追放の準備
「荷物って、何を持っていけるのかしら?」
もう一度問いかけた。
私は飛び地へ追放されることになったけれど、絶望はしていない。
しているといえば、している。フラグを折る機会を与えられずに断罪されたから。
とはいえ、もう受け入れるしかない。
破滅後ってどんな感じになるのかしらね。
だからこそ、私は訊きたかった。
「馬車に載るだけ持てば良い。一台だけの小型だが」
配慮なのか制限なのかは分からないけれど。
「ありがたいわ」
にしても載るだけって、どれだけ馬車が小さいのかしら。
だからこそ、殿下はそんなセリフを言っているということね。
「……以上ですの?」
「ああ。私はカメリア嬢と話すことがある、さっさと屋敷に戻って辺境領へ向かう準備をしろ」
話すこと……
何をするのかな。
想像したくても、したくない。
きっと楽しいことなのは分かるけれど。
婚約してその日にね……
私にはしなかったのに。
「メリッサ様、貴女に女神のご加護がありますように」
女神ね。
そんなのが居たら、助けて欲しいわ。
婚約破棄だって無しにしてほしい。
まあ、無理か。
「逃げるなよ。そうしたら、家にも処罰があるということを言っておく。明日の朝までに準備しろ」
そう言って殿下は、そのままカメリアと一緒に行っちゃった。
私はもうこの場には、不要になっているということ。
帰るしかない。
逃げたら処罰があるって、強制だから分かっていたけれど。
「ご命令とあらば」
という事で、謁見の間を出ていく。
扉の音が婚約者だったこれまでと変わったのを感じる。
王宮の入り口に停まっている屋敷への馬車に乗り込む。
私は屋敷に帰って飛び地に向かう準備をする。
「お帰りなさいませ、メリッサお嬢様」
「もう、知っているのね」
屋敷に戻ると、執事やメイドが私の追放のために色々と用意を進めていた。
早いね。とっくに決まっていたということね。
「はい……明日の朝に後出立のようで、急いで準備を……」
「馬車に載るだけって言っていたから、そんなに多くなくて良いわ」
私は彼らと一緒に持っていくものを鞄などに詰めていく。
屋敷の中から、私が必要を思っているものを。
・身分証明の書類
・領地関係の帳簿の写し
・家名・資産の最低限の記録
これらは私、メリッサ・ビュージンゲンとして飛び地でも必要だから持って行く。
私が貴族令嬢として立場を証明するために。
・動きやすい日常着
・防寒用の外套
向こうでの服は必要だからね。
ドレスは……一枚だけにしましょうか。着るタイミングはほぼ無いでしょうけれど。
お気に入りのだけね。
「社交用は、もう使いませんわ」
向こうで舞踏会なんて絶対に無いから、日常生活を送るのに必要なものしか要らないよね。 こっちの方が着やすいから。
・農業、会計、法律の実用書
・昔から読んでいた本
重くはなるけれど、向こうで役に立ちそうな書籍。
おそらく、向こうではこれくらいしか暇つぶしなんて出来そうにないから。
ラノベなんてあるわけないし、ましてやゲームやスマホなんて生まれ変わってから手にしてない。
・文房具
・手帳
・簡単な裁縫道具
・家名の紋章入りのブローチ
「本当にそれだけで、よろしいのでしょうか?」
「勿論よ」
メイドが訊いてきた。
でも、私は頷いた。これくらいで良い。
確かに高いものは、ほとんど入っていない。
宝石箱だって持っていけるだろうけれど、換金出来る場所なんてあるのかな。
無いでしょうね。
ただ置いておいても、価値はそこまで無いのだから。
「さて、明日に備えないと」
遅れたら大変になるし、馬車に揺られるだけになるのだから。
荷造りを終えると、屋敷は異様に静かになっていた。
扉の閉まる音が消えて、屋敷の中は落ち着いているようだった。
と言うことで、荷物を用意し終わって私は眠ることにした。
持ってこなかったもの、どれだけ置いてもらえるのかな。
私がこの時間で、見つけられなかったものもあるでしょうから。
まあ、戻ってこられないけれど。




