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第二審、小休止、詰み



 十一段目



 これは第二審の晩の出来事である。

 ダールトン宅に主要な山派議員が明日の議会の口裏合わせの為に晩酌をしていた。

 山派首領テルミドール・ロベスピエール・マクシミリアム、右腕ルイ・イトワール・ルナ=ジャスティカ、左腕ゲオルゲス・ダールトン。


 同じく山派、つまり急進共和国派に属している彼らだがその意思は一つでは無い。


 清廉潔白たるテルミドールは自らが人民の上に立ち、人々を啓蒙することで清く正しい国家運営を行おうとしていた。


 だがルイ・イトワール・ルナ=ジャスティカは人民主権の原則を基に完全なる民主主義国家を夢見ている。


 そしてここで最も特殊なのがダールトンだった。ダールトンは放埒で酒池肉林に放蕩する好色漢である。ダールトンはただ自分が富たいから、女を侍らせたいからと、私利私欲の為にこの革命に臨んだのだ。


 清廉潔白なる、つまり頭でっかちの童貞青年であるテルミドールはそれを不埒と軽蔑していたし、ルイ・イトワールもよくは思っていなかった。


 ダールトンからしてみればいい迷惑である。なぜ私は革命を導いたのに疎まれなくてはならないのかと、私は"結果的に"良い行いをしているではないかと。


 「ダールトン、酒は程々にしたまえ。明日に響くぞ。」


 山派も1枚裏ではないのだ。


 「テルミドール、私が居ないと勝てないのか?」


 「そんなわけはないだろう。」


 テルミドールには確かな勝利へのビジョンがあった。


 「カペーと共にガロンヌも裂くぞ。」



 

 山派が口裏合わせを行っている最中、勿論ガロンヌ派も同じように明日に向けて準備をしていた。

 だがその様相は山派とは異なり、混沌を極めていた。


 「何度言ったらわかるのだ!私はあくまでテルミドールの敵だ!でも国王の敵でもある!条件付き処刑は認められるが、罪を全て赦した上で再び冠を被れと!?冗談ではない!!」


 コトデー・マリー・バルバトスはテルミドールと比肩するほど高潔では無かったが、それはそれとしてテルミドールの独裁を看過できるほど腐ってはいなかった。


 「し、しかしだなコトデー。ガロンヌ派は親国王を基に立憲君主制を唱えることで成立した派閥だ。それを分かってくれ。」


 コトデーの不幸はその気質ゆえに自ら派閥を作れなかった点である。だからジョン・ピエール・ブリッツなどと言う及び腰の男に頭を下げてガロンヌ派に合流"させてもらう"しかなかったのだ。


 「断固として納得できない。逆になぜあの犯罪者を、国王を国の頭に据えようと考えているのだ。国の代表が犯罪者であるのなら、ラソレイユが犯罪国家であると後ろ指をさされても仕方がないぞ。」


 「ならお前ガロンヌ派やめろ。」


 ニコラ・レオナールは冷たく言い放った。


 「お前はあの童貞野郎をぶち殺す為にガロンヌにはいったんだろうが、俺らとしちゃあの童貞野郎はどうでもよくて、国王がお上に座ってることの方が重要なんだわ。」


 コトデーは顔を赤くしながらニコラ・レオナールの襟を掴んだ。


 「現実を見ろ、コトデー。俺達一人一人は頭良くても集団になるとバカになるんだ。その為に象徴が必要なんだよ。」


 「犯罪者を赦す道理にはならないだろう。」


 「25超えて青二才引き摺ってるガキなら、あの童貞野郎の方がマシだぜ?」


 コトデーは激情に駆られてニコラの頬を殴った。

 

 「コトデー!」


 ジョン・ピエール・ブリッツもガロンヌ派としてその行いを看過できず声を荒らげた。


 「なぜそうも他人を慮れないのだ!」


 ジョン・ピエール・ブリッツはコトデーを殴り倒した。コトデーの吐き出した血が床を汚す。

 コトデーの蹴りがジョン・ブリッツの腹凹ませ、先程食べていたローストビーフだったものを吐き出した。

 これがガロンヌ派の正体である。

 テルミドールのようなカリスマ的存在もいなければ、共通の目的を持っている訳でもない。反テルミドール、親国王という曖昧な人間たちの集合であり、個々に利益を追求する統制の取れていない組織であった。

 つまりエゴイスト集団である。



 山派やガロンヌ派が集会しているのにも呼応し、テュエル宮殿においてオーギュスト・カペーもある男と密会をしていた。


 「なぁ、シャルロ。死ぬ時ってどんななんだ?」


 私は死神に問う。


 「斬首刑であれば眠るように亡くなるようです。痛覚が剣の速さに追いつけないので、痛みすら感じることは無いでしょう。」


 「死神が言うのであれば安心だな。」


 この時代の医療において最も先を最先端にあったのは医者ではなく処刑人である。処刑人は人の身体を効率よく壊す為に人の身体の仕組みを研究した。その結果人の治し方にまで詳しくなったという訳だ。


 「陛下、私は貴方を殺したくなどないのです。どうか今一度、逃亡を…」


 「馬鹿者め。そんなことできるわけないだろう。私が逃げたら今度はシャルルとテレーズが、ソフィアだっているんだ。子のためなら死んでやるよ。」


 「それに私の血でこの革命が終わるならそれで悪くないと思っているんだ。」


 「今この国の悪意は私に集まっている。おそらく、私が死ねば…」


 「陛下お言葉ですが、私は貴方が首を差し出したとて、この革命が終わるとは考えられないのです。」


 「革命はラソレイユ16人の王と数多の貴族によって踏み潰された人々の恨みによって召喚された悪神で御座います。」


 「たった一人の王が首を捧げたとて何になりましょうか。全ての根本的問題を解決せぬ限り、あるいは全てを覆す英雄が現れぬ限りこの革命は終わらないのです。」


 「もしくはラソレイユ以外の国がラソレイユを踏み潰せば…」


 「なぁ、私に未来を見る力があると言ったら、お前は信じてくれるか?」

 

 私は彼に私の知る歴史を語った。

 私が亡き後、山派は革命に対する全ての問題を解決する為に超法規的政権を作り上げ、その首魁としてテルミドールが立つ。その結果数多多くの国民が革命裁判によってギロチンに送られる。

 その果てにギロチンはテルミドールですらギロチンに食われて死ぬ。

 最終的にベルナール・ナポレオーネ・ボナパルトという男がラソレイユに攻め入る国を遠ざけ、皇帝としてラソレイユに立つ。


 「王という存在を除く為に革命を起こしたのに新たなる皇帝が産まれるなんて、悪い冗談はやめてください。」


 「それにその未来が来るとしたら私はきっと、世界で最も人を殺した人になってしまう。」


 シャルロ・アン・サングは最後に掠れた声で呟いた。


 「…何よりそれでは貴方が救われません。」

 

 彼はそれを言ったっきり黙ったままだ。


  


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