洗われた木箱、声を掛ける人物
「これで最後です」
「ふぅ、終わったわね」
私達は何とか全ての木箱を洗い終わった。
木箱は屋敷裏の陽が当たる場所に置いて、乾かしていく。
セシリアが置いた最後の一箱も、ちゃんと陽が当たっている。
塩がついた白が落ちて、ちゃんと木目が見えている。
「これは仕方ないのかしらね」
少々魚の匂いがする。
木に染みついちゃったから、取れなかったのね。
レモンとかがあれば良いんだけれども。
「そうですね。どうしようもないです」
セシリアも諦めていた。
だから、このまま太陽に当てたままに。
とりあえず私は休憩をするため、屋敷の中に入ることにした。
服も濡れて少々汚れちゃったから、着替えたかったし。
「あら?」
着替え終わってまた外に出てみると、見知らぬ男性がやってきていた。
木箱に近づいて、軽く叩いている。
「どうしました?」
私は彼に話しかける。
「……あの、これ」
独り言気味で、ぼそぼそっとしている。
「はい?」
「昨日、港で使った箱ですよね」
「ええ。返ってきたので」
これを知っているって事は、港の関係者かな?
倉庫へ行かなきゃ知らないから。
一拍置いて、男性はまた喋り出す。
「……洗ったんですか?」
「ええ。塩も匂いも残ってたから」
私は頷く。
「港じゃ……洗えなかったんです」
言い訳のように、でも事実として。
やはり関係者だったのね。
「水も場所も足りなくて。返すのが先で」
私はそれを聞いて、少し微笑む。
雰囲気を和らげるために。
「分かってます。だから、ここで洗いました」
「……怒られると思ってました」
「怒る理由がありません。使って、返ってきた。それだけです」
私は首を軽く振りながら、男性の言葉を補足する。
それを聞いて男性は、しばらく木箱を見ていた。
「前は……返すときには、”綺麗にして返せ”って言われるだけでした」
貸していたんだ前も。
「そうなのね」
「だから、正直に言うとーー洗われてるのを見て、驚きました」
男性は少し照れたように、話していった。
「箱じゃなくて……”人の判断”を見てもらえた気がして」
人の判断ね。
空気が少しだけ静かに変わった気がした。
私は少し考える。
「道具も、人も、使えば汚れるでしょう?」
独り言のように彼へ伝えていく。
「でも、ちゃんと戻ってくるなら、それでいいと思うんです」
「……ありがとうございます。次は、洗って返します」
はっきりとした言葉で、深すぎない感じで頭を下げた。
そして彼は屋敷を去っていった。
「……港で、話しておきます」
去り際には、そんな言葉を残して。
「一人、増えましたね」
去ったあと、セシリアが小声で話しかける。
「何が?」
「”言ってもいい人”だと、思う人です」
微笑みながら彼女は呟いた。
「箱一つで、ここまで変わるとはね」
少し離れた場所。
ため息混じりなのに、嬉しそうだった。
「ほんと、地味で、面倒で……だから、好き」




