閑話 お姉ちゃんがおかしい 〜弟視点〜
〜〜藤岡久信〜〜
うちにはお姉ちゃんがいる。
産まれたのは2番目と結構早かったから、女の子が産まれると警備が厳重な地区に集められるので早々引っ越したらしい。
男性は基本独身地区に住んでるらしいんだけど、お母さんと結婚してからは安全な居住区に移動して、娘が産まれるとそこより更に警備が厳重な所に引っ越すんだって。
産まれてないから前の家なんて全然知らないけど。
だから近所は同じような家庭ばかりで特別女の子は珍しくない。だから問題にならなかった。
でも学校は違う。学校には男子しかいない。
「お姉ちゃんがいることは黙ってるようにね」ってお父さん達に言われたのに、うっかり学校で話てしまった。
だってみんな女の子いいな、妹いいな、姉いいなってそんな話しょっちゅうしてるんだもん。
それからは色んな人達から会わせてほしいと言われた。友達や知らない子や先生からも。
でも全て断った。
だってお父さん達から「絶対家に友達を呼ぶなよ!どっか出かけるなら連れてってやるから」「お前の家遊び行っていい?って聞かれても断るんだよ。違うって言っても絶対花ちゃんが目的だから」とか色々言われてたから。
断るしかなかったんだ。
でもその度に「んだよケチ!」「会わせてくれたっていいじゃん!」「姉いるからっていい気になんなよ!」と絶交されたりいじめられたりもして、お父さん達やお姉ちゃんのことを恨んだりもした。
でも、僕自身もあのお姉ちゃんを友達に会わせる気にはならなかったんだ。
だってお姉ちゃんは性格がすごく悪いから。
友達に会わせたらなんて言うか簡単に想像できる。
「なんでこんな不細工なやつを家に入れてるのよ!早く追い出しなさいよ!」「馴れ馴れしく話しかけないで!気持ち悪い」とか。
酷いことばかり言うのは分かりきっていたから。とても会わせる気にはなれなかった。
それなのにいじめられる。理不尽だ。
でも、僕のせいで同じ学校に通っていたお兄ちゃんにも飛び火していっぱい迷惑をかけてしまった。
ある日お兄ちゃんがお父さん達に事情を説明して、お父さん達からの提案で学校を変えた。
僕は自業自得で友達を失くしたからいいけど、お兄ちゃんは僕のせいで仲の良かった友達を失くしてしまったんだ。
地味で引っ込み思案な僕と違ってお兄ちゃんはハーフでイケメンだし明るくて成績も良く運動神経だっていい。
カッコいいってみんなから言われてるし、僕もそう思ってる。
人気者で友達も沢山いたのに、僕のせいでみんな失くした。
お兄ちゃんには何度も謝ったよ。「僕のせいでごめんなさい」って泣きながら。
でもお兄ちゃんは優しいから「久信のせいじゃないよ」って頭を撫でてくれるからますます申し訳なくなった。
なんで話ちゃったんだろう。
姉妹いる?って聞かれても黙ってたのに「お姉ちゃん(妹)いるやつ羨ましいな〜」ってみんなが言ってて、そんないいものじゃないのにっていつもは思うのにその時はふと自慢したくなっちゃったんだ。
僕には人に自慢できるようなものがないから、「いる」って言ったらみんなから注目されるかもって思っちゃったんだ。
「うちお姉ちゃんいるよ!」って。
うそだ〜って言われてムキになって証拠の家族写真見せちゃって。
そしたら会わせて会わせてって言われて、調子に乗っちゃったんだ。
「え〜どうしよっかな〜」なんて思わせぶりな態度とって。会わせることなんてできないのに。
すぐにクラスメイト達も聞きつけてみんなから会わせてって言われて、このときまではまだ調子に乗ってた。
でも次の日他のクラスの人達からも囲まれて「会わせてほしい」って言われて怖くなった。
「おい、そんなしつこく女性に会わせてなんて言うもんじゃないぞ〜、みんな下がれ〜」って僕を囲うみんなに注意して助けてくれた先生から、「お前のお姉ちゃんって何歳?名前は?夫はいる?」なんて色々聞かれて人が信じられなくなった。
