再びの農村
「セシリアも行くのね」
出かける準備をしているとき、セシリアも出かける準備をしていた。
「はい。本日もメリッサ様と一緒に見届けたいのです」
私達は翌日、再びアイゼンポールへと向かった。
数字の話はしないことを決めて。
馬車は昨日行った、村長の家の前へ。
「これはこれは、領主様」
「領主様、こんにちは」
村長のモルガンが出迎えた。
娘のルシアも一緒に。
「昨日来たばかりだけど、また」
「もう一度、来られるとは思いませんでしたな」
確かにそう思うよね。
私も行くなんて思っていなかったけれど。
「今日は、帳簿の続きを見に来た訳じゃないの」
「ほう」
モルガンは表情を変える。
興味深いと言っているような感じの表情。
「”数字にならない話”を聞きに来ました」
私がそう話した途端、空気が一段と静かになったような気がする。
変えた表情のまま、モルガンは村を案内した。
「馬車はわしの家で停めておく形で、問題ないからのう」
「ええ。それは助かるわ」
しばらくは農村を歩く形になる。
だから、変な場所に停めておいたら面倒になるから。
「倉庫は確認しなくて大丈夫かのう?」
「昨日見たから、変動はないでしょうし」
私は畑を見ながら、モルガンに質問していく。
娘のルシアも同行している。
「この村、畑は全部同じくらいの広さですか?」
「いや。土地の質も、家族の人数も違いますからのう」
確かにそっちの方がおかしくない。
ならば……
「じゃあ、種籾の持ち方も、同じじゃない?」
規模や人数が違うならば、減る量は一定じゃない。
多い場所もあれば少ない場所もある。
私がそれを言った途端、モルガンは一瞬だけ言葉に詰まらせた。
そしてセシリアも視線を逸らしている。
「種籾は、基本的には村の倉庫で管理をしている」
「つまりあの倉庫ね」
昨日見た倉庫の事ね。
「そうじゃ」
肯定するモルガン。
でも私は彼が言った言葉に、引っかかった。
「あの、”基本的には”?」
「……緊急時に備えて、各家でも多少は」
訊かれたため、モルガンは話した。
確かに全部だと倉庫がダメになったり、盗難といったリスクがある。
それを回避するために、それぞれあるのはおかしくない。
「でも、東の集落は去年、霜が早かったから」
ふとルシアが呟いた。
「ルシア」
それをモルガンが静止しようとしていたが、一拍遅れていた。
「だから、あそこは種、出してないですよね」
彼女の言葉で、私は動きが止まってしまった。
何かとんでもないことを言っていない?
「ねえ、”出してない”って、どういう意味?」
私は落ち着きながら、ルシアに問いかける。
「え?」
「村の倉庫に、出してないの?」
沈黙が流れた。
そして、モルガンが口を開く。
「必要な分は、各集落で判断しているのじゃ」
「つまり霜が早い集落は、種籾を自前で持つ」
私は考えを整理していく。
このアイゼンポールは、範囲が広くて場所によって気候に差が出ている。
そこに種籾の差も出ている。
「余裕がある集落は、村に回す」
「はい……そうです」
ルシアは肯定の返事をした。
「つまり、村長の倉庫にあるのは”全部”じゃない。でも、帳簿には”全部ある前提”で書かれている」
私がそう言うと、モルガンは深く息を吐いた。
「書けなかったのじゃ。集落ごとの差は、”不公平”になりますから」
「足りないんじゃない」
「え?」
「”分かれている”だけね」
やっと問題が分かった。
そこに農村アイゼンポールという特徴がある。
一つの村になっているのは、全てを守るためにあるから。
「怒られますか?」
歩きながらルシアが問いかけた。
「いいえ」
私ははっきりと答える。
「怒るとしたら、”見なかったことにした人”だけよ」




