第五章 本当の願い
シリウスから試練を告げられたマムは、深く考え込みました。まばゆい星の谷で静かに息をするように輝く『星のしずく』
願いが叶うというその神秘的な光がマムの胸に問いかけてくるようでした。
「願い・・・ぼくの本当に叶えたいことって、なんだろう?」
マムの心にいくつかの願いが浮かび上がります。
『もっと大きな猫になりたい! そうすれば怖いものなんてなくなるかも!』
『それとも、もっと速く走れるようになりたい! みんなの役に立てるように、もっと強くなりたい!』
そんな思いが浮かんでは消えていきました。マムが旅に出る前に描いていた願いはどれも魅力的で、あれば便利かもしれないと思えるものばかりでしたが、どこか心の奥でしっくりこない感覚が残ります。
考えを巡らせるうちに、旅の中で過ごしたたくさんの出来事が心に蘇りました。暗い森でのキツネとの対峙、いたずら好きのピコとの出会い、迷子になったときにグリムがそばにいてくれた安心感。それぞれが困難な瞬間もありましたが、振り返ってみるとそれ以上に心が温かくなる思い出が詰まっていました。
マムは左右にいるグリムとピコを交互に見て思います。
「僕の本当の願いって、何だろう?」
その問いに、マムの心はゆっくりと答えを見つけていきました。
一緒に過ごしてきた時間、支え合ってきた思い出、互いを助け合ってきた絆。それがなければ、ここまで来ることも、試練を前にして心が迷うこともなかったでしょう。そして何より、彼らと一緒にいると、マムの心はいつも輝き、安心して満たされるように感じていたのです。
「わかった。ぼくが本当に願っていたのは、もっと大きくなることでも、速く走れることでもなくて・・・大切な人たちと一緒に過ごせる幸せなんだ」
そう気づいたとき、マムの心はすっと軽くなり、胸の中が温かな光で満たされるようでした。
マムはしっかりとシリウスの目を見て答えました。
シリウスもマムの目をじっと見つめ、ゆっくりと頷きました。
彼の青い瞳には、マムの心の奥深くまで見通すような穏やかさが宿っています。
「その願いは、すでに君の中にあるようだな。大切なものを手にするためには、大きな力や速さは必要ない。君の心が輝き、周りを照らしていく。そうすることで、君の帰る場所もまた輝くだろう」
シリウスの言葉を聞いて、マムははっとしました。力や速さを求めることなく、ただ仲間と一緒にいること、それこそがかけがえのない宝物であり、旅をしてきた意味だったのだと。
シリウスは優しく微笑みながら、再び静かな声で語りかけます。
「君のその願いを持って、仲間たちと共に未来を歩んでいきなさい。星のしずくは君の心を照らす光となり、君が帰る場所を導くだろう」
マムは深く頷きました。マムの小さな心には、星の谷の光と共にシリウスの言葉が刻まれ、帰り道への道しるべとなるのでした。
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