4 モナミちゃんステータスの話を聞く。
設定を考えるのは大変です。でもそれが作品を良くするかは……何とも言えないのです。げふっ。
なんかステータスの説明が始まることになった。でも私はナマコなの。この日差しに微睡むのがナマコ道なの。ぐぅ。
私がうたた寝しててもナビの説明は続いていた。……ぐぅ。
『ステータスは四種類だけじゃん。体力と力と知力と素早さじゃん』
「へ~……」
ぷひ~……日差しが温いですわ~。
『まずは体力じゃん。これはそのままHPに直結するじゃん。上げておいて損はない。そんなステータスじゃん』
「ほぇ~……」
そよ風が気持ちいいわ~……ぷす~。
『次は力じゃん。これは持てる武器の重さに直結するじゃん』
「へ~…………は? 武器?」
夢うつつで聞き間違い……か? 変な単語がロックユー……。
『……装備欄をステータス画面から見てみるじゃん』
えーと……半分寝てたんだけど目が覚めちゃった。んとんと……あった!
……あった?
「……頭、胴体、腕、足、指輪……おい、貴様。ナマコに何をさせる気だ」
ナマコに足とか……諸々とふざけているとしか思えない。これはモナミちゃんが怒って然るべき案件とみた。
そして分かりやすく光虫が狼狽した。
『……システム的なあれじゃん。そこはゲームじゃん! 装備出来る部位が多いと得した感じじゃん?』
「……まぁ確かにね」
怒れるモナたんは、ほんのりと納得した。昨今のVRゲームでは武器一つに防具一つとか良くあるし。ちょっと前までのゲームは装備を変えると当然のようにプレイヤーキャラのビジュアルが変わった。まぁ今も変わるんだが、今の主流は部位ごとの変更ではなく一括変更なのだ。
VRのゲームではプレイヤーの感覚が一番の肝となる。
装備品を変えるとビジュアルが変わるけど、それで体感が変わるのは頂けない。というかそれでバグが多発したから今のVRゲームでは体のパーツごとに装備を変えるという発想は基本的に存在しない。武器は基本的になんでもありなんだけどね。
VRゲームは一昔前のゲームとその辺が違うのだ。
しかし必死に言い訳する姿に後ろめたさを感じた。こいつ、まだなにか隠してやがるな? そんな思いを抱いたモナミちゃんである。
ナビの説明はまだ続く。
『今のところ力が関係するのは武器だけじゃん。防具はまだAI会議で揉めてるじゃん。体力にするか力とまとめちゃうか、もうしばらく議論するじゃん』
まだ議論中なのか。大丈夫か、このゲーム。モナたんも不安になるぞ。というかそれをプレイヤーに言って良いのだろうか。まぁ気にしてはいけないわね。ここはさらりと流すことにした。
「そうなんだ。でも武器なんてナマコにどうやって持たせるの?」
じっと我が手を見つめてみる。
……手は無い。なにせナマコだ。生のナマコよ? いや、本当にどうすんの?
『……ナマコに装備可能な武器は存在しないじゃん』
……ん?
「……んん? なんか変なことを言ってないかな? お姉さんに詳しく教えてくれるかしら?」
私の聞き間違いよね、きっと。ええ、きっと聞き間違えなのよねぇ。だってねぇ? そんな馬鹿なことを……ねぇ?
