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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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マドレーヌの眺める港

 屋敷に戻ってから、帳簿をじっくりと見ていた。

 実際に見ていたらより、解決しないといけないと思って。


「セシリア、解決って早いほうが良いのかしら」


 少なくとも延ばし続けたら、最悪の未来が待っている。

 だから先手必勝で、早く解決すればより良いはず。


「その方が良いですが、メリッサ様は思いついている訳では無いでしょう?」


「ええ、そうよ」


 彼女の言葉は、図星である。

 解決方法なんて、見つかっていない。

 だからこそ訊いたのもある。


「メリッサ様、とりあえず今日は種籾からは離れましょう」


 セシリアが微笑みながら、帳簿を閉じさせようとしていた。

 確かにそうかもしれない。

 戻ってきて疲れているのもあるから。


「分かったわ」


 椅子から立ち上がって、屋敷を出ていく。

 室内で煮詰まっているより、外の空気を吸いたくなったから。

 そのまま丘を下っていって港町へ。

 こっちは、行きやすいわね。


「夕焼け、綺麗ね」


 海の向こうにある夕陽、そして空は水色と橙色のグラデーションを出していた。

 もうすぐ夜になる。

 網を修繕していたり、使った木箱を整理したり。

 そして夜に向けて魚を干していたり。

 昼の喧騒は落ち着いて、しんみりとしていた。


(農村は”来年”を見ていた。港町は”明日”を見ている)


 どっちも間違っていないのが辛い。

 まあ、今の港町は、今日を畳んでいるけれど。


「凪の時間ね」


 今は風を感じない。

 海風から陸風へと変わるタイミングだから。


「良い雰囲気ね」


 庁舎前の広場へやってきて、港の光景を眺めてみる。

 タレスブールに戻ってくる船や、これから出ていく船。

 片付けている人達。

 仕事が無事に終わったみたいね。

 庁舎だって今日の仕事はこれで終わり、かな。

 私は広場を見渡した。

 すると、とある女性を見かけた。


「マドレーヌさん」


 何日かぶりに、この女性に出会ったっけ。

 彼女は籠を抱えながらベンチに座って、朗らかな微笑みの表情を見せ、魚を干すのを見ていた。

 マドレーヌは、何をしていたんだろうね。


「あら、こんにちは。今日は少し顔が疲れてますね」


 私が声をかけると、マドレーヌは微笑みを崩さずに話していく。


「まあ……ちょっとね」


 誤魔化しながら返事をする。

 苦笑いをしているのが分かった。


「今日は天気が良いですね」


「気持ちいいから、のんびりしますね」


 私はマドレーヌと軽い世間話をしていく。

 農村でのことは、言えなかった。

 大きな事だし。


「魚も、そこそこ獲れたみたいですから」


 そっか。それは良かったよね。

 ”今日”が生きられているんだ。


「それなら、私も買おうかしら」


 マドレーヌがそう言っているから、ね。

 前世の私的にも。


「新鮮なの、食べてみたいね」


「ええ。気楽に食べたら良いですよ」


「そうしたいわね」


 気楽ね。

 本当にそんな気持ちになれたらいいんだけど。

 考えていることが深刻すぎるから。


「港は今日を生きてますから。考えると、ちょっと息苦しくなりますよ」


 私の様子を察してか、マドレーヌはそう私に話してきた。

 分かっちゃうのかしら。


「考えるしかないの。農村で種籾が足りなくて、来年以降どうなるか分からないし」


「あら、大変ですね」


 ちょっとだけマドレーヌは驚いていた。


「誰も怠けていない。だけど、どうにもならないの」


 どう考えても解決方法がない。

 だから考えの沼に嵌まっている。


「選ばなきゃいけない状況って、十分苦しいのですね。貴女も」


「そうよ……」


「正解があればいいのですが……ないみたいですから、余計に大変でお辛いのでしょうね」


 マドレーヌは優しく、私に語りかけていく。

 解決方法は言ってくれないけれど。

 正解があればとても良いのに。大学の試験問題だって、正解があった。

 なのに今は、正解がみつからないどころか、無いに等しい。


「でも、迷っているうちは、まだ何も壊していないのは分かります」


「まあ、そうね」


 正解が分からず動けないからこそ、何も変化が起きてない。

 良いのか悪いのか。

 今はまだ分からない。


「港は”今日を減らせない”。農村は”来年を削れない”。どちらも、もう削るところが残っていないですし」


 マドレーヌは少し言葉を選ぶように、港の方へ視線を向けた。

 削るところがない、か。

 減らせないどころじゃないわね。

 この女性も、多少はマドレーヌ辺境領の状況を考えていたりするのね。


「八方塞がりね」


「でも、急がないでくださいね。急ぐと、だいたい”取り返しのつかない方”を選びますから」


 先手必勝も、確実じゃないのね。

 むしろ不正解かもしれないって。


「だから無理はしないでください」


「ありがとう。じゃあ、私は帰らないと」


 空に藍色が見えていた。

 遅くなると、丘への道が見えなくなるかも。


「また、私で良ければ話し相手になりますから」


 マドレーヌは微笑みながら、また港の方を見ていく。


「ええ。また」


 私は広場を後にして、屋敷へと戻っていったのだった。



「あーあ、そこまで見ちゃったか。完璧に、重たいとこ踏んでるわね。

……あー、やだやだ。胃が痛くなるタイプ。

でも逃げない子、久しぶり」

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