港町当局の挨拶
次の日、朝のうちに私は溜まっていた書類の大部分を片付け終えようとしていた。
そのタイミングで、ミカエラがやってきた。
「どうしたの?」
「メリッサ様、港町当局の代表が、ご挨拶に来られました」
港町の当局。
確かに私は領主だから、新しくなったのなら挨拶をするよね。
(来たか、公式イベント。胃が痛くなるやつ)
でも避けることは出来ない。
会うしかない。
(だけど悪くないわ。ちゃんと”人として会ってくれている”)
「分かったわ。会いましょう」
私は客間へと行って、港町当局の人物と会うことに。
二人の男性が客間のソファに座っていた。
一人は五十代前半くらいで、もう一人は二十代後半くらいだった。
「お待たせしました。私がメリッサ・ビュージンゲンです」
私がやってくると二人は立ち上がって、頭を下げた。
「初めまして。私は町長のハンス・モンシャウと申します」
「私は書記のラルフ・メテルキです」
二人は簡単に自己紹介を行う。
そして町長のハンスがそのまま話を続ける。
「マドレーヌ辺境領、港町タレスブールを代表し、ご挨拶に参りました。新しい領主様をお迎えできたこと、まずは歓迎いたします」
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます。まだ右も左も分かりませんが、よろしくお願いいたします」
私はテーブルを対にするようにソファに座る。
セシリアが紅茶を置いていって、そのままこの挨拶に立ち会う。
紅茶は貴重みたいだけれども、こういう場面では必要だよね。
「正直に申し上げますとーー”どういう方が来るのか”と、少し身構えておりました」
落ち着いた口調で、町長が話していく。
「ですよね。私も”どう迎えられるのか”で身構えておりました」
書記が少し吹き出しそうになっていた。
セシリアは興味深そうに私達を見ている。
「この町は、派手さも余裕もありません。ですが、海と仕事と、なんとか続けてきた生活があります」
「昨日、歩いて少し見ました。皆さん、ちゃんと”生きている町”だと思いました」
町長は表情が少し和らいだ。
「そう言っていただけると、助かります」
言葉は穏やかなまま、言葉も柔らかくなった気がする。
「率直にお伺いしたいのですが、領主様はこの町を”どうするおつもり”でしょうか」
それでも彼のこの言葉で、空気が一瞬張り詰めた。
「正直に言いますね」
私はそれに押しつぶされること無く、話していく。
「今すぐ変えるつもりはありません。でも、”壊れそうなところ”は、一緒に見たいと思っております」
「一緒に、ですか」
「ええ。私一人で決めて、環境が困るのは避けたいので」
二人は頷きながら、納得の空気になっていく。
「それを聞けて、安心しました。この町、急に動かされるのが一番辛いのです」
「前は、紙の上だけで町が動いていましたから」
町長の言葉に、書記が付け加えるように言った。
セシリアは一瞬だけ、目を伏せた。
彼女は知っているのね。
「では改めて。これからは、”屋敷と港町”として、連携を取らせてください」
「はい。私も、港町の声を聞かせてほしいのです」
私と町長はそれぞれ握手を交わす。
そして立ち上がって、挨拶が終わろうとした。
「無理をなさらなくて結構です。この町は、急がせると壊れますが、放っておくと勝手に息をします」
そうなんだ。
急がなくても大丈夫なんだ。
「あ、これは公式ではありませんがーー町の朝市、よろしければ覗いてみてください」
立ち上がったタイミングで、町長は思い出したように話していく。
「いいんですか?」
「新しい領主様が来たと、もう話題になっていますから」
「早いですね」
三日くらいだから、知られているのかしら。
SNSよりは遅いかもしれないけれども、この世界では人伝いは早いのかも。
「港町ですから」
「数字の相談は、いつでもこちらへ。町長は勘で動きますので」
書記の発言に町長は苦笑した。
そしてその空気のまま、二人は帰っていった。
セシリアが飲み終わった紅茶を片付けながら、小声で話していく。
「とても良い挨拶でした」
「そう? 変なこと言っていない?」
令嬢としての言葉遣いじゃなくて、私としての言葉遣いになっているから、気にしていたんだけれども。
「”変なことを言わずに済んだ”のが、すごいのです」




