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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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港町の教会

「ふぅ……」


 ため息をつきながら、種籾の帳簿を閉じた。


「今日はここまでにしましょう。これ以上は、数字が人を噛みます」


「ほんと、牙あるわよね……行きましょうか、港町」


 噛むってこういうことよね。

 数字って、嘘はつかないけれども。

 でも疲れちゃうのは確かだから、今日はこれで。

 片付けないといけない書類はあるのだから。

 今日やったって、明日やったって、同じなのだから。

 期限が無いようなものだし。


「天気が良いわね」


 丘を降りて港町へ。

 青空が広がる昼下がりの港町。

 忙しい雰囲気が無くて、のんびりとしていた。

 坂道や階段を下りながら、町の風景を見ていく。

 海が近づくにつれて、波の音が聞こえてくる。

 穏やかでずっと聴いていられそう。

 それを彩るように穏やかな生活音が。

 調和していて、ノイズにはなっていなかった。


(これを録音して売り出せたらいいな)


 ”異世界の港町、その昼下がり”ってね。

 まあ、録音する技術も売る方法も無いんだけれども。


「良い匂い」


 とある家からは魚を焼く匂いと共に、昼食を取る漁師が見えた。

 お腹が空くような、ほんわかとした感じ。


「あっ、リュシア」


 荷物を運びながら動いている彼が見えた。

 お昼ご飯は食べたのかな。


(ここは来年じゃなくて、今日を生きている町ね)


 坂を下りていくと、修理中の網も見えた。

 何回か使っているのね。

 そして港の入り口付近、そこに広場があった。

 港へ行ける階段も広場に設置されていた。

 広場からは港も海も見えていて、のんびりと見ていたい気分。


「あっ、ここがタレスブールの中心ね」


 そう思ったのは、この広場に面して港町の庁舎があったから。

 石造りで二階建ての建物。

 ここで町長や書記が仕事をしているのね。

 挨拶をしたいけれども、邪魔しちゃいけないから、今日はやめておきましょう。

 そして広場に面して建てられているのは、庁舎だけではなく教会もあった。


「こっちには入りましょうか」


 教会も石造りで庁舎と同じくらいの大きさ。

 建物の外も中も豪華な装飾は無かった。

 あったのは、漁具や農具の奉納品、そして女神像。

 奉納品は、このマドレーヌ辺境領を支えるものだからだろうね。

 そして女神像……石造りだけど、少しだけ削れている。

 ずっと前に造られたのね。

 入ってみると、港町の音が一段、遠くなった。


「おや、領主様ですか」


「ええ」


 神官がやってきて、私に穏やかな笑みを見せていた。

 もうこの方にも顔を知られているのね。


「どうぞ、好きなだけ休んでいってください」


 好きなだけね。

 神社やお寺でも、そんなに長くいた覚えが無いんだけど。

 あっても法事くらいかな。


「祈り方とか、決まりあります?」


 教会だから私の知識で行うものと違っている。

 だから、この方に訊いたのだ。


「話しかけるだけで充分ですよ」


 でも神官は笑みを見せながら、そう話した。

 私は女神像の前に立って、話しかける。


「来年のことなんて、分からないのに……」


 前世だって、あのままキャンパスライフを送れると思っていた。

 悪役令嬢だったとしても、王都で殿下と結婚出来るものだと思っていた。

 なのに現実は、こうして女神像に話しかけている。


「それでも、今決めなきゃいけないのね」


 だけど、こうなったからには現在と向き合わないと。


「女神様。便利スキルは要らないから……せめて、間違えてたら止めて」


 私の知識なんて限られている。

 他の領主よりも能力が無いかもしれない。

 だからこそ、本当の破滅へと進もうとしているなら、女神様に止めて欲しい。

 軌道修正して正しい道を見つけるから。


「うん?」


 風が入った。

 蝋燭の炎が軽く揺れる。

 海からの風かな。


「この町の女神様はね、助けるより、見てる方が多いんです」


 神官が呟いた。

 女神様が見てるのね。

 私も見ているのかしら。


「見てください。気に入ったら、ちょっとだけ風を吹かせるんです」


 そう言われて首を傾げる。

 本当なのかしら。


「また、迷ったら来てください。こちらはいつでも歓迎していますから」


 教会を出ると、少しだけ心が楽になった気がする。

 言いたいことを言ったからかな。

 何も解決していないけれど。


(答えは出なかった。でも、戻ろう)


 港町の音がまた聞こえてくる。

 それを聴きながら、坂を上っていったのだった。



「あーあ、重たいの拾っちゃったわね。まあ、今回は少しだけ見守ろうかな」

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