閑話 〜山田恭弥・藤岡シュン〜
〜〜山田恭弥〜〜
「いやこいつヤバすぎだろ」
PCの前で思わず呟いたのはいつも通り音声解析をし、その結果をスレに報告したからだ。
サウンドプログラマーをやっているから音関係には元々強かった。
可愛い妻が欲しくて何度かしているお見合いが上手くいかず、男の癖に女のふりした奴らにムカついていたのでスレで男だとバラしてやった。
そうしたら思いの外好評で、バラしては褒められることが快感になって次々に暴露し破滅させていった。
みんなを騙す悪人を退治してみんなに感謝される。
ヒーローにでもなった気でいたのだ。
だからいつものように話題になっている人物の音声解析をしてその結果を報告した。
今回音声解析をしたVTuberメイは声を聞いたときから若い女の子だと思っていた。
母親や姉妹のいないごく一般的なシングルファザーで育ったが、高校は女性のいる学校だしお見合いで何度も本物の女性に会ったことがあるから自信はある。
解析した結果はやはり女性の可能性が高く、この結果を聞いたらみんな驚くぞと興奮しながらその事実を書いた。
……書いてしまった。
深く考えることもなく。
みんなの喜ぶ様子を見たときは嬉しかった。だがスレ主の異常な反応にふと不安に襲われた。
こいつヤバい奴なんじゃないかと。
そしてその時になってようやく、やらかしたかもしれないと気付いた。
これでもしメイちゃんが何らかの被害を受けることになったら……
そう考えると恐ろしくなり警察に相談したが、反応はあまりよろしくなかった。
女性のことなら女性課だろうと説明しに行ったのだが「女性がVTuberなんてするかね?」「女性のふりした男でしょう」「一応注意しときますが」と、彼らは終始俺のことをまんまと騙されたバカな男だとしか思っていなかった。
音声解析の結果も渡したのに、全く、信じてもらえなかった!
俺がどうにかしなければいけない。
俺が彼女を危険にさらしたのだから、俺が守らなければ。
決意を固め調べ始めた。
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そうして2ヶ月が経つがメイちゃんの情報は殆ど掴めていない。
彼女はVTuber以外の活動をしていないし、身元や年齢なんかのプライベートが分かることは言わなかった。
いや、一切言わないわけじゃない。いついつ家族で出かけたとか、弟が〜なんて話しが出ることもある。
しかし具体的にどこへ行ったのか弟が学生なのか、そういった特定できてしまうようなワードは言わないようにちゃんと気を付けていた。
末の弟が熱を出した話しはしてたが女性に兄弟が多いのは当たり前だし、もしかしたら彼女の子供なのかもしれない。
ただ熱を出しただけでこんな心配してくれる優しい姉・母親なんて男の理想そのものだ。
そうして暫く悩み
知人へと連絡した。
「どないしたん?恭弥から電話なんて珍しいやん」
「調べて欲しい人がいる」
「はは、ええで。誰?」
「メイってVTuber」
「ほ〜ん、今話題の女VTuberやな。ええで。任せてや」
理由を聞くこともなくあっさり了承した相手に眉間に皺が寄る。
やはり知っているか。彼女が本物の女だと。
複雑な気持ちになりながら電話を切る。
あいつならもう知っていると思って電話したが、まだ調査中だったか。
どちらにしても変わらなかっただろうが、これでよかったのか一層不安は膨らんだ。
俺が電話したことであいつの興味は確実に引いてしまっただろうから。
〜〜藤岡シュン〜〜
俺の姉がおかしい。
母親がいるだけで勝ち組と言われる世の中、俺には姉がいる。
周りからは羨ましがられクラスメイトなどからは「1度だけでも会わせてほしい!」と言われることは何度もあった。
酷いときは教師からも。
しかし父さん達から「もし万が一にも花ちゃんが好きになったら許せない!絶対会わせるな!」と口酸っぱく言われているし、あの性格の姉を友人に会わせたいなんて1mmも思えなかった。
女の子だということで両親、特に父親に甘やかされて育った姉は我儘で、正直あまり関わらないようにしていた。
父さん達は姉第一主義だから。
例えばみんなでファミレスに行き、注文するとする。
父「みんな何食べたい?」
弟「僕ミートスパゲティ!」
俺「俺ハンバーグ」
弟「ボク、オムライス!」
姉「私苺パフェがいい!」
それぞれ欲しいものを頼んだはずなのに、誰かの料理が来たとたん、
姉「私それ食べたい!」
俺「俺が頼んだんだよ」
姉「やだ私もそれ食べたい!」
父「シュン、男の子なんだから女の子に分けてあげなさい」
俺「……分かった」
父親から窘められ料理を取られることはしょっちゅう。
あいつは他人のものがなんでも欲しくなり奪っていくから、俺達兄弟はあいつの前では何も見せないよう気を付けるようになっていた。
14歳になっても欲しいものがあれば「あれが欲しいの!」と駄々をこね両親を困らせることはしょっちゅうだし、父親は全く叱ることなく我儘を叶えてばかりで……
あまりにも酷い場合は母親に叱られることもあるがその性格が直る気配はなかった。
──それなのにある日突然、母さんと章司父さん以外のことを忘れてしまった。
いや、章司父さんも存在は覚えていたが顔を見たとたん「誰?」と言って戸惑っていたが。
何かの病気か何なのか分からないが、両親はショックを受けていたが俺達兄弟からすれば嬉しい変化だった。
……だって、姉が可愛くなったから。
いや違う!俺は父さん達みたいな親バカじゃないから!
