第二審、王殺し(レジサイド)
およそ20年前、オーギュスト15世暗殺未遂事件が起きた。犯人の名前はラヴィアン・フランソワ=ダミアン。彼は教皇のファラン派抑圧へ反感を抱き、オーギュスト15世に神聖な血が流れているかを確認するために彼をナイフで斬りつけた。
その結果ダミアンは国王暗殺未遂犯として右手を焼かれ、身体の一部を千切ってから溶けた硫黄を流し込まれた後に車裂きに処されることになった。
王殺し(レジサイド)の罪は恐ろしく重いのだ。
そして今、ラソレイユに於いて民意による王殺し(レジサイド)が行われようとしていた。
十二段目
第三投票 オーギュスト・カペーを処刑するべきか。
第一演説 山派
ルイ・イトワール・ルナ=ジャスティカ
「人は罪ありて王たりえない。この男の運命は王として統治する中に生きるか、それとも死ぬかである。だがあの男は王として統治することを拒んだ。故に死ぬべきだ。」
テルミドールやルイ・イトワールなど、野心溢れる人物からしてみれば、私という人間らしさを優先した人間は理解できないのだろう。
だから平気にこんなことも言えてしまうし、平気で人を利用できる。
第二演説 ガロンヌ派
ジョン・ピエール・ブリッツ
「王は…王は処刑するべきではない、今はまだ。この混迷期でこそ民衆の象徴となる者が必要なのだから…」
昨日馬車に惹かれたのか、はたまた派手に転んだのかにか、彼は右腕と頭に包帯を巻いていた。
だがダールトンは彼のその様子をみて大笑いした。
「酔っ払いの暴漢に絡まれたのだな、可哀想に。」
酒と理想、無料で酔える分後者のほうが厄介である。
第三演説 山派
テルミドール・ロベスピエール・マクシミリアム
「第一投票、第二投票と順序だててやってきたが、正直私はこれを裁判の問題ですらないと考える。」
「国家が存在する為にオーギュスト・カペーは死ぬべきである。」
テルミドールは必ず大物になる。私が持っていないものを持っているから、私は何度もそう思ったが、具体的に"彼の持つもの"を一度たりとも表現したことはない。それは私がそれについて正しいとは思えなかったからだ。
だがもはやこの革命に於いて正しさなど意味を持たないのだろう。
私になくてテルミドールが持っていたもの、それは自分の成す事を全て正しいと確信し続ける力である。
彼は救国の英雄にもなり得るし、確信犯(本来的な意味での、正しいことだと確信して行った罪)になり得る。
つまり、彼は弁護士として今の発言を正しいと思っているのだ。一ミリの疑念もなく、ただそうあるべきだと確信している。
まったく、恐ろしく男だ。法が人の姿をして歩いている。
第四演説 ガロンヌ派
コトデー・マリー・バルバトス
「王を、第二次対革命大同盟が解かれるまで王を殺すべきではない。と、私は考える。」
コトデーは痛む顎を抑えながら話始めた。
「王は必要だ。対革命大同盟に対抗する為には強権的中央政府が必要である。」
「ただ、大同盟が解かれたならば即刻処刑するべきだ。王は王である時点で悪であるのだから。」
躾られたから、テルミドールは彼に失望した。彼は自分と同じで何ものにも染まらぬ高潔さを持っていると思っていたのに、なにがシンボルだ笑わせる。それは自分が上に立てる器ではありませんと、卑怯者の言葉ではないか。
第五演説 山派
ゲオルゲス・ダールトン
「断固として王は処刑するべきだ。我々は豪胆に、更に豪胆に、勇猛果敢に進まなくてはならない。その為に正しさが必要である、豪胆であれる正しさが必要だ。そしてその正しさを自分自身に対して確信させるには王の死が必要だ。私たちにとっても、民衆にとっても必要である。我々は豪胆でなくてはならない。」
ダールトンはガロンヌ派というより自派閥と無派閥議員に対して演説した。
ダールトンにとってもはやガロンヌ派は敵では無かったのである。
演説
オーギュスト・カペー氏
この議会に於いて唯一沈黙を貫いていた王がその口を開ける。
「余を処刑するというのなら、それもいいだろう。だが、約束してほしい。この革命を私の首で終わらせてくれないか。どうか私の血によってラソレイユに平穏があらん事を。」
王の演説は彼が王であった時よりも力強かった。
その死をも恐れぬ態度に多くの人は感服した。国王処刑派であるテルミドールですらその一人であった。
全ての演説が終わった時、ガロンヌ派に一時の風が吹く。
ガロンヌ派も山派も大きく拍手をした。
だがその中で一人、手を叩かぬ者がいた。
コトデー・マリーバルバトスである。
これが王の、王権の残光なのか。これがあれば確かにテルミドールを殺れる…
しかしこいつは、王は犯罪だ。生まれながらにして国家と国民の権利の簒奪者だ。だがだとしてもテルミドールの創る世界よりかは幾分マシなのではないのか?
くそぅ、くそ!私は、私はどうすればいいのだ!!
その時、彼に近づく恵体あり。
その男こそゲオルゲス・ダールトンである。ダールトンは国王を処刑するか、国王を生かすかについて未だ決めこまねいている議員に対してこう耳打ちしていた。
「山派において、国王を処刑するなら右手で票を入れ、処刑に反対するなら左手で票を入れる事になっている。」
そしてコトデーに対してのみこう付け加えた。
「手を取れコトデー。ジョン・ピエール・ブリッツなどという小心者につく道理はないだろう。こっちに来い、テルミドールはお前を歓迎する。」
「俗物が、テルミドールに騙されやがって…!」
「たまには多い方に任せるというのもありだぞ、自分を責めずに済むからな。」
「それは逃げだろうが…!」
投票が始まる。
人々は重い足取りで票を入れる。苦悶の表情を浮かべながら紙切れを捨てるのだ。
各々が歴史を変えるという責任に押し潰されていた。
だがその中、その意味を理解していなかったのか、あるいは理解した上で自分の行為を正しいと確信していたのか、テルミドール、ダールトン、ルイ・イトワールは軽々と票を入れ投票箱を去っていった。
第三投票 オーギュスト・カペーを処刑するべきか否か。
開票
賛成487票、反対234票
ここにおいてオーギュスト・カペーの処刑が決定された。




