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オーギュスト・カペー

 私の名はオーギュスト・ブルボン=ラソレイユ。


 青い血の通りの透ける白皙の肌に絢爛豪華な着付、ユーロ大陸を統べる王冠と至天おられる偉大なる主より戴きし王権。

 

 だがもはや夢の跡。


 私の名はオーギュスト・カペー。

 

 青い血の通りの透ける白皙の肌に似合わぬ質素倹約を体現する焦げ茶の上着、ユーロ大陸を統べるに相応しき王冠は宮殿に落とし、至天おられる偉大なる主より授けられし人権。


 「どうして?」


 私は曇天たる空に呟いた。その呟き、嘆きは私自身の運命に対する嘆きなのか、新しいラソレイユ共和国を神が祝福されなかったことに対する嘆きなのか。あるいは愛するマリアすら救ってやれなかった私やるせなさなのか。


 

 一段目


 少し時を戻そう。私がオーギュスト・カペーでもなく、オーギュスト・ブルボン=ラソレイユでもなく、只人の現代人であった時に。

 私は何処にでも居る高校生だった。特段生前について語ることは無い。あるとすれば田舎の生まれであったくらいだろうか。

 

 ある日の学校帰り、私は少しショートカットをしたいと思い、稲畑の畷を歩いていた。するとその時、錚錚の音が響いてその場に倒れたのだ。


 気づけば私は見知らぬ女性に抱かれた。そして抱かれていた私は私ではなかった。私はオーギュスト15世が子、オーギュスト16世であった。

 

 異世界転生、漫画やゲームの世界。特に卯建の上がらない人生を歩むのだろう、なんとなくそう思っていた私にとってそれは心躍る出来事だったんだ。

 なにせ世界には魔法もあったし、悪い魔王も居る。理想の世界だった。


 ただ、私自身に魔法の才が無かったことと悪い魔王が私自身であることに最初気付くべきだった。


 兎も角、私はこの世界で勉学を励んだ。前世では身に付けれなかった強かさも上品さも身につけた。そして果に大国オスタリカの貴女を嫁とすることもできだ。


 だが学んでいくことは純真さを失うことだ。

 この国を変えよう、そう願い、学び続けるほど宿願は遠のいて行く。


 ラソレイユという国家は私が想定していたよりも死に体であった。

 度重なる戦で国庫は底を突き、財縮によって対策せども肝心の貴族や議員、軍はそれを突っぱねる。王命を命じて無理矢理変革を起こそうとしたとて、王冠の座る首が変わるだけ。


 何より、この国で王がその頭を刃に垂れなければ、この世界で人権は産まれない。


 私には勇気が無かった。現状の体制を焼き尽くして新たなる座を創ることも、幾千もの未来の命を犠牲に己の命を選択することも、小心者の私にはできなかった。


 あぁ、なんと私は愚かな王だろうか。

 結局私には諦観を抱いてに錠前を弄るぐらいしかできなかった。


 そうしてその日はやってくる。


 その日の朝は穏やかなものだった。小鳥は鳴き、欠伸一つついてから上半身を起こす。マリアはお寝坊さんなので未だ私の隣で可愛らしい寝息を奏でる。

 テレーズはもう起きて居るんだろうか。シャルルはまだ寝てるだろうな。

 愛しの我が子の顔を早く拝みたいが、寝起きの親父の顔を見せのは恥ずかしい。

 

 「マリア、愛しているよ。」


 彼女はどんな夢を見ていたんだろうか。ユニコーンで虹をかける夢だろうか。あぁ、愛おしい。

 

 突然響く扉を叩く音。私はその時点で察していた。だから耳を塞いだんだ。辛い現実を受け止めたくなかったから。


 「陛下、牢獄が襲撃されました。」


 星歴789年、7月14日。耳は塞いでも塞ぎきれない。瞼のない瞳なのだから。


 「これは暴動ではありません。革命です。」


 ラソレイユ革命はここに始まった。


 だが私は愚か者だ。私はその衛兵の言葉を信じれなかった。いや信じなかった。現実逃避したんだ。


 「そ、そうか。国軍に対処させ給え。」


 狼狽しながら私はそう答えた。そうして再び布団に入って目を閉じた。

 見たくないのならば見なければいいのだ。


 私が再び目を開けたのは11時頃だった。

    

 上半身を起き上がらせて欠伸を一つ。寝顔すら可憐なお寝坊さんも薄目で私を見ている。

 テレーズは今頃食事をとっているんだろうな、シャルルも流石に起きただろう。


 ほら、今度は扉が鳴っていない。

 多分悪い夢だったんだ。全部、全部。


 「マリア、おはよう。」

 

 布団を捲る彼女、この前よりお腹が大きくなっている。

 新しい命が宿っているんだ。私とマリアの新しい子がそこにいるんだ。


 「おはよう御座います、殿下。」


 ラピスラズリのような碧眼、寝起きで乱れた髪ですら翻る花弁に見える。

 マリア・アントワール、オスタリカから来た解語の花。


 「あ、蹴った。ソフィアも殿下におはよう御座いますと、うふふっ。」


 私は彼女の腹に額を押し付けて、赤子が驚かぬように小さく囁いた。


 「おはようソフィア。」


 あぁ、なんと幸せだろうか。


 そこ幸せを叩き壊す音、扉はどんどんなり、声は大きくなる


 「国王陛下、もう一度言います、これは反乱ではありません。革命です。」


 耳を塞いでもその声はまだ聞こえてくる。


 アンシャンレジーム、その中でしか私の幸せは無い。ならずっと、このメルヘンの城の中に私を閉じ込めてくれよ。


 「ごめん、マリア。すぐ戻るよ。」


 私は夢から覚めて議会に向かった。


 思えばこの時、早急に馬車を手配していればマリアと子供達だけは救えたのかもしれない。


オーギュスト・ブルボン=ラソレイユ


挿絵(By みてみん)

 

 

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