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第六章 新しい世界へ


 シリウスの言葉に従い、マムは心に決めた願いを胸に、『星のしずく』にそっと触れました。その瞬間、谷全体が眩い光に包まれ、夜空の星々が降り注ぐように、マムの周りで無数の光が舞い踊りました。


 その光は柔らかく、暖かく、まるで家族のぬくもりに包まれているような安心感に満ちていました。マムは目を閉じ、その光を心に刻むようにじっと感じ取っていました。そして、目を開いたとき、マムは自分がふるさとの町に戻っていることに気づきました。


「ここは・・・ぼくの町?」


 町はいつもと同じ場所にあるはずなのに、どこか違って見えました。家々や道の石畳、そして遠くに見える山々や空が、ほのかな輝きに包まれているのです。まるで、星の谷の魔法がそのまま町に流れ込んだかのように、景色全体がきらきらと光り輝いていました。


「ただいま・・・」


 マムは町の風景を見渡しながら、小さく呟きました。そこには、旅の仲間と共に過ごした日々を思い出させるような温かさと、確かな幸せが広がっていました。


 通りを歩く人たちの笑顔、風に揺れる木々の葉、青空に浮かぶ雲―どれもがマムの目にはまるで宝石のように美しく、心を優しく包み込むものでした。あの日、星のしずくを守るシリウスが言った言葉がふと浮かんできます。


「君の心が輝くように、君の帰る場所もまた輝くだろう」


 シリウスの言葉通りでした。自分の中で見つけた『大切な人と一緒に過ごせる幸せ』が、こうして日々の光景にも魔法をかけたかのように感じられたのです。


「グリム、ピコ、ありがとう。おかげで本当に大切なものが見つけられたよ」


 町を歩きながら、マムは心の中でそっと感謝を伝えました。旅で得た経験は、決して消えない宝物となって、マムの中に息づいているのです。そして、ふと空を見上げると、そこには青く澄んだ空と、まばたく星のような雲が浮かんでいました。


 マムは、自分の家の前にたどり着きました。旅を終え、見慣れた家の扉に近づくと、どこか懐かしい香りが漂ってきて、胸がじんわりと温かくなります。マムはそっと扉の隙間から中に入り、音を立てずに部屋へと進みました。


 その時、家の中で真夢を探していた飼い主の少年がマムを見つけて声を上げました。

 

「お母さん! 真夢が帰ってきたよ!」


 少年は急いで母親を呼びながら、優しく真夢を抱き上げました。久しぶりの温かい腕の中、真夢は小さく「ニャー」と鳴き、ふわふわの毛をなでる手のひらの温もりを感じました。

 

 少年の優しい笑顔と、母親の安堵した顔を見て、真夢は心から『ただいま』という気持ちが湧いてきました。


 しばらくして、真夢はいつものお気に入りの場所―出窓へと歩いて行きました。出窓に音もたてずに飛び乗り、寝そべると外の景色を眺めます。どこかで見たような緑の森が風に揺れていました。

 

 今は遠い星の谷を思わせるようなきらめきが、町のあちこちに散らばっているように感じます。


 そして、真夢の心の中には、旅の仲間たちの姿が浮かんできました。いつも支えてくれたグリムの静かな瞳、ピコのいたずらっぽい笑顔、それぞれとの冒険の思い出が、心の中で温かく輝いています。

 

 彼らと共に過ごした時間は、決して消えることのない宝物であり、真夢の心に根付いた光でした。


 外の景色を眺めながら、真夢はふと考えます。


「またいつか、あの星の谷に行けるかな?もっと新しい冒険が待っているかもしれない」


 真夢の小さな心には、帰る場所の幸せと共に、再び未知の世界へと向かう好奇心が芽生えていました。仲間と見た星の光が、今も真夢の胸の中で優しく輝いています。


 そして、温もりに包まれ目を閉じた真夢は、もう一度どこかで始まるであろう新しい冒険を夢見ながら、穏やかに、幸せな眠りにつきました。


お読み下さりありがとうございました。

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