向こうの答え
モルガン村長と別れた後、馬車で屋敷に戻ったら夕方になっていたので、夕食を食べることにした。
「美味しかったわ」
「ありがとうございます」
動いたからなのか、料理はいつもよりも美味しく感じた。
食べ終わると完全に空は真っ暗になっていて、星が見えていた。
屋敷の中は静かな時間が流れていた。
「ふぅ……」
書斎へ行って、窓を開ける。
風の音と微かにする港町の生活音が耳に入ってくる。
こっちものんびりしているのね。
農村とは違う時間の流れがそこにあった。
しばらくこうしていたい気分ではある。
「…………」
ふと机の上を見てみた。
そこには、あの種籾の帳簿があった。
でも、私は開かなかった。というよりも開けなかった。
指先が触れかけたのに、手を引っ込めてしまった。
(もう、数字の意味は分かっているから)
これ以上見ても、新しい事実は出ない。
私はほんのちょっとだけ、この種籾にある問題からは手放した。
「お嬢様、温かい薬草茶です」
「ありがとう」
セシリアはカップに入れた、良い香りのするお茶を持ってきた。
お茶って言っても、お茶っ葉で作っているものじゃなくてハーブティーみたいなもの。
それをゆっくりと飲む。
独特な味と共に心が温まるようだった。
「……誰も間違っていなかったわ」
私はセシリアに向けて呟いた。
「はい」
セシリアが頷いた。
「それでも、続けたら壊れる」
ゆっくりと解決方法が消えていって。
「……はい」
セシリアは頷くだけで、特に具体的なことは言わない。
彼女が何を考えているのかは、分からない。
「あの、メリッサ様。お休みはもう少し後になられますか?」
「そうね。私としては、もうちょっと考えているわ」
淹れてもらった薬草茶のおかげかな。
少しだけ、考えに耽りたくなった。
「分かりました。ですが、悩みすぎないようにしてくださいね」
「ええ」
セシリアはそう言って出ていった。
それから書斎はまた一人に。
「綺麗ね」
窓からは音だけじゃなくて、港町の灯りが見えた。
ぽつぽつと、点のような感じに。
前世の夜景とは大きく違っている。
でも、それも魅力だった。
「答えは近いようで遠いのかな」
アイゼンポールは、均すことで皆を守ってきた。
でも、均すだけじゃ、いずれ誰かが落ちる。近いのかもしれないし、まだ余裕があるのかもしれない。
だけど、均さなかったら、今落ちる人が出てくる。
「どうしたら良いんだろうね」
答えは海の向こうにあるのかしら。
それとも、山の向こうかしら。
だからこそ近いようで遠いのかしら。
「でもさ……」
量をどう分けるか、じゃなくて。
誰がどれだけ耐えられるか、でもない。
「そもそもこの”均し方”そのものが、限界なんだ」
今まで何とかなっていた。
だからこそ続けていた。
それを変えるべきかもしれない。均すのをやめるわけじゃない。
”向こう”にあるものは、何としても行って見つけなければ。
「均す前提を、疑うしかないのね」
数式で説明できる問題なら、もう答えは出ている。
でもこれは、そういう種類の問題じゃない。
私は夜風を浴びた後、書斎を出て寝室のベッドへ入る。
明日もう一度、農村へ行く。
ただそれは”帳簿のため”じゃない。
見つかりそうな”向こう”にあるものを、見つけるために。
でも、急がない。急いだら、見つかるものも見つからないから。




