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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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農村アイゼンポール

 種籾の問題。

 屋敷の帳簿だけを見ていても、それ以上は進展しない気がした。


「アイゼンポールへ、聞き取りに行くわ」


 だからこそ、次の日にセシリアへそう伝える。

 農村で起きている問題だから。

 実際に見れば、より問題が分かると思うし、解決の緒が見つかる気がして。

 私は帳簿をメモ帳に控えて、出かける準備をする。


「分かりました。わたしも一緒に同行いたします」


「ありがとうね」


 セシリアも一緒に行ってくれるなんてね。

 嬉しいし、彼女が私よりもマドレーヌ辺境領の事を知っているから、助けてくれるだろうし。

 私は外套を着て、屋敷を出た。

 港町とは反対方向で、距離があるから馬車に乗り込む。

 一応これはあるのね。

 結構ボロい感じだけれども。

 坂が多いし、歩いても行ける港町では使わないから。

 逆になだらかな農村へは、馬車の方が便利ね。


「視察っていうより、邪魔しに行く感じにならないかしら」


 馬車に乗って移動しているから、視察感はあるけれど。


「話を聞きに行くなら、邪魔にはなりません」


「そうなのね」


 馬車の窓から、農村の風景を見ていく。

 動いている音だけが、耳の中へ。

 それ以外はあまり聞こえてこない。

 家と畑がセットでぽつぽつとあるけれども、人はあまり見かけなかった。

 納屋の側には干された農具が。

 はっきりとここが農村だというのを感じさせる。


(静か。でも止まってはいない。港町より”先の時間”が流れている)


 やがて農村の中心、村長の家へと馬車は着いた。

 降りると、乾いた土の匂いが鼻に入ってくる。


「これはこれは、領主様」


 村長のモルガンが、私達の前へ。

 微笑で少しだけ固め。


「今日は視察ですかな?」


「いいえ。聞き取りです。決めるためじゃなくて」


 でも、それを聞いた途端に一瞬だけ表情を緩めていた。

 待ち望んでいたのかな。


「ありがとうございます。ではこちらへ」


 私達は倉庫へと案内された。

 中には種籾がたくさんあるが、倉庫を埋め尽くすっていう感じじゃなくて、まだ入れられるスペースが。

 スペースがあるっていうことは、”余裕がない”っていうこと。

 控えを見比べて、去年より明らかに減っているっていうのが実感できた。


「帳簿より、現物の方が正直ね」


 現物の数字は嘘をついていない。


「ああ。帳簿は”今年を越えるため”に書きますからのう」


「来年の分は?」


「運が良ければ」


 それって、神頼みじゃないのよ。

 あの女神様が、来年の分を作ってくれるのかしら。

 だったら良いんだけれども。


「領主様、こんにちは」


「こんにちは」


 家から出てきたのは、モルガンの娘、ルシア。

 私が来たから出てきたのかな。


「畑を増やす話も出ました。でも、種が足りません」


 それって、増産したいけれども、人やお金が無いっていうのと同じじゃない。

 結構、危険な状況ね。


「港から回す案は?」


 難しいかもしれないけれど、種籾を輸入するとか。


「港も”今日”で精一杯ですから」


 そっちはそっちで大変なのね。

 手に入れられるルートもあるとは限らないし。


「ただ、天や女神様に祈る形になりそうじゃな」


 モルガンは何か達観したように、呟いた。

 それしかないのかしら。


「先日伝えたのも、知らせておくべきと思いましてな。それだけです」


「教えてくれて、ありがとう」


 私が感謝を伝えると、モルガンもルシアも戸惑っていた。

 どうしてなんだろう。


「本日は来て頂いて、感謝します」


「ううん、より状況が知れて良かったわ」


 私達は村長の家を後にした。

 帰る途中、教会があったので寄ってみることに。

 港町の教会と違って、建物は古くて石の色もくすんでいた。

 壁には補修の跡が残っていて、同じ形の石が使われていない場所も。

 それでも、崩れないように、誰かが手を入れ続けてきたことだけは、分かった。


(派手さはないわね)


 扉を押すと、きい、と小さく音が鳴った。

 中はひんやりとしていて、土と木の匂いが混ざっている。

 香油の甘さより、干し草や穀物の気配の方が強い。

 正面にある女神像は、港町のものよりも簡素だった。

 細部は崩れ、表情もはっきりしない。

 それでも、像の足元には、布に包まれた種籾の袋や、木札がいくつも置かれている。


『今年も、何とか』


 そんな言葉が、ここに積もっている気がした。

 壁際には、古い年号が刻まれた札が並んでいる。

 豊作の年も、不作の年も、同じ大きさで。

 強調も、装飾もない。


(ここでは、結果を誇らないのね)


 ベンチに腰掛けると、木が軋む音がした。

 誰かが座る前提で、ずっと使われてきた音だった。

 祈る人の姿は、今はいない。

 でも、ここが『人のいない場所』だとは思えなかった。

 私は女神像を見上げる。


「来年のことは、分からないわよね」


 声に出すと、天井に吸い込まれていく。

 返事はない。

 風も吹かない。

 それでも、不思議と、無視された感じはしなかった。


(助けて、じゃないのね)


 ここは助けてほしい場所ではない。

 『覚悟を置いていく場所』なのだと、そう感じた。

 私は小さく息を吸い、目を閉じる。


「何も出来ないなら……せめて、壊させないで」


 それだけを言って、立ち上がった。

 教会を出ると、畑の向こうで人の影が動いていた。

 今日も、誰かが種を蒔いている。

 祈りは、奇跡にならない。

 でも、歩き出す理由にはなる。


「女神は無能なのかしら」


 私はそう呟いてしまう。

 馬車からは作業する人々や、子供が土を踏み固めている姿が。

 来年のことを考えて、今日の仕事をしている。


(誰も怠けていない。だからこそ、危ない)


 でも私にはまだ対策が出てこない。


「ねえ、セシリア」


「はい」


 彼女は淡々と返事をする。


「これ、”誰かの失敗”じゃないわよね?」


「はい。”積み重ねた結果”です」


 積み重ねか。

 因果がずっとながれてきたのね。


「一番、面倒なやつね」

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