農村の挨拶
男性が帰った後、ミカエラがやってきた。
どうしたんだろう。
「農村の村長がご挨拶に来られました」
「分かったわ」
私は向かう途中、セシリアに小声で話しかける。
「農村ってあるのね」
「勿論ですよ。このマドレーヌ辺境領は、港町のタレスブールと農村のアイゼンポールの二つで成り立っているんです」
簡単にセシリアが説明する。
「港町は人口が多いですが、港町も農村もどっちが優位というわけではなく、持ちつ持たれつの関係で成り立っています」
「欠けてもいけないのね」
そう感じた。
この場所はバランスで成り立っているのね。
考えながら、とりあえず応接室へ。
年配の男性と私よりも若い少女が座っていた。
「お待たせしました。領主のメリッサ・ビュージンゲンです」
二人は立ち上がって、年配の男性が頭を下げた。
「わしはアイゼンポールの村長、モルガン・ジローナと申します。こちらは娘のルシアじゃ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
私は頭を下げて、会話が始まった。
セシリアは町長達と同じように紅茶を置いていった。
「新しい領主様がお越しになったと聞きました。遅くなりましたが、ご挨拶を」
当たり障りのない感じの言葉。
何回も経験しているからかもしれないけれど。
「アイゼンポールでは去年より種籾が少ないため、来年の収穫に影響が出る可能性があるのじゃ」
モルガンは現状を私に報告していく。
種籾が少ない以外にも。
それを私は遮ることなく聞いていった。
「失礼ですが、領主様はこれを”問題”だと思われますかな?」
「そうね。確かにそれは思うわね」
何も無いというのはおかしいから。
「では、どうされるつもりですかのう?」
「すぐには動けないけれども、把握はしたいの」
それを聞いて、モルガンは表情を変えなかった。
ルシアは頷きながら聞いている。
「感謝します。ただ約束は要りません。覚えていてくだされば」
頭を下げずそう言った。
これって、期待を裏切られた事があるのね。
「遅くなりましたが、こちらお祝い代わりの手土産として……」
渡してきたのは、小麦が入った布袋。
重みはないものの、ちゃんと入っている。
「今年はここまで育っています」
「ありがとう。是非ともいただくわね」
私は布袋を受け取る。
「もしよろしければ、こちらも。通常のもの食べられますので」
今度は割れた干し肉を。
「良いの。ありがたいわ」
するとほんのちょっとだけ空気が緩んだような気がする。
「少ないと申しましたが、何とか生きているのは女神様のおかげかもしれませんな」
モルガンは天を一瞬だけ見て、呟いていた。
女神がいるのね。
会ってみたいわ。
「さて、領主様もお忙しいようなので、これで」
「本日はお越しいたいてありがとう」
モルガンとルシアが頭を下げたら、私も下げる。
「また、季節が変わる頃に」
そう言い残して、帰っていった。
空になったカップをセシリアが片付ける。
「これで港町も農村も、代表者が挨拶をしたのね」
「そうなりますね」
形の上だろうけれど、しなかったら関係が悪化するかもしれない。
だからこそかも。
「どっちも課題があるのね」
じゃなかったら、ここは天国かもしれない。
そうじゃないから。
「ひとつひとつ解決していきましょうか」
時間はたっぷりあるだろうから。
「港町は”今”を生きている。農村は”来年”を生きているのよね」
どこかで誰かがそう呟いた。




