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私の日常  作者: 緋鯉
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ああ、今日は金曜日か。


いつもと変わらない朝の始まり。

ベッドに横になったままスマホを手に取り、無意識に画面をスクロールする。

ギルドの掲示板に掲載されている魔物の懸賞金額を確認して、ため息がひとつ。


「……はあ。」

朝は憂鬱だ。めんどくさい1日がまた始まるのだから。


私は今日1日の予定を考える。

今日は金曜だから泊まりでダンジョンの中層魔物狩りに行くか。あー、めんどうすぎる。布団からでたくない。


「…ああ、やめて、お布団さん!あなたの気持ちには答えられないわ。助けて枕さん。布団さんが私を離さないの!……。」


布団に抱きついたまま声を上げる。

…なんて無駄な時間なのだろうか。朝からちょっとした茶番をしつつも私は渋々とベッドから起き上がりリビングへと向かう。

視界に入ったリビングは物で溢れかえり余計に朝の陰鬱な気持ちに拍車をかける。大学進学と同時に一人暮らししたがずぼらな性格のため私の部屋は常に散らかっている。


リビングから洗面台へ向かい、顔を洗いながら考える。

「今日は大学の講義は二限までだから一旦家に帰ってギルドに、…あー、やっぱり荷物全部もってった方がいいか」


大学へ行くための身支度をすすめていく。

腰まである長い黒髪は丁寧に櫛で梳き、椿の香油をつける。その後、髪を痛めないように丁寧に編み込み肩から垂らす。よし、綺麗だ。


魔力とは体だけでなく、切り落とされた髪や爪、己から離れた体の一部にも残る。そのため髪を伸ばす魔術師はそれなりにいる。大抵は魔力の貯蔵や魔法の媒体とするために高品質を維持し丁寧に扱う者が多い。彼女もそのうちの1人だ。


髪をまとめメイクをした後はダンジョンへ行く装備を決めていく。


私は床に転がる魔道具を足蹴にし、机の上にある宝石のついた鞘付きの短剣をソファに投げる。そして乱雑に置かれている魔道具の山から大学で使う講義資料を引きづ出し先程の短剣と共に鞄に詰める。

その後、壁に立てかけられている杖には目もくれずその隣の戸棚へと向かう。最近愛用している装備が入っているのだ。棚の中からブレスレット1つと指輪を5つ手に取り両手の指に嵌める。


「今日は中層で豚狩りだから剣で行くか。杖なしだから、補助はつけないとね。んー、指輪とブレスレットにするか。魔力伝導率補助と出照射性を高めて、もしもの時は魔法で殺す。よし、これで行こう。

……ああ、危ない危ない。これは相性悪いから一緒に付けれないんだった。赤の気分だったけど黒でいいか。」


悲しいかな。一人暮らしが長いと独り言も多くなる。私は装備同士の相性に気をつけつつ身につけつつ準備を終える。

「行ってきます」




大学へつき教室へ入ると同じ講義を受講している友達が声をかけてくる。彼女は橘菫という小学生からの付き合いだ。

髪に緩くパーマをあてている小柄でプードルみたいに可愛らしい子である。


「あ、おはよるぅ。今日はダンジョン?森?」

橘はニコッと笑いながら挨拶もそこそこに今日の行き先を尋ねてくる。今日も可愛いらしい笑顔だ。


「おは。今日は泊まりでダンジョンで豚狩り。土日はいい得物がいれば森。」


「そっかぁ。今日森なら一緒に行きたかったのになぁ。」

残念そうに言う橘は椅子に座り机にグデェと上体を投げ出している。

そんな橘を一瞥しその隣に座る。鞄から講義に必要な必要な資料を取り出しながら問いかける


「森なんか旬の獲物いたっけ?」


「なぁにも。でも森行くなら私の家の森に誘いたかっただんだぁ。魔力溜まりからちらほら魔物出てるから駆除して欲しくって。」


橘の実家が保有する土地には山が2つと深い森がる。そして森と山に1つずつ龍穴がある。その龍穴の魔力が滞り吹き出すとそ魔力に当てられた動植物が魔獣化したり魔力溜まりから魔物が現れるのだ。魔獣化する生き物はその年の気候に合わせて大量発生した生き物がなる確率が多い。今年も魔物の繁忙期がきたのだろう。


「…あーね。あったねそういえば。おけ。明日午後から行くよ。ダンジョン探索終わってから。月曜の朝までには終わるはず。どうする?ギルド通して依頼する?個人にする?」


依頼には2つ種類がある。ひとつはギルドを通して依頼する方法。依頼を行うと事務処理までの時間がかかり、ギルドに仲介料を払うが確実に依頼達成に向けて動いてくれる。また依頼を受注したハンターが依頼失敗すると失敗に伴い出てくる依頼者の損害の補填、保証まで何割か負担してくれる。ハンターとしてはギルドを通して依頼を受けると加入している保険の種類によってはギルドやギルドの保険会社が有事の際に守ってくれるのだ。何より大事なのが成功時、確実に事前情報通りの報酬が手に入る。


