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講義も終わり私は昼食を食べる。もちろん、橘も一緒だ。
「よるえもんは何食べんの?」
彼女の手には日替わり定食がのトレーがのっている。
相変わらず行動が早いな。
「私はカツ丼。二限で終わりだから食べたらギルド行ってダンジョンに潜る。たちえもんはまだ講義ある?」
「私はあと一限、神学概論があるよ。」
「ああ、大変だね。神職って。」
「そうでも無いよ。かなり面白い。よるえもんも後期で取ってみれば?」
橘は神社の巫女ということもあり言葉も態度も辛辣だが真面目なのだ。それに可愛い。
「興味無いからやめとく。神職つくつもりないし、将来は稼いだ金でダラダラする予定だもん」
誰が好き好んで働くものか。将来は絶対にニートになってやる。そのために今、命を懸けて金を稼いでいるのだから。魔力多くて良かった。
「本当にダメ女だな。よるた君は。生活困窮者になっても助けてやらないぞ。」
たちえもんはなんて酷いやつだ!いいもん。その時はまた戦うだけだもん。
昼食を食べ終わった私は今ギルドの受付にいる。
「いらっしゃいませ。こちらは冒険者ギルド 東京都3番支部となっております。ご要件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「この依頼受けます。」
私はスマホでダンジョン中層のオーク討伐依頼書とギルドカードをカウンター越しにお姉さんへ提示する。
「こちらの討伐依頼はCランク以上の方のみ受理可能となっております。現在のランクは……B、問題ありませんね。では、こちらにサインをお願いします。」
そう言ってギルドカードも確認されてタブレットを渡される。
タブレットには今回の依頼内容と署名欄がある。うん、間違いないな。私はサインするとタブレットをお姉さんに返す。
「…はい。ありがとうございます。討伐証明品も忘れずお持ち下さい。では行ってらっしゃいませ。ご武運を。」
私はギルド内2階にある購買でアイテムポーチをレンタルする。アイテムポーチは見た目以上に容量が多いので冒険者には必須である。今回レンタルしたアイテムポーチは容積量が3㎥だからそこそこ入る。魔物を殺しても肉や魔石を持ち帰れないと金にならないからポーチさまさまだ。
ちなみにギルド内部はそこそこ広い。1階は受付カウンターや冒険者同士が交流できるスペースがある。2階は魔道具や武器、装備がレンタルできるお店や売店がある。他には魔物、魔獣の解体所や治癒室があると言われているが利用したことがないのでわからない。
アイテムポーチをレンタルした私はギルドから出るまでにいくつかの視線を受ける。まあ、珍しいのだろう。女でソロの冒険者は。それにBランクだから。
コソコソと声が聞こえる。
「相変わらずダサい仮面ね。なんて言うんだっけ、ひょっとこ?おかめ?」
「ひょっとこだ。てかなんで仮面ひび割れてんの?怖いわ。」
「……」
「先週は猫だったよな。何枚持ってんだ?」
…仮面がダメだったみたいだ。可愛いと思ったがもしかしたらひょっとこは可愛くないのかもしれない。だが、身バレ防止のために仮面をつけるのを辞めるつもりはない!仕方ない!私は両親に冒険者なことを伝えていないから周囲に顔を晒す訳にはいかないのだ。些か過保護な両親だからバレたら二度と冒険者としてお金を稼げないかもしれない。それは大変だ。
冒険者にはランクというものがありA~Fまである。
パーティランクもあるが私には関係ないないので覚えていない。
A⋯ 個人におくられる最高ランク。依頼達成率8割以上でギルド指定の条件をクリアする必要がある。到達できる人はひと握り。
B⋯ベテラン。実技、座学の試験に合格した者。尚且つCランクの依頼を指定の条件まで達成した者に贈られる。身分のはっきりしたものが最低条件。
C⋯1人前。馬鹿で座学落ちしBになれない者が燻っていることが多い。
D⋯討伐やダンジョンの調査など命の危険が伴う依頼を受理できる。
E⋯未成年が取得できるランクはここまで。Fランクを指定の条件までこなせば誰でもなれる。
