東の集落、西の集落
私達は東の集落に向かうことにした。
状況をより確認したいため。
「この辺りが、東の集落じゃ」
モルガンがそう説明した。
東の集落は、丘陵にあるなだらかな土地だった。
風が吹いていて、他の場所よりひんやりとしている。
「この風で分かるとおり、風の通り道になっています。それが霜を早くしている原因です」
ルシアに説明されてそう感じた。
東の集落は、秋の初めだけれども、涼しすぎるくらい。
まあ、転生前だったら秋でも暑かったけれども、こっちは普通に涼しい。
「踏み固めているのね」
霜の対策のため、子供達が土を踏んでいた。
誰も何も愚痴を言っていなかった。
「村長じゃが、見ても良いかな?」
「は、はい」
集落にある倉。小さめであった。
そこを見てみることに。
モルガンは集落の男性に許可を取って、中へ。
「少ないわね」
思っていたけれども、倉の中は余裕があった。
いや、余裕があるのがおかしい。
もうすぐ種蒔きの時期なのに。
「今年は蒔く量を減らすつもりでして」
彼はそう答えていた。
それだけ厳しい状況だということなのね。
”出せない”のではなく『出したら死ぬ』それは、この集落の特徴だった。
だから帳簿に載らない。
「正しすぎる判断ね」
「それしか正解がないのです」
この集落を見終わった後、モルガンが話してきた。
限られた正解ね。
「これがこの集落の状況ですね」
セシリアが呟いた。
「……この後、西の方もご覧になりますか」
少しして、彼は迷っている様子で、こう提案してきた。
見せていいのか悩んでいるね。
「ええ。お願いします」
私達は時間は掛かるけれども、西の集落へ。
セシリアは何も言わずに、何かを考えているようだった。
今度は風はそよ風とも言えるくらいで、気温も東の集落と比べて高めだった。
「やっぱり安定しているんだ」
西の集落は畑が広かった。
まだ秋に収穫するであろう作物が、育っている。
「こちらは、霜が発生するのも遅いので」
ルシアが説明する。
倉へ行ってみると、東の集落と比べて大きい。
それがはっきりとしていた。
「では中を」
中を見てみると、種籾の袋が整然と詰まれていた。余裕が無さそうなくらいに。
去年の余りもあるみたい。
「今年は少し多めに回しておいたからな」
と、村人の会話が耳に入ってきた。
「東は出せなかったらしいな」
「仕方ないだろ。あそこは霜がな」
もうすぐ小麦を育てる時期だからなのか、そんな話が。
やはりその事は西の集落にも知られているのね。
「そちらは、領主様ですか?」
とある農家の男性が話しかけてきた。
「ええ」
嘘を吐く必要はないので、そのまま答える。
「村に出す分は、ちゃんと出していますよ。うちは去年、運が良かったですから」
どうやらこの人が、この辺りの代表的な農家みたい。
「自分の家の分は、残して?」
「ええ。来年のために。それを残さないと、家が続きませんから」
そう答えたけれども、この人が言っている事も正しい。
全てが正しい。
だからこそ、難しい状況なのかも。
「もし、来年不作だったら」
私はふと考えに出てきたことを訊いてみた。
すると、一瞬だけ空気が止まった。
「……その時は、村に回せる分は減りますね。東がどうなるかは……」
続きを言わなかった。
言わなくても分かっている。
「さて、戻りましょうかのう」
「そうね」
私達は村長の家へと戻ることに。馬車はそこに停まっている訳なので。
戻る途中、私は考えていた。
東は”今を削れない”。
西は”未来を守れる”。
だから一つの村で均してきた。
だから数字にしなかった。
(これは防いでも隠蔽でもない。生存戦略の最適解だった)
それはまだ現在までの状況。
ただ、これ以上続ければ、”均しきれない年”が必ず来る。
「ここ、悪い人はいなかったわね」
私はセシリアに話しかける。
「はい。誰も間違えていません」
「だから地獄なのね」
セシリアは否定しなかった。
それは彼女が言い続けていたのもあったけれど。