ギルドを通さず個人で依頼を受けると報酬の内容が変わっていたり、報酬と働きが見合っていないことも多い。個人間同士の取引になるため揉め事が多く起こるのだ。


橘家から私への依頼は毎年のことなので返事は予想通り、

「個人に決まってるでしょ。ギルド通すなんてまじ時間と金の無駄。てか泊まるなら家に泊まりなね。野宿はダメ。」

個人依頼だ。毎年ありがとう橘家。稼がせてもらってます。そして眠ったら広い土地の魔物駆除なんて終わらないかは眠るつもりはないよね。


「無駄なのわかる。てか眠るつもりないからいいよ。それにそこそこ大事な急ぎ案件じゃん。メールすれば良かったのに。」

私は橘に賛同しつつメールをしないことに疑問に思う。いつもならくだらないメールが多いのに。


橘はいささか呆れたように言う

「めっちゃ急いでる訳じゃないしね。それによるはメール見んの遅いじゃん。会って言った方が早いよ」


「…確かに。何も言い返せなくて草」


「はっ(笑)」

橘は鼻で笑うとスマホをいじり始めた。なんて酷いやつだ。私は少し落ちこみ机に突っ伏した。落ち込んだまま橘に言う。

「今年はなに種が多いの?」


「植物と虫同じくらい。虫は甲殻類?なんか硬いのが多い気がする。

昨日なんてさぁ、壁壊して1mくらいのでっかい虫が家ん中入ってきてさぁ。本当にキモかったァ。まじ激ヤバ。お母さんは絶叫するし、弟は飼いたいって煩いしやばいよね」

「へえ、それで。どうなったの?」

「お父さんが叩き潰しちゃった」


思わず笑みがこぼれる。確か橘の父親も虫が苦手だった気がするが随分と頑張ったのだろう。

「ふふ。流石橘パパ強いね。それで、高く売れた?甲殻と魔石はいい値段着きそうだけど」


橘は肩を竦めて言う。

「ぜーんぜんダメ。潰れた外骨格は売れないし魔石はお清めで使うからね。家の壁代だけマイナス」


「最悪じゃん。どうする?報酬いけそ?」


「大丈夫。どうせ祭りで稼ぐし国から援助も降りるもん。」


余裕そうに言う彼女の家は歴史ある神社であると共に龍穴を管理する家でもある。龍穴を管理する家は危険性から国からいくらかの支援金が降りるのだ。彼女の家系は古くから龍神を祀りその土地のエネルギーを利用し整えることのできる加護を得ているのだとか。そんな彼女の実家である神社は年に二度、盛大にお清めを行い、龍神に神楽や貢物を捧げている。その時に龍穴を整え、魔力の滞りを無くし流れを正し管理をしている。



「ならいいや。友達価格で安くしとくよ。

ああ、今年は虫多いのかぁ。きも。来年は鳥が増えたりしそう。私もお清め参加する?」


数年前に鳥や蜂などを大量に狩ったため天敵が減り良い具合に環境条件が整い虫が増えたのだろうか。


「えー?お清め参加してくれるのぉ?よるちゃん魔力多いから龍神様も喜ぶよぉ。神楽もお願いできる?」


橘はスマホを机に置くと両手を組み彼女を上目遣いで見つめる。顔がいい。それに私ははため息をつく。なんと調子の良い友人だ。


「だが断る!百歩譲ってお清めはいいとして神楽は断固拒否。龍神様は好きだけど公の場で踊るわけない。踊るくらいならしぬ。てかお前を殺す。あばだあばだ」


橘の目はハイライトを失いこちらを路傍の石のような目で見つめる。

「はぁ、ど陰キャで草」

やれやれと首を横に振り嘲笑う。


相変わらず橘という女は辛辣だ。幼馴染でなければ関わらないぞ。だいたい人前で踊ることが恥ずかしくないのだろうか。私なら無理だ。恥ずかしい。

「…酷くて草。もう怒った。討伐したらすぐ帰る。長居は無用。報酬は全額送金だ。龍神様への挨拶もしない」


まあ、全く怒ってないし冗談なのだが。今度は私がスマホを眺める番だ。真顔でスマホを弄る。何か言い募る橘を無視しもう一度、今日討伐するダンジョンの魔物を調べていく。ほほう、やっぱりダンジョン中層は実入りが良いなぁ。オーク肉はジューシーで美味しいし牙狼は毛皮も牙も角も高く売れる。宝箱落ちてたら最高だ。


おや、橘が何やら鞄を漁っている。

「えー!よるえもーん!ダメだよそれはぁ。龍神様怒ると怖いんだよお。許してよぉ!よるえもーん!」


橘は彼女の機嫌を取るべく鞄から飴玉を取り出した。そして彼女の口に無理やり詰めていく。1つ、2つ…5つ目を入れようとした時に彼女は反応する。

「お前、頭だいじょぶそ?口破裂するんだけど。」


「ごめんてぇ!飴食べる?」


「もう食べてるよ」


そうしてくだらないやり取りをしながら講義が始まっていく。

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