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転生特典なし悪役令嬢、辺境でなんとか暮らしてます 神様、便利スキルはいつ届きますか?  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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15/22

港町の朝市

 町長達が帰った後、私は少しだけ考えてからセシリアに声をかけた。


「ねえ、今から朝市に行っても大丈夫かしら」


 挨拶もあって、朝は少し過ぎている。

 だからタイミングがずれちゃっているのかなって思ったけれど。


「問題ありません。時間的にも、ちょうど良い頃です」


 即答だった。

 止められない、というより『行く前提』みたいな返事。


「公式の場じゃなくていいのよ? ただ歩いて、見るだけ」


 昨日みたいな感じで。

 ただの町民みたいな風に。


「それが一番、この町らしい見方です」


 セシリアはそう言って、外套を差し出してくれる。

 私はそれを受け取って、屋敷を出た。

 丘を下ると、港町はすでに動いていた。

 昨日の朝よりも、少しだけ賑やかだ。

 木箱を並べる音。魚の匂い。

 声を掛け合う人達。


(あ、ちゃんと”市”だ)


 市場、と呼ぶには小さい。

 広場の一角と、港へ続く道沿いに露店が点々と並んでいるだけ。

 でも、どの店にも人がいる。


「おはよう」


「今日は波が穏やかだね」


「これ、昨日より安いよ」


 誰も大声を出さない。

 呼び込みも控えめで、顔見知り同士が淡々とやり取りをしている。


(売る場所っていうより……生活の延長ね。これ)


 魚を並べる中年の女性。

 干物を返す手つき。

 野菜籠を抱えた子供。

 その中に混じって、昨日会った少年がいた。


「あっ、メリッサさん」


「おはよう、リュシア」


 声をかけると、少し驚いた顔をしてから、照れたように笑う。


「メリッサさんが新しい領主様なんですね」



「今朝、港で町長さんが話してました。失礼の無いように、って」


 港で町長がね。だからリュシアは私が領主って知ったんだ。

 まあ、そうじゃなくてもこの港町的には、どこかで伝わるかもしれないけれども。


「もう来たんですね。朝市、初めてですか?」


「ええ。見学だけ」


「それが一番ですよ。買いすぎると、持って帰るのが大変ですし」


 現実的な忠告だった。


「仕事中?」


「はい。今日は荷運び少なめで、市の手伝いです」


 そう言って、空いた木箱を積み直す。

 子供の仕事、というより、普通に”労働力”。


「リュシアって、いくつだっけ?」


「十五です」


「へぇ~、若いのね」


 やはり私より何年か若い。


(十五歳でこれか……そりゃ、生活力も高いわよね)


 元の世界だったら中学生くらいだよね。

 それなのにこんな働いているなんて。

 少し歩くと、声をかけられた。


「おや、新しいお屋敷の方だね」


 魚屋の男性だった。

 日に焼けた腕、穏やかな目。


「はい。メリッサです」


「ほう。じゃあ、これ見ていくといい。今朝のだ」


 差し出された魚は、思ったより小ぶり。

 でも新鮮で、目が澄んでいる。


「これで、どれくらい持つの?」


「塩をすれば三日。干せばもう少し」


 即答。

 この町の”保存前提”の感覚が伝わってくる。


「便利なものは少ないけどね」


 そう言って、彼は笑った。


「でも、無くなったら困るものは、だいたい揃ってる」


 その言葉が、妙に胸に残った。


(ああ……この町って、”最低限”がちゃんと機能してる)


 完璧じゃない。

 豊かでもない。

 でも、破綻していない。


「いい町ですよね」


 思わず、そう零す。


「そうだろ?」


 魚屋は誇らしげでもなく、当たり前のように言った。


「大変だけど、ここで生きてる」


 それだけ。

 少し離れた場所で、セシリアが静かに様子を見ている。

 目が合うと、小さく頷いた。


(数字だけ見てたら、分からない顔だ)


 書類には載らない。

 帳簿にも残らない。

 でも、確かにある”町の顔”。

 私はゆっくり息を吸い、港町を見渡した。


「よし」


 誰に言うでもなく、小さく呟く。


「ここ、ちゃんと守ろう」


 朝市は、変わらず淡々と続いている。

 誰も拍手しないし、感動的な展開もない。

 でも、それでいい。

 この町は今日も、普通に生きていた。


「……期待できそうね、あの子」


 誰にも聞こえない呟きが朝市の片隅にて出ていた。

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