姉だから可愛いなんて思ってない!むしろ嫌ってたから!
最初はそりゃ戸惑ったよ。
「あの、シュン君?」
「……呼び捨てでいいよ」
「うっ、うんシュン」
今まで「シュン!」と偉そうに呼び捨てにされていたのに、不安そうに名前を呼ばれ正直気持ち悪かったしお互い今まで通り干渉し合わないようにしていた。
けれど、あれからなぜか朝早く起き出かける俺達に「行ってらっしゃい」と見送りをしてくれるようになった。
帰ってきたときも「お帰りなさい」とわざわざ玄関まで来て出迎えてくれる。
そりゃもう最初は戸惑ったよ。
父さん達は暢気に喜んでるけど、兄弟は姉が何か企んでるんじゃないかと疑ってた。
そんな中、末っ子の蓮だけは姉に可愛がられていたから姉に懐いていたが。
特に忘れられてからは姉にべったりで、今までの姉なら気分次第で冷たく無視したりしてたのに今の姉はいつでも笑顔で相手をしている。
気が狂ったのだろうか?
そう思っていたけれど弟の相手をする姉は、物語の聖母のように見えて前の姉と同じ人間とは思えない。
記憶を無くして不安になっているんだろう。
医者や父さん達はそういうが本当にそうなんだろうか?中身が変わったとしか思えないほどの変わりようなんだが。
そんなある日、蓮が風邪をひいた。
今までの姉なら父さん達に言われるまま蓮に近付かないのに、「お父さん達はお仕事で大変なんだから、蓮のことは私に任せて!」と宣言した。
父さん達も始めは反対していた。
貴重な女性である姉に風邪が移り、もしものことがあったらどうするんだと心配して。
でも結局姉の熱意に負けて引き下がった。
本当に父さん達は姉に甘い。
しかし兄弟は違う。そんな他人の看病なんてしたこともない人間に大切な弟を任せられるかと俺も手伝いに名乗り出た。
……だが、予想に反して姉は水やタオルを用意しこまめにタオルを取り替え水分補給をさせたりと献身的に看病していた。
「おね…ちゃん」
「ん?なぁに蓮?」
「ずっと、いっしょ…いて、くれる?」
「うん。当たり前でしょ!だから早く元気になってね」
まだ熱が高く苦しそうに呼吸をしながらも姉の袖を掴み必死に言う蓮に、姉は優しく微笑んでから額にキスをした。
その姿を見たとき
俺は、恋をしてしまった。
自分の姉に。
兄弟で結婚することはできる。娘を嫁がせたくない父親が兄弟と結婚させることはよくあるから。
昔は禁止だったらしいけど、女性の減少と娘を独占したい親達が強引にできるように法を変えてしまったと聞く。
でも血の繋がった者同士の子供はあまりよくないとされている。それは昔から変わらない。
でも、それでも俺は姉がいい。結婚したい。そう思った。
姉はどう思うだろうか?嫌がるかな?いや、ずっと一緒だと蓮と約束していた。
俺達とずっと一緒にいてくれるんじゃないのか。
そう期待してしまう。
「行ってらっしゃい」
「「「行ってきます!」」」
「怪我しないように気を付けて行ってきてね!」
姉の見送りに元気よく返事をする。
ふと気付くと弟達も熱い眼差しで姉を見ていた。
そうだよな。あんな姿見せられて好きにならずにいられるわけないもんな。
クスっと笑いながらこのままみんなで夫婦になるのも楽しそうだと。
そう思った。




