第三章 森の試練
マムはその言葉に背を押されるように、全速力でその場を駆け出しました。木々の間を抜け、ただ無我夢中で走り続けます。
振り返ることもできないまま、マムの心にはキツネの鋭い目と、不気味な笑い声がこびりついていました。
やがて、森の暗闇がさらに深くなる中、マムはとうとうグリムの姿が見えなくなったことに気づきました。キツネの追跡を恐れてただ逃げるうちに、二人は完全にはぐれてしまったのです。
立ち止まって大きく息をつきながら、マムはかすれた声で
「グリム、ねぇ、グリム、どこにいるの?」とつぶやきましたが、返事はありません。
静まり返った森の中、マムはひとりぼっちになってしまったのです。
「グリム!どこにいるの?グリム!」
マムは何度も呼びかけましたが、返事がありません。周りは見たこともないような暗い木々ばかり。空は覆いかぶさる木の枝でちらりとも見えません。
マムの心はだんだんと不安に染まっていきました。どうしよう、どの方向に進めばいいのかも分からない・・・。
段々と辺りは暗くなっていくばかりです。マムは涙が流れるのを堪えながらグリムを呼び続けます。
その時、『クスクス・・・』と小さな笑い声が聞こえました。
マムは驚いてあたりを見回しましたが、誰も見当たりません。
「ここだよ、ここ!」
マムが声の方を見上げると、木の枝の上に小さなリスがひょいと飛び出してきました。茶色くて大きなふわふわの尾を揺らしながら、マムを見て面白そうに笑っています。大きな目をマムに向けながら、
「なにをキョロキョロしてるんだい、子猫ちゃん?迷子になっちゃったのかい?」
「そうだよ、僕のお友達を探しているの。フクロウのグリムを見なかった?」
マムが真剣な顔で尋ねると、リスはクスクスと笑いながら、
「ふふん、君みたいな小さな猫がこの森を抜けられるかな?」と茶化します。
「僕だって冒険に出たんだから、必ず道を見つけるんだから!」と、マムはリスの言葉に負けじと返しました。
「じゃあ、ぼくが案内してあげようか?でも、案内料がいるよ、なんてね!」
リスはいたずらっぽい笑顔を浮かべながらマムに言うと、マムが真剣に頷いたのを見て、少し驚きました。
「本当に信じてるのかい?」
「うん、だってグリムを見つけないと、星の谷に行けないもの!何が欲しいの?」
マムのまっすぐな言葉に、リスは少し表情を柔らかくしました。
「へえ…そんなに大事な友達なんだね」そう言いながら、リスは木からひょいっと降りてきました。
「ぼくはピコ。いたずら好きってよく言われるんだけどね、まあそれは置いといて。よし、上から探してみるよ」
ピコはするすると木を登り、森の木のてっぺんからあたりを見渡しました。森の上からは少し開けた場所が見え、少し離れた木の枝にとまって周囲を見渡しているグリムの姿が見えたのです。
「いたいた!あそこだよ、君のフクロウさん」
ピコが指差した方向を見て、マムは心の底から安堵のため息をつきました。
「ピコ、本当にありがとう!」
マムがその方向に走り出して行き、再びグリムと合流すると、グリムも少し心配そうな顔をしていました。
「マム、大丈夫だったかい?」
「うん、ピコが助けてくれたんだよ!」とマムは嬉しそうに答えました。
少し遅れてやって来たピコが、少し照れたように
「ふん、たまたまさ」と言いながらも、どこか嬉しそうにしています。
「ピコありがとう。僕の持っているものでよければあげるけど、案内料は何が欲しの?」
マムが少し心配そうにピコに話しかける。
「ねえ、僕も君たちと一緒に行ってもいいかな?」と、ピコは急に真剣な表情になって言いました。
「星の谷ってちょっと面白そうだし・・・。それに、誰かの願いが叶うなんて、そんな場所、見てみたいからさ!」
グリムとマムは顔を見合わせて笑い、
「もちろんだよ、ピコ!」と声をそろえて答えました。
ピコも嬉しそうに頷き、三匹は新たな仲間として、さらに星の谷を目指して旅を続けることになりました。
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