新鮮な魚と木箱
「お疲れ様でした」
私は屋敷に帰ってきて、一息ついていた。
セシリアも一緒に。
「ねえ、この魚なんだけど、焼いてもらえるかしら?」
私が持っているのは、朝市で買ってきた新鮮な魚。
メリッサ・ビュージンゲンとして食べてきた魚って、塩漬けの魚か干し魚くらい。
もう保存用に加工されているものばかり。
内陸国のマリーデグリー王国、その王都に住んでいたから、食べられる魚ってそんなものだけ。
だからこそ、塩漬けにしていない魚が食べたかった。
「良いんですか? 昼食はまだ先ですが」
セシリアに頼んで、焼いてもらうことにした。
「ええ。歩いたからちょっと食べたくなったから」
それは嘘じゃないからね。
動いているから。
「分かりました」
セシリアは魚を持って調理場に持っていく。
しばらくして、焼き魚の良い香りが鼻に入ってくる。
皿にはほどよく焼かれた魚が。
塩漬けじゃない魚を食べるなんて、ここに来て初めてだ。
「お待たせしました」
「いただくわね」
私は焼き魚を食べていく。
味はほくほくとしていて、塩味がちょうど良い。
ああ、こんな新鮮な魚って前世ぶりよ。
思い出されてくる。
IHのグリルで焼いた秋刀魚の塩焼きや、ぶりの照り焼きとか。
「美味しかったわ」
「良かったです。このマドレーヌ辺境領では、こういったのも食べられますからね」
「ふふ、たまには食べたくなるわ。この味」
もしかしたら、前世の私をより結びつけるかもしれない。
定期的に買って、食べようかしらね。
「メリッサ様、よろしいでしょうか?」
食べ終わって落ち着いたタイミング。
ミカエラがやってきた。
「どうしたの?」
「港町から一件、ご相談が」
「相談? 苦情じゃなくて?」
どんな事なんだろう。
「苦情というほどじゃないんですが、現場が止まりかけています」
来たな。
”小さいけれど、放置できないやつ”。
対処しないとね。
「それで、港の人とかは来ているのかしら?」
「はい。既に来られています」
だから相談しにきたのね。
ミカエラが行ってというのも変だから。
「行きましょう」
私は港の人が待っている応接室へ。
「突然のご相談で申し訳ありません、領主様。私は港の倉庫で働いている、ベイルートと申します」
若めの男性が座っていた。
「それで、どういった事なの?」
挨拶もそこそこに、用件を聞くことにした。
「はい。昨日は波が穏やかで、思ったより獲れまして。予備の箱は、先週の修理で使ってしまって……帳簿上は足りてるんですが、実物がなくて」
そっちでも帳簿と現実が合っていないのね。
どこでも同じか。
「今日使う分は、あと何箱必要なの?」
「少なくとも五箱は必要です」
五箱ね。
そこそこまとまった数になっている。
「午後まで待てば解決するの?」
「とりあえずすぐには難しいかと。それに、今日中じゃないと、魚が傷みます」
確かに時間が経てば用意出来る、とは限らないからね。
「じゃあ代わりになるものは?」
「それも考えましたが、樽だと重すぎて……」
うん、詰んでるわねこれ。
小さく。
「じゃあ、屋敷にある使っていない木箱を貸してあげる。使い終わったら返せばいいから」
倉庫にはそんなのがいくつもある。
数は多くないけれども、今日の木箱を賄えるくらいにはあるはず。
「良いんですか?」
港の人は驚いている。
「いいの。使っていないし、有効に使えるならね」
私がそう言うと、港の人は表情が緩んで肩が落ちる。
「分かりました。他の人も呼んで持っていきます」
少しして屋敷の倉庫から木箱が運び出されていく。
それは港町の倉庫へと。
「あなたも手伝っているのね」
人員の中には、リュシアも。
彼の得意なところでもあるから、手伝っているのかな。
「助かりました。ありがとうございます」
木箱は運び出されていって、港町の倉庫では作業が再開されていった。
私は気になったから様子を見てみることに。
するとほっとした表情をしていて、この事が上手くいったと思ったのだった。
「今日は”応急処置”。明日以降は別で考えましょう」
私は帰り道、そう呟きながら屋敷へ。
遠くから誰かが見ているような感じがしたけれども、分からなかった。
「判断が早い。やっぱり、見てて飽きないわね」