モナたんはちょっとオーラを発動させちゃうわ。背中に『ゴゴゴオーラ』をね。
『ひぃ!? モナミはヤクザじゃん!? ナマコなのにオーラがヤクザじゃん!?』
「お黙り! 装備出来ないのに何でこんなもん作ったのよ! わざわざご丁寧にステータスまで作りやがって! 温厚な私でも怒る事案よ! ここにマグナムが無くて助かったわね! もしあったら有無を言わさずクイックドローで六発ぶちこんでるところよ!」
モナミちゃんのガンさばきは熟練のガンマンのそれ。あれもVRだから大変だったわー。練習で手に豆が出来たし。今はもう無いけどね。
『……ナマコには装備出来ないじゃん』
「だから何故に…………ナマコには?」
光玉の言い回しに詐欺師の気配を感じた。言葉に切れが無いのも気になる。ピカピカも弱々しい。これはもしかすると……。
『ネタバレは良くないじゃん。という訳で……あ、防具も基本的にナマコは装備出来ないじゃん。でも指輪は二個まで装備出来るじゃん。どこに着けてるのかはゲームだから是非スルーして欲しいじゃん』
やはりこいつは軽かった。
「なんかすっごい重要な情報みたいね。それは公式で発表されてないの?」
だって装備……頭に胴体、それに腕と足って……明らかに人が出てくるというか、人間前提の装備欄だ。さっきからこいつが匂わせていたのはこういう事だったのか。
ふむー。これはゲームを進めると人間に成れる、という事なのだろう。
『社長がサプライズって言い張ったじゃん。AI総会議でもサプライズが決定したじゃん』
「え、マジで人間になれるの? スキル? スキルなの?」
モナたん気になるー!
『その辺も説明するじゃん。でもまだステータスの説明じゃん? 力は武器、これでいいじゃん?』
「ええ、ナマコには屁の役にも立たないステータスね」
『ぐぬっ! つ、次は知力じゃん。知力はNPの最大値と魔法威力に関係するじゃん』
「……おい待てこの光玉」
『あとフレーバーテキストの情報を読み込むために必要になるステータスじゃん。これが高いと色々な情報が追加で見れるようになるじゃん。ゲームを楽しむためにはぜひ上げておくべきじゃん』
「まてごらぁ! 魔法って何よ! 魔法って!」
猛るモナミちゃんを無視して光玉は事務的に説明を続けていた。モナミちゃんは突っ込むわよ。そして抉り抜くわよ?
『……キャラクタークリエイトで職業を選ぶじゃん。戦士とか魔法使いとかあったじゃん』
「……あったの?」
ナビの疲れた声にモナミちゃんは少し冷静になる。
そう言えば雑誌にもそんなことが書かれていたような。え、でも魔法って……どうなの? このゲームが分からない。分からないよ。モナミちゃんは常識人だから分からないの。
ナマコで魔法?
ナマコマジシャン?
ナマコウィザード?
『モナミはとりあえず盗賊にしてたじゃん』
「なぬぅ!?」
何故に盗賊!? 何故わざわざ盗賊にした!? そのときの私はアホだったのか!?
『あのときモナミは混乱してたから……今からでも直すじゃん?』
光の玉の譲歩に私の頭は冷えていった。なんか熱くなってばかりだけどそれが女子高生というもの。こればっかりは仕方ないの。
それに……考えてみたら盗賊も悪くないよね。
「アウトローには慣れてるわ。それに盗賊と言えばPKプレイよね」
うふふふ。ゾンビで鳴らした腕を振るうときが……腕がねぇ!? 今の私はナマコじゃん!? 私の華麗なる暗殺術が……そんな……。
『ナマコオンラインにPKは無いじゃん。フレンドリーファイヤーはあるけどHPも減らないじゃん……モナミ? なんか落ち込んでるじゃん?』
「……盗賊からチェンジで」
モナたんから殺る気が失せていた。なんてこったい。
『ヤクザ以上の外道じゃん!? そんなに殺伐とした生き方してると心配になるじゃん!? 良い病院があるけど……どうする? 会社御用達のナマコ外来もあるけど』
ナビAIになんか勧められた。すごくガチな声色だった。
「ナマコ外来ってなに!? 会社御用達とか意味が分かんないよ!」
モナたんは思わず叫んでいた。リアルなナマコが砂浜で叫んでる。きっと絵面にしたらすごい光景だろう。まぁそれは今更なんだけど……何で病院を勧められないといけないの!
私は普通の女子高生なのに!
すごく普通の女の子で美少女女子高生なのよ! 本当に一般的な女子高生なんだもん!