お姉ちゃん1人の存在でこんなにみんながおかしくなるのかってすごく怖かった。
自分が悪いのにお姉ちゃんがいなければよかったのになんて、何度も何度も思った。
でも、そのせいなのかな? ある日お姉ちゃんが記憶喪失になった。
僕のこともお兄ちゃんのこともお父さん達のこともみんな忘れて。
悲しむお父さん達を見て申し訳なく思った。僕がお姉ちゃんなんていなくなればいいって思ったからだって。
でも、それからのお姉ちゃんは本当に別人のようだった。
家族なのに僕達によそよそしくて、あんなにワガママばかりだったのに気を使ってきたりして。
正直気持ち悪かった。
僕のせいなのに気持ち悪いなんて思っちゃだめだって何度も反省したけど、でもやっぱり気持ち悪い。
だけど、毎日見送りしてくれて帰ってくればお帰りって笑顔で出迎えてくれて……なんか、いいなって思うようになっていった。
それは僕だけじゃなくお兄ちゃんも。
お兄ちゃんもお姉ちゃんが嫌いで関わらないようにしてたのに、最近は笑顔でお姉ちゃんと話してる。
そんなお姉ちゃんがある日買い物に行きたいと言い、みんなで出かけることになった。
前のお姉ちゃんなら週に2回はどこどこに行きたいとか言いだして出かけてたのに、今のお姉ちゃんになってからは部屋で大人しくしてばかりでお父さん達は心配してた。
記憶を失くしたばかりの頃には外へ出ていいかとお父さんに聞いて、危険だと言われたらそのまま素直に引き下がっていた。
それからは殆ど部屋にいる。すごい変わりようだ。
3週間ほど経っても外出しようとしないお姉ちゃんを心配したお父さん達が気晴らしにどこかへ連れて行こかと話していたときお姉ちゃんの方から出かけたいと言われて、お父さん達はすごく喜んでた。
お姉ちゃんを甘やかすのが好きな人達だからね。
お父さんが護衛の手配を整え外に出るとお姉ちゃんは家の大きさに驚いていた。
確かに、僕も初めて友達の家に遊びに行ったときは小さな一軒家で驚いたことを思い出す。これが普通なんだよ。お前の家がおかしいの!と言われて本当に驚いたよ。
うちの近所は女の子が産まれた家族が集まった地区だからどこの家も大きいけど、これが豪邸だったなんて知らなかった。
でも、そんなずっと住んでた家までお姉ちゃんは忘れてるのかと僕達は驚いた。
家族を覚えてないんだから当たり前なのかもしれないけど、悲しかった。
買い物のメンバーはジャック父さん信彦父さんお母さんお姉ちゃんお兄ちゃん僕に蓮。
章司父さんは教師だから女性であるお母さんの次に生徒優先だからいなくて、英和父さんは単身赴任中だ。
いつもならお兄ちゃんと僕は同行しないから、行くと言ったらちょっと父さん達に驚かれた。
車に乗り込み外へ出るとお姉ちゃんが「門に警備員がいる」とどこか呆然と呟いた。
お父さんが「ハハハ!女の子がいるんだから当然だろ」と笑いながら言うとお姉ちゃんはちょっと笑顔が引きつっていた。
それと走っている途中前後を守る車がいることに気付き引いてた。
こんな当たり前のことも覚えてないんだな。
お母さんやお姉ちゃんと出かけるときは近くの大きなデパートに行く。
女性居住区内にコンビニからショッピングモールにレストランに美容院、警察署や消防や病院もあるからすごく便利だ。
学校に行くと女性居住区から出るから、こっちとの店の違いに驚くよ。
普通の店は女性ものを扱っていることが少なく、あっても少しだけしかないし、女性が1人もいないんだから。
護衛達に引いていたお姉ちゃんだけど、デパートに着いたときは嬉しそうにしてた。
でもそれも、車を出て付いて来るSP達に気付くまでだったが。
それからのお姉ちゃんは笑顔が消え俯いていた。
歩いてるだけでジロジロ見てくる男共に、下心をもってやたらと話しかけてくる男性店員、
女性居住区といっても男性もいるから。妻が欲しい下心まみれの男が働きにくるからね!
