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「けっ成金が! ご趣味の良い事で」
「……なんだと?」
「歌ってみろよ、今ここでさぁ、その汚い声でよぉ」
俺は拳を握り締め、オッサンに殴り掛かろうとした
「止めなボーイ。音楽を馬鹿にされたら音楽で返すんだ」
黒人の男が後から俺の腕を掴む。見た目はじいさんの癖にやけに力が強い
「………ち、分かったよ」
俺は拳を押さえ、深呼吸
「聴いてビビるなよ?」
その歌は素朴で、穏やかでだが何故か人の心を揺さぶるものだった
「な、なんだこの感覚は」
「……ボーイ。私の目に狂いは無かった様だね」
黒人の男は自分のバックからトランペットを取り出す
「……あ! あれは伝説のトランペッタ、カーネルサンダーマクドナルド!!」
トランペットは力強く、包み込むような音を奏でる
「じいさん……あんた」
言葉はいらないさ
振った指がそう言っていた
「……そうだな」
音楽さえあれば人は通じ合える
そして機内は一つになり、機内放送が告げる
《この機はブラジル行きでしたが、進路を変更しブラスバンドの本場イギリスへと向かいます!》
本場イギリス。黒人で結成されたブラスバンドの中に一際目立つ東洋系の男がいた
彼はチームの拍手に迎えられ、ちょっと照れ臭そうに前へ出る
あれは誰だサムライか?
戸惑う観客の前で、その東洋人は喉を震わせた
音楽は共通。きっと戦争だって止められる
ブラボー!!
割れんばかりの歓声と、スタンディングオペレーションの中、東洋人は天使の様に微笑んだ
エンディングリスト3
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