第二章 深い森
朝日が山の向こうから顔を出す頃にマムとグリムは星の谷へと向かう旅を始めました。地図に示された最初の目標は、町から少し離れた【深い森】です。グリムの話では、森の中にはいろんな動物が住んでいるけれど、そこを抜けた先に星の谷へと続く道があるというのです。
「さあ、マム。長い道のりが待っている。足元に気をつけて進もう」とグリムが注意深く言いました。
「うん、僕にはグリムがいるからきっと大丈夫だよ!」
マムは元気よく返事をしました。
深い森に近づくにつれて、空気はひんやりとしてきて、木々が道を覆い隠すように立ち並び、陽の光がほとんど差し込まなくなりました。昼間でも薄暗い道にマムは少しだけ不安を感じましたが、グリムがそばにいることを確認しながら、前に進みました。
ところが、森の奥へ入ると木々がさらに密集して、夕方には霧も立ち込め始めました。枝が揺れてはあちこちで影がちらつき、どこかで小鳥が鳴くたびに、マムの大きな耳がピクピクと動きます。
しんと静まり返る森に、突然前方でガサガサと葉がこすれる音が聞こえてきました。マムの大きな耳がぴんと立ち、グリムも翼を広げて身構えます。
「気をつけるんだ、マム。」グリムが静かに囁きました。
その瞬間、低い唸り声とともに影が動き、二人の前にするすると現れたのは、一匹の赤茶色のキツネでした。鋭い目が光り、冷たい笑みを浮かべてマムとグリムを見つめています。
「こんな暗い森に小さな猫とフクロウとは、珍しいお客さんだな」
キツネは目を細めて笑い、鋭い牙を覗かせました。
「ここは俺の縄張りなんだが、どうして入ってきたのか、話してもらおうか?」
マムはその冷ややかな視線にすくみあがり、グリムにしがみつきたい気持ちをぐっとこらえていました。キツネはじりじりと二匹に近づきながら、
「君たち、道に迷ったのかい?それとも、わざわざこの俺を訪ねてきたのかな?」と冷たくからかうように言いました。
グリムは翼を広げ、マムを守るようにその場に踏みとどまりました。
「私たちは星の谷を目指しているのです。どうか通してください」と、グリムが冷静に話しかけましたが、キツネはくつくつと笑いました。
「星の谷?ずいぶんと遠い場所を目指しているなあ。だが、ここを通るには相応の代償が必要だ」キツネの声は低く、不気味さを増していきます。
マムは心臓がどきどきと音を立てるのを感じながら、それでも勇気を振り絞って言いました。
「僕たちはどうしても星の谷へ行きたいんだ。お願い、通してくれないかな?」
その言葉を聞いたキツネは、面白そうに目を光らせました。
「お願い、だって?」
キツネはくるりと尾を一振りし、さも楽しそうに舌を鳴らしながら、
「ふむ、ではお前がその願いの代償として差し出すものを見せてもらおうか」
マムは少し怯えた様子で、グリムの方を見上げました。グリムが何か言おうとした瞬間、キツネが鋭く声を遮りました。
「待て、フクロウの話は聞かない。小さな猫、お前の覚悟を見せてみろ」
キツネはじりじりと近づき、その金色の目がじっとマムを見据えました。その視線に、マムは自然と後ずさりしましたが、背後にはもう木が立ちはだかって逃げ道はありません。グリムがそばにいると信じているものの、キツネの迫力に全身がすくみあがりそうでした。
しかし、マムは小さく深呼吸をして、できるだけ落ち着こうと自分に言い聞かせました。彼の視線を受け止めて、真っすぐにキツネを見つめ返します。
「僕は、グリムと一緒に星の谷に行かなきゃいけないの。それが僕にとって何よりも大切なことだから、怖くても進むよ」
マムは震えを隠すように声を張り上げました。
その様子を見て、キツネは一瞬目を丸くし、興味深そうに鼻をひくつかせました。
「ほう、なかなか面白い猫だな」
キツネは少し驚いたように見えましたが、すぐに薄笑いを浮かべて続けます。
「なるほど、覚悟はあるようだ。だが、そう簡単に行かせるわけにはいかない」
そう言うや否や、キツネは鋭い動きでマムに飛びかかろうとしました。マムはぎゅっと目をつぶりましたが、その瞬間、グリムが勢いよく翼を広げ、キツネの目の前に飛び込んで大きく羽ばたきました。
バサバサと風が舞い上がり、キツネの視界を一瞬さえぎりました。
「マム、今だ!走るんだ!」グリムが大声で叫びます。
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