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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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帳簿に書かれていないもの

「どっちも正しいのに、どっちも詰んでる」


 屋敷に戻ったときも私は、そんなことを呟いていた。

 さらにはそれが頭の中で反芻してくる。

 本当、答えが出てこない。


「メリッサ様、おかえりなさいませ」


 書斎へ向かう途中、セシリアとすれ違った。

 一旦は彼女とすれ違うだけ。

 別の仕事もあったのかな。

 私はそのまま書斎へ。


「種籾、解決出来ない……」


 机の上には、閉じられた帳簿。

 港町へお出かけする直前の状態のまま。

 ペンだってそのままで。

 私は椅子に座りながら、また帳簿を見ようとするけれども、手が伸びなかった。

 時間が少し過ぎていく。


「はぁ……」


 私は窓を開けて、空気を入れ換えると同時に気持ちを入れ替えようとした。

 風はそんなに入ってこない。

 港からの音がほんのりと聞こえてくる。


「これも良いわね」


 私は少し気を紛らわせるように、音を聴いていた。

 少しすると、ドアがノックする音が。


「は、はい」


「メリッサ様、また帳簿を見られているのですか?」


 セシリアは紅茶を持ってきて、書斎に入ってきた。

 精神安定用なのに。

 私は言っていないけれども、すれ違った時に見ていたのかな。


「そのつもりだったんだけど、手が伸びなくて」


 乾いた笑いを見せながら、セシリアに話していく。

 顔が疲れているのかな。


「今日は、見ない方がいい顔ですね」


 やはりセシリアは、見ていたんだ。

 嬉しいかな。


「そうかもしれない」


 セシリアの言うとおりかな。

 これ以上、今日は見ない方がいいかもしれない。


『急ぐと、だいたい”取り返しのつかない方”を選びますから』


 マドレーヌが言っていた事が、頭の中で響いた。

 だからこそ、無理に今日見たって、答えなんか出てこない。

 私は紅茶を飲みながら、落ち着くことにした。


「でもさ……数字が、正しすぎるの」


「どういうことですか?」


 私の呟きに対して、セシリアがきょとんとしていた。

 それに続けるように私から、自分でも驚くような言葉が。


「帳簿ってさ、正しいはずなのに、現実が全部入ってない感じがするのよ」


 まるで二重帳簿みたいに。

 セシリアはすぐに答えなかった。

 一拍置いて答えた。


「”書けるもの”しか、載っていませんから」


 彼女のこの言葉、何かを知っているのかしらね。

 でも答えてくれなさそうだけど。

 少しすると、私の中である仮説が生まれてくる。


「じゃあ、書けないものがある?」


 思い出してみる。

 村長の倉庫に”空き”があった。

 種籾の袋の置き方が均一ではなかった。

 『運が良ければ』という言い回し。


「どうでしょうか」


 セシリアは言葉を濁していた。


「そっか」


 私は呟きながら気づいた。


「足りない、じゃない。見えているものだけが、全部じゃない」


 そしてはっきりと言葉に出した。

 私は海に出ている氷山だけを見ていた。海中に沈んでいる部分は見ていなかった。

 沈んでいる部分も多いのに。


「……もう一度、聞き取りをしたいわ。今度は、”数字の話をしない”聞き取りを」


 するとセシリアは驚いていたけれど、すぐに頷いた。


「それなら、農村の人も話しやすいでしょう」


「ええ」


 少し元気が出てきた。

 今日行ったけれども、明日も行きましょう。


「”数字の話をしない”というのは、生活の話を聞く、ということですね」


「うん。余ってるか、足りてるかじゃなくて。”何を怖がっているか”を知りたい」

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