F⋯駆け出しの冒険者。みんなここから始まる。採取、掃除、運搬、住民支援などの依頼が受けられる。
私はBランクである。18歳になった途端に全力でランクを上げたのだ。その目的は勿論、より効率よくお金を稼ぐためである。
ギルドを出ようとする私に扉から入ってきたパーティの1人が声をかける。
この人はよく私を気にかけてくれる真っ白い人である。名前はわからない。私は人の顔と名前を覚えるのが苦手なのだ。白い以外の印象はないので勝手に白先輩と呼んでいる。
「夜凪、今から仕事?」
「はい」
正直私のことは放っておいて欲しい。私は昔から人付気合いが苦手だし、人への興味が薄いのだ。
「そうなんだ。中層の討伐依頼?それとも隣地区のダンジョンの探索?」
白先輩はギルド入口から歩いてきて私の真正面に立つと上から私を見下ろす。相変わらず背が高いな。嫌なんだよなぁ。自分より強そうな人に近づかれるのも見下ろされるのも。緊張する。この人と接点ないし急に話しかけられるのも困る。
白先輩はいつも楽しそうだ。私と会うと目を細めて口角が僅かに上がっている。きっと私が益か不益か判断してるのだろう。
以前もいたのだ。勝手に突っかかり勝手に消えていく輩は。急にランクの上がった私が気に食わないか、パーティに誘うか、都合のよい玩具か。白先輩はどれかな。まあ、どうでもいいけど。
そもそも大人になっても冒険者なんて命の危険がある仕事をしてる人なんて才能があるか変人しかいない。全力で関わりたくない所存だ。
「ここのダンジョンの中層で魔物狩りです。」
「じゃあ、これあげるよ」
そう言うと白先輩は自分のネックレスを引きちぎりネックレスについていた魔石ごと私に渡してくる。
「…え」
「御守り」
この魔石は純度が高く魔力含有量が多い。それに高度な術式が込められている。普通に買えば600万円はしそうだ。
私はドン引きだ。
うわ、守護の術式張りまくりだ。絶対高いやつだ。絶対そうじゃん。見返り何?こっっわ。悪鬼退散。破邪顕正。祓えたまえ清めたまえ。消えろ!魔物め!
勿論怖いのでそんなことは口に出せないが。
「御守り……。い、いえ。受け取れません。気持ちだけで、ありがとうございます。」
私は押し付けられたネックレスを白先輩へと返す。受け取ろうとしないので手を取り無理やり握らせる。できるだけ触らないようにしたが限度がある。
…後で手洗お。
チラと握らせたネックレスから白先輩の顔に視線を向けると
ゾワッ!
青灰色の瞳に愉悦の色をのせた白先輩が私を眺めていた。いや、観察していたといった方が正しいだろうか。
うっわ、仮面越しなのに目があった気がする。やっぱやばい人だ。関わらんとこ。
「では。」
私はそう言うと足早にギルドから出ていく。ついでに近くのコンビニにより手を洗う。
彼女が己から逃げるように足早に去っていくのを白先輩、もとい黒々真白は楽しげに眺めていた。
その様子を仲間の紳士のパーティメンバーらが冷やかす。
とてもダサいが 紳士のパーティ というパーティ名である。パーティ結成時、誰もこの名前に異議を唱えなかったのか、センスのなさが恐ろしいものだ。
その紳士のパーティ所属、紳士のパーティメンバーの1人である真白は彼女が出ていった扉を眺めていた。
その顔は誰が見てもいじめっ子にしか見えない。いや、動物を虐めて楽しむ歪んだ笑みにしか見えない。
紳士のパーティのリーダーが言う。
「自由恋愛は構わないが紳士のパーティらしく紳士的に行動しろよ?」
他の仲間たちは冷やかしている。
「鏡貸してやるよ、犯罪者。その面見てみろ。」
「ストーカーも無理強いも犯罪だぞ。お前が捕まったら泣いてやるよ。うっ、うっ、真白君は前から犯罪しそうな人でした。何度も止めたのに…!!」
「それあげるのは重くない?」
真白は揶揄われても気分が良いのか笑みを保ったままだ。
それに余計に騒がしくなる紳士のパーティ。3人揃った女よりもはるかに姦しくしながら受付へと向かう。
Aランクの依頼を受付しながら仲間のひとりが真白へ問いかける。
「てか、なんであれなの?態度可愛くねぇし、暗いだろ。前の女が勿体ねぇ。」
「何となく」