黒羽織に救われたのよ
21世紀になってから暫くの頃から、カジュアル系の着物雑誌で、木綿の着物が紹介される事が多くなった気がする。
木綿縞や絣や唐桟縞ばかりではなくデニムの着物なども注目されたし、ネットショップでは洋服地の木綿の着物なども売られるようになった。
私も近所の呉服屋さんでアッシュエルブランドのモノトーン色のチェックの木綿着物を見つけて、手洗いしながら楽しく着ていたものだ。
半衿を見せて、お太鼓を締めれば結構ちゃんとした紬の着物に見えて、重宝した。
洋服の木綿は春夏むきだが、着物の木綿は温かい。
浴衣みたいな薄手の染めのものは夏向けだが、久留米絣や会津木綿みたいなものは秋冬向けで、羽織ものがあれば南関東の真冬も問題なく過ごせた。
そんな折、黒ベルベットの羽織をネットで手に入れた。
厚手なので、コートの代わりになる羽織だ。
そんな折、入ったばかりの集まりの忘年会が中華街の老舗で開催される事に。
その集まりはいつも、洋服の人はデニムやチノパンにチェックのシャツで来るような感じ。
ならば着物ならば、紬に見える木綿着物に黒ベルベット羽織が浮かないな。
そう思って私はアッシュエルモノクロチェック着物に塩瀬の染め帯をお太鼓にして、黒ベルベット羽織を引っ掛けて、会場であった大学時代からお馴染みの昭和な建物の老舗に出かけたのである。
着いてびっくり。
洋服のメンバーはいつも通りのデニムチノパンチェックシャツにセーターだが、着物の人は皆んな
「お着物でございます」
と言わんばかりの錦の帯を締めた訪問着ばかりではないか。
しまった間違えた!とは思ったが、幸い羽織は室内でも脱がなくて良い衣服である。
20世紀後半は、黒い羽織さえ着ていれば式典に出られるとして学校にくるお母さん方が皆んな黒羽織だったため、カラス族とまで揶揄されたくらい黒羽織が使われた。それくらい黒羽織は人を立派に見せたのだ。
結局私は、暖房の効いた室内でも、ベルベットの羽織を脱がない事でその場を切り抜けたのだった。
ああ、あの黒羽織を買って本当に良かったと思った。
その経験を踏まえて私は、ベルベット以外の黒羽織も買い揃えた。一つ紋付の高級化繊の袷、黒レース、そして夏用の紗である。これだけあれば普段着を格上げする事ができるから安心した。
しかし同じ失敗はしない。翌年の忘年会には私は訪問者を着て、中華街の昭和老舗に向かった。前年は確かに黒羽織に救われたが、室内でコートにもなるような羽織を脱げないのはやはり暑くて辛かったのだ。今回は快適に過ごすのだ!
ところが会場に来てみると、今度は私以外の着物組は紬やウールの着物ではないか!
訪問者なんか私一人だぜ。
皆様仰るのよ、貴女が紬で大丈夫だったから、コレでいいんだとわかったの、と。なんてこったい。
式典ではない席の服装に決まりなんかないという事がよくよく分かる、濃い1年間でありました。