それからお姉ちゃんは父さん母さんに服やアクセサリーをススメられることにも引いているようだった。
もっとお姉ちゃんには楽しんで買い物してほしいのに……
「この服49,800円もするの!?上だけで? えっ、海外の有名ブランド?」
「も〜花ちゃんたら!女性服が高いのは当たり前でしょ。海外ブランドが欲しいならこっちの服がオススメよ」
「いやいやそういうわけじゃないから!いいからお母さん!その0が1つ多い服は置いて!!」
「あらそう?」
「欲しいのがあったら何でも言っていいんだぞ」
「遠慮しないで花ちゃん!いくらでも買ってあげるからね!」
「う、うん。ありがとう」
お姉ちゃんは服の値段も覚えてないみたいでその値段に驚いていた。
女性ものが男性ものと比べて高くなるのは仕方ない。だって人数が少ないから大量生産できないし、男性ものと違って1品1品細かく検査されるから。
女性が口にする料理も食中毒や異物混入なんかしてたら料理人の首が飛びかねない(物理でも)からね。
お昼にレストランで食事をしようとしたとき3人の店員が案内、注文、品物を運んでくることにも引いてたな。
「な、なんでこっち優先なの?私達より先に待ってるお客さんがいるのに」
「何言ってんだ花美、女性がいたら優先するのは当たり前だろ?女性を待たせる店なんて終わってる」
「そ、そうなんだ。…確かに女性連れの人達だけ店員さんが付きっきりだね」
先にいた男性客より自分達が優先されることを不思議がり申し訳なさそうにしていた。
女性連れが優先され付きっきりで対応されるのは当たり前なのに。
ほんとお姉ちゃんは変わった。前なら当然だと思ってたし他の女性より後にされたりしたら、癇癪を起こしてたのに。
「今日はお買い物に連れてきてくれてありがとうお父さん!それと付き合ってくれてありがとねお母さんシュン久信蓮」
「いいってことよ。気にすんな!」
「花ちゃんのお願いなら何でも叶えてあげるからね!」
「花は本当に良い子になったわね」
「気にしないでお姉ちゃん、僕も見たいものがあっただけだから」
「そうそう!お姉ちゃんだけじゃ心配だったからね!」
「ボクも!おねちゃといられてたのしかった!」
連れてきてくれた父さん達や付いてきた俺達にも礼を言うし、下心で声をかけてきただけの店員にも別れ際に礼を言っていた。
そんなの無視してればいいのに。案の定ポカンと間抜け面をした後お姉ちゃんに名刺を渡そうとしてきた。
父さんと僕達で拒否してやったが。
「あんなのいちいち礼なんて言わず無視してればいい。仕事なんだし」と父さんが注意すれば、「例え仕事でもお世話になったならお礼は言った方がいいと思って」なんて聖女のようなこと言うんだから困っちゃうよ!
そんなことして付きまとわれたりしたらどうすんだか。
今のお姉ちゃんは考えが足りないから、しっかり僕達が見とかないとあっという間に攫われちゃうよ!
それから家に帰ったけど、警護の人達にもお礼言ってたからねお姉ちゃんは!
言われた護衛達はデレデレしたしまりのない顔しててほんとムカついた!
会う男会う男みんな虜にするんだから、本当に心配だよ!
……って思ってたんだけど。これ以降お姉ちゃんは出かけたいと言い出さなくなってしまった。
なんで?無理してるの?
我慢してるんじゃないかって僕達が聞くと、出かけるだけで迷惑をかけてしまうからなんて言う。
そんなの気にしなくていいって言っても、お姉ちゃんは出かけようとしなくなってしまった。
他の男に会ってほしくないけど我慢もさせたくもなくて。どうしたらいいのか分からなくて僕達は途方に暮れた。