『……ナマコになった社員が病んでしまったじゃん。そのために用意された病院じゃん。会社と提携してるから安心して大丈夫じゃん』
ナビの説明は全く安心できない情報だった。
「病んだの!? ナマコで!? 社員が!? ああもう、驚きが多すぎて訳がわからーん!」
このゲームは本当に大丈夫なのか。安心できる要素が微塵も無いことが判明した瞬間だった。
『ベータ試験の前に社員が試したじゃん。そしたらナマコの虜になって仕事中もクネクネが止まらなくなったじゃん。その教訓でシンクロ率の上限が大幅に下げられたじゃん。今ならログイン制限もあるから大丈夫じゃん』
……仕事中にクネクネしたんだ。今は大丈夫なのかしら。それがちょっと気になる。
「……くっ! それでも私は諦めないわよ! この南国リゾートは私のものよ! 誰にも渡さないわ!」
そんな恐ろしい事を言われても私の心は折れはしない! このリゾートは私のオアシスなんだ!
『……四畳半ぐらいの狭いホームをそんなに気に入ってくれるとは思わなかったじゃん。一応これもチュートリアルだから言っておくけど……このホームは拡張が出来るじゃん』
「…………なぬ?」
……ぐふっ。ぐふふふふ。
「……うふふふ、なんかとっても嬉しくなるような事を初めて聞いた気がするわ。うふふふ……おい。もう一度言え」
『ひぃ!?』
「あらあら、そんなに怯えなくてもよろしくてよ。うふふふ……この南国パラダイスを更に私好みの天国にカスタマイズ出来る……そういうことよね?」
『い、イエスマム!』
「……くふふふふはははははは! 是非もなし!」
ここまでテンションが上がったのは久しぶり。ああ、なんて気持ちが良いのかしら。昂るわー。めっちゃ昂っちゃうわー。
『……素早さの説明……まぁいいじゃん。きっと怒られるじゃん。このまま行っちゃうじゃん』
「吐けい! キリキリと吐けい! この南国パラダイスを更に天国へと押し上げる方法を疾く吐けい!」
ステータスなんぞ些事! 必要なのはホーム拡張の情報ぞ! クカカカカ!
砂浜でナマコが叫んでる絵面はやはりスルーである。
『ホーム拡張はオンラインでクエストをこなすと解放されるじゃん。何でもいいから一つでもクリアするじゃん。でも拡張するには素材とお金が必要になってくるじゃん』
「……うわ、何ともゲーム的ね」
なんか一気に冷めた。素材集めとか超メンドイじゃん。
『これ、ゲームじゃん。でも今のモナミがクエストをクリアできる可能性はゼロに近いじゃん』
光る玉のナビは言い切った。その言い切りっぷりにモナたんは少したじろいだ。
「な! 何でよ! 何でもいいなら簡単なクエストぐらいあるでしょ!」
モナちゃんはまたしても激怒した。
この生意気な光玉め! 私はこれでもゾンビを万単位で消してきた女よ! 不可能なんて言葉は私の辞書には載ってない! 蒸れた足も載ってない! 蒸らし芋はあるけれど!
『……クエストは基本的に拠点の外に出る必要があるじゃん。そもそもじゃん、モナミはその体で移動出来るじゃん?』
問われて気づく今の状況。
…………ぬ?
「……あ、動けないっぽい。え、これ……え! マジでどう動けばいいの!?」
私はナマコの動き方なんて知らないわよ!? そういえばここでのナマコタイムも体は一歩も動いてねぇ!? むしろ動けねぇ!? 叫んでたけど動いてねぇ!
『その辺もチュートリアルがあるじゃん! という訳でチュートリアルゾーンにワープするじゃん』
「え、ちょっと待ちなさい! 私は南国リゾートから離れるつもりは……」
『開けー! 初心者の扉よー』
「待てぇぇぇ!」
いやぁぁぁ! なんか急に現れた豪華な扉に吸われるぅぅぅぅ! 私のオアシスがぁぁぁぁ!
『……チュートリアルゾーンも南国エリアにするから大人しくするじゃん』
「……ならよし!」
ぽーん! そんな小気味の良い音を立てて私は謎の扉に吸われていった。