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王は死せども太陽は再び昇らん


彼の家族は彼が第二審を受けている中、先んじてテュエル宮殿に入っており、父の帰りを待ちわびていた。


 「ただいま。」


 マリアがソフィアを抱き、シャルルがソフィアの手を握る。


 「おかえりなさいませ。」


 「テレーズは?」


 「夜風を浴びたいって言って屋上に出ていきました。」


 テュエル宮殿の屋上、首都を一望できるこの場所、テレーズはそこで首都の街並みを眺めていた。

 

 「テレーズ、話がある。」


 私は私自身の運命について自身の息子に話しておくことにした。

 マリアと私が未来に行けぬ今、ソフィアとシャルルを護ってやれるのはテレーズだけだからだ。


 「わかってますよ、お父様。」


 「僕は命に代えてでも弟と妹を守り抜きます。」


 「そうか、よかった。私の息子に生まれてきてくれて、ありがとうな。」


 「…僕にはこの国の辿る未来がみえないのです。」


 私の息子は私よりも王であった。

 たらればの話はしたくはないが、私と息子の立場が逆であればこんな革命は起きなかっただろう。

 この革命は偶然と必然の積み重ねの末の産物なのだから。


 「十数のルートを思いついても、その先にあるのはラソレイユの滅亡でした。」


 「お父様の次に玉座に座るのは多分テルミドール。彼は民意に倒されるか民意を殺すかのどっちかを選択する…それはいい。」


 「でもどうしても第ニ次対革命大同盟で詰んでしまうのです。」


 「奇跡は案外起きるものだ。」


 「さぁ、寝ようか。多分、5人一緒は最後だと思うから。」


 カペー一家はしばしの談笑の末に眠った。


 翌日、私は家族に対して少なくこう言った。


 「行ってきます。義務を果たしてくるね。」

 



 十三段目



 オーギュスト・カペーの処刑は革命公園に於いて執り行なわれる。

 また罪人に自らの罪を見せつける為、テュエル宮殿に罪人の頭が向くように処刑台は敷設させられる。



 十三段目だ。十三段の階段を登ったのだ。長い旅だった。その果ての終結、それが私を終わらせる装置ギロチンである。

 しかしまぁ、なんという曇天だろうか。せっかく最期の舞台だと言うのに、今にも雨が降りそうではないか。


 「すぐ終わるんだろう、シャルロ。」


 死神は今にも倒れてしまいそうな表情をしていた。

 

 「勿論で御座います、陛下。」


 この期に及んで私を陛下と呼んでくれるのはシャルロだけである。


 「高いんだな。」


 凡そ230センチほどの首刈り装置を見上げる。

 見た目は恐ろしいが一瞬さ。落ちたあと刃が引かない分、予防接種よりも痛みはない。


 「テルミドールはあそこか。」


 白いテントの中、彼はそこに座っていた。

 どうせ私が死んだら演説でもするんだろう。


 「正直、私にとってあの男の首は陛下より遥かに軽いのです。陛下が処刑されるくらいなら私はあの男を…」


 「よせ、シャルロ。奴とてラソレイユを愛している。己の正義を実践しているのだ。」


 「なぁ、お願いがあるんだ、シャルロ。」


 「陛下の命ならばなんなりと。」


 「私の首を持ち上げる時、あそこの窓に向けてくれ。」


 私の指さした先、カーテンの閉められたテュエル宮殿5階の一室。


 「いいのですか?」


 「見送りはテレーズに決めている。」


 マリアとは後々会うことになるだろうし、シャルルとソフィアには刺激が強過ぎる。だからせめてテレーズには私を見送って欲しかったのだ。

 彼に一生の傷を残すことになるかもしれないが、私を許してくれよテレーズ。

 お前はきっと私のエゴを受け止められる聡い子だと信じているから…


 「承知いたしました。では陛下、お手をお縛りさせていただきます。」


 罪人が暴れぬよう、ギロチンに臨む前に手足を縛る決まりとなっている。


 「要らないよ、私にはみっともなく暴れる理由が無いから。」


 「ですが…」

 

 「王命だ、シャルロ。頼む、最後くらい王様らしくさせてくれ。」


 「…承知、しました。ムッシュ・ド・ソレイユ(ソレイユ処刑人)の名において貴方は決して拘束されないことを約束致します。」


 「メルシー、シャルロ。アデュー、我が友。」


 告白の時間がやってきた。


 「我が国民よ…」


 国民はただ黙って私の言葉を聞いた。国民は恐れていたのだ。

 人が太陽の居ない明日を想像できないように、王が居ない明日を想像できなかったからだ。


 「どうか我が血で怒りを鎮めたまへ。」


 「願わくばこの首が新しいラソレイユの幸福の礎となり、神の怒りを宥めるように。」


 「そしていつか、ラソレイユの人々が、地上全ての人々が、死に怯える事なく、暴力に晒される事なく、貧しさに喘ぐ事のない日を私は願う。」


 「王なき明日に幸あれ。」


 私は機械に寝そべり、目を閉じた。


 数秒後、冷たい感覚が私を引き裂いた。


 別ち難きを別ち、私は目を開ける。


 あぁ、寒い。


 民衆が、テレーズが私を見ている。


 我が愛しの国民よ、我が愛しの息子よ、我が愛しの家族よ、アデュー。


 もう、目は見えない。


 しかし耳はまだ聴こえている。


 "きょ、共和国万歳!"


 "共和国万歳!!共和国万歳!!!"


 "共和国万歳!!共和国万歳!!共和国万歳!!!"


 溶けていく、私が流される。


 ただ深い川に、忘却の中に全てが溶ける。


 メルシー、我が国民


 メルシー、我が家族


 メルシー、全ての人よ


 メルシー…


 アデュー…



挿絵(By みてみん)




 La révolution n'est pas encore terminée.

Donne-moi ta tête.

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