰が決めたの?」
一瞬だけ、空気が止まった。
ルシアも驚いている。
「え……毎年、だいたいこのくらいなので」
農家の男性は、戸惑いながら答えていた。
私の目とはそんなに合わせず。
「決めてるというより……減らしていく感じですかね」
今まで知らなかった事を、言っていた。
私は理解が追いついていない。
(……助け合い、じゃない? いや、違う)
「村で決めた数じゃないの?」
「そうですね。ただ、村の倉庫は”最後の砦”ですから」
最後の砦。
この人達はそう認識しているのね。
「そこを使う前に、各集落で削れるだけ削るんです」
年配の女性は当たり前のように言っていた。
「均すのは、最後ですから」
私は平然としたこの様子に、言葉を失った。
どうして?
均すのが前提じゃ、なかった?
(昨日の疑義。ある意味、正しかったんだ)
前提を疑う。その”向こう”ある答えが、ほんのちょっとだけ見つかったような気がする。
私は女性の発言に驚きはあるものの、否定はしなかった。
帳簿は最初から均す前提だった。
でも、この人達はーー均さないで済む限界まで、耐えている。
「だから、帳簿に書けないのです」
あの二人の会話を終え、また歩き出すとセシリアがぽつりと呟いた。
私はそれに頷いた。
「数字にすると、均した後しか残らないから」
そう口にしたら、遠くの畑を眺める。
アイゼンポールの農地が広がっている。
均す前提、そのものが――最初から、村には無かった。疑うことが正しかった。
最初は私も、均すしかないと、思っていた。
でもーー均さない努力が、ずっと続いていた。
私は、その努力を数字に出来ないからという理由で、”問題”だと思っていたんだ。




