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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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木箱を洗う二人

 屋敷の裏手、井戸の側。

 返却された木箱がいくつか並べられていた。

 私は袖をまくり、桶を井戸の中に入れて水を汲む。


「……こうして見てみると、結構使い込まれているわね」


 塩の白い跡。

 魚の匂い。

 角の擦れ。

 それに昨日以外にも屋敷で使われたであろう、傷とかも。

 生きた道具の顔をしている。


「港では、箱はだいたい消耗品扱いですから」


 セシリアが、同じように袖を上げながら言った。

 私より慣れた手つきで、布を水に浸す。

 井戸からくみ上げたのもあって、ひんやりとしていた。


「それでも、ちゃんと返してきた」


 借りパクされても、たぶん怒れなかったと思うけれど。

 絞ったら木箱を拭いていく。

 汚れが布についていく。

 布越しでも、木のささくれが指先に引っかかる。


「ええ。返すか、黙って使い続けるかで迷った人もいたと思います」


 また布を桶の中に入れる。

 桶の水が、少しずつ濁っていく。

 汚れが溜まっているのね。


「でも、返してきたのね」


「はい。迷った末に」


 その言い方が、少しだけ面白かった。


「……私、昨日、何か間違えたかと思ったのよ」


「どうしてですか?」


「『次に困ったらまた言って』なんて、甘すぎるかなって」


 布を絞ると、水が落ちる音が静かに響く。


「甘い、とは思われていません」


「じゃあ?」


「……『試していい人』だと思われています」


 一瞬、手が止まった。


「試されているの?」


「はい。でも、それは悪いことではありません」


 セシリアは淡々と続ける。


「この領地では、頼る前に一度試すのが普通です。壊れないか、逃げないか、怒らないか」


「ふうん」


 不思議な土地柄ね。

 マドレーヌ辺境領の過去がそうさせたのかしら。


「昨日の判断で、少なくとも三つは通過しました」


 私は思わず苦笑した。


「……試験、難しくない?」


「地獄に慣れた土地ですから」


 またそれだ。

 どれだけなのよ。

 だからこそ、殿下は追放先に選んだのかもしれないけれど。


「でも、今日こうして箱を洗っているのを見たら……」


 セシリアが、少しだけ言葉を選ぶ。


「『言っても大丈夫だった』と、思う人が増えます」


 セシリアの声が、ほんの少しだけ柔らかくなった。

 私は箱の底を洗いながら、小さく息を吐いた。


「そっか。じゃあ、この作業も無駄じゃないのね」


「はい。とても意味があります」


 洗い終えた箱を、陽の当たる場所に立てかける。

 水滴が落ちて、木箱が少し明るく見えた。


「ねえ、セシリア」


「はい」


「この領地、ちょっとずつだけど……」


 言葉を探す。


「息しやすくなってる?」


 セシリアは、少しだけ微笑んだ。


「ええ。昨日より、今日の方が」


 それだけで、十分だった。


 メリッサとセシリアが木箱を洗いながら会話をしている様子を、少し離れた場所から見ている誰かがいた。


「箱を洗うだけで、空気が変わるなんてね」


 楽しそうな、でも少し懐かしむ声。


「ほんと、面倒で……好きよ、こういうの」


 風が、干された木箱の間をすり抜けていった。


「……前は、これが出来なかったのよね」

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