1 ナマコオンライン始めました。
書き直してを重ねてこれが出来た。でも話の流れは前作、前々作とほぼ同じという……あれ?
……大きな変化は本編が終わってからですわー!
あたしモナミ! 高校二年生なの! 悪友に勧められたVRゲームを始めたんだけど大変なの! なんかもう……すごく大変なの! あとで奴はピーする予定だけど今はそれどころじゃないの!
だって私は今……ナマコになっちゃってるのだから!
「きゃー! なにこれなにこれー!」
私の体が棘皮生物に! なんてことなのー! ウニとかヒトデもこの仲間ー!
『落ち着くじゃん! ユーはナマコになったじゃん! そろそろ諦めて他の入力項目を進めて行くじゃん!』
「なんでナマコなの~!」
光の玉がなんか言ってるけどナマコなのー! 自分の体がナマコなのー! いやー!
『だってこのゲーム……ナマコオンラインじゃん?』
「……頭おかしいよね?」
名前からして狂ってるわよ?
『それはユーにも盛大なブーメランじゃん? タイトルですぐに判るじゃん』
いや、そうなんですけどね。
という訳で私は最新ゲームのフルダイブ式VRMMORPG『ナマコオンライン』に手を出してしまうことになったのであった。奴をピーするのは確定だ。本当に許さん。あいつは絶対にピーする。
つーかゲーム始めてすぐにナマコにされたら誰でも騒ぐわ!
ガチのナマコじゃねぇか!
◇
波の音がする。寄せては引いて、優しくて眠くなる音が私を微睡みへと誘っていく。遥か遠くから吹いてきた海風が島に生えてるヤシの葉を揺らす。サラサラと音がする。木漏れ日がキラキラだ。
「ぷへ~」
南国の小さな島に私が一人。草の上でコロリとしてる。なんて自由……なんて心安らぐ時間なのかしら。日頃のストレスから解放されて溶けていくようだ。
……今の私がナマコでなければ本当に最高なのに。いや、もうナマコでいいや。なにこのリゾート感。この島は私だけのプライベートアイランド。
ぷへ~。ごくらくごくらく……。
『うぇーい! モナミ! そろそろタイムじゃん! お友達が待ってるじゃん!』
「あー……あと5分……」
お日さまがぬくぬく。これが本当のバカンス……ぷへ~。体がナマコでもいいや。こんなに気持ちいい日向ぼっこがあるなんて……ぐぅ。ナマコボディに日差しが……うん。生々しいけど気持ちいいから良いの。ぷへ~。
『それ駄目なパターンじゃん! 絶対に5分で起きないパターンじゃん!』
「……じゃ……あと10分……」
『増えてるじゃん!? あんなにナマコになったのを嫌がってたのに手のひら返すの早すぎじゃん!? マッハじゃん!? というかチュートリアルも途中じゃん!?』
「……ナマコさいこー……ぐぅ」
もうナマコでいい。私はナマコなの。そして寝るの。
『ああもう! 設定はこっちで変えとくじゃん! もう好きなだけ寝てるといいじゃん!』
「うぃ~……ぐぅ」
落ちていく。どこまでも優しくて暖かい眠りに私は落ちていく。
いきなりリアルなナマコにされてパニックになりはしたが……ナマコって意外と幸せな生き方かも知れない。微睡みに揺られて私はそんなことを考えて……落ちていった。
そして夢を見た。それは過去の記憶。過去の私。過去の過ち……いや、どうだかなー。
◇
「ぐふふ、ねぇモナ。面白いゲームがあるんだけどやってみない?」
ファミレスの座席に眼鏡を光らせる悪友の姿があった。こいつは私の幼なじみで妹のような存在。いたずらが好きで毎回とんでもない爆弾を持ってくるアホだ。でも憎めないし可愛いとも思う。ピーするのは確定だがな。
「……またゾンビを無双してヒャッハーなゲーム?」
同じくファミレスの座席に座ってテーブルにスライムの如く蕩けてるのが私。この時の私は疲れきっていた。気だるげに答えたのも……まぁいつもの事だった。
以前紹介されたゾンビ虐殺オンラインVRゲーム……今はもうサービス停止というかゲーム自体が凍結されてしまった問題作だが、あの時も始まりは、こいつの囁きだった。
結局あのゲームは他のゲームのパクリで社会問題になるほどの騒動を起こして会社ごと消えていったのだ。
ものすごく楽しかったけどね。ゾンビをひたすら殺していくのが途方もなく楽しかったの。もう毎日がゾンビハンターだったわ。
まぁ私もゾンビだったのだけど。プレイヤー全員がゾンビ設定とか尖りすぎよねー。
「今度はゾンビじゃないの。珍しく全年齢ソフトよ。てわけで、よいしょっと」
今更だけど私は高校生。わりと重要な事が、さらっと流された。そしてファミレスのテーブルにドン! と置かれたのは巨大な黒い塊だった。あまりの重さにドリンクの氷が揺れている。当然、その衝撃で思わず身を起こした。
「……なにこれ」
テーブルに鎮座する物体をしげしげと見ても、これが何か分からない。黒くてデカイ。ゴツゴツしてる。なんじゃこれ?
「日本初のフルダイブシステムを前提にしたオンラインVRソフトよ。ちなみに昨日が発売日」
奴の眼鏡がキラリと光り口許がニヤリとつり上がる。ああ、いつものイタズラするときの顔だった。目の前に鎮座するブツに気を取られて私は大事なものを見落としていた。ああ、殴りてぇ。
「……これ、ソフトじゃなくてハードディスクドライブじゃないの?」
それは明らかにソフトのサイズと違っていた。ソフトの大きさではない。むしろ普通にゲーム機本体に見える。初めドライブだと私は思ったわ。だってメガなドライブサイズだし。
「大丈夫。モナのマシーンには既に取り付けてあるから。これは見本として私のを持ってきただけだからね。今回は一緒にやるの。すごいよね。こんだけゴツくないとフルダイブシステムを十全に活用出来ないなんてさ」
「……で、これ、何のゲームなの?」
黒い塊はどんな内容のゲームなのかさっぱり分からなかった。というかソフトに見えなかったし。この時ちゃんと確認しておけば……。
「ぐふふ……それは試してからのお楽しみかな。モナのストレスにきっと効くわよー? ……多分」
この時……この時の私は本当に疲れていたのだ。学校では一時たりとも休まるときが無かったのだから。だからこいつの誘いを疑いもせずに……いや、かなり疑いはしたけれど、疲れていたから、どーでも良いやと流してしまったのだ。
そしてやっちゃったのだ。
んで、現在。
「……ぷへ~……私はここでナマコとして生きていくの」
南国の小さな島で好きなだけ日向ぼっこをして私は生きていくの。もうここが私の桃源郷なの。これは神の下した裁定なの。
ここは『ナマコオンライン』のホーム。プレイヤーの一人一人に与えられたオフラインの自室みたいなものらしい。南国の小さな無人島がホームって……まぁ快適だから許す。ナマコ的に許すわ。サンキューゴッド。
小さな無人島には砂浜と草地とヤシの木が生えている。まさに『無人島』って感じ。そしてその草地に横たわるのがそう!
このナマコ……ではなくナマコになっちゃったモナミちゃんなのだ。ぷへ~。
それにしてもナマコ感が半端ねぇ。主観視点ではなく後方からの俯瞰視点になるのだが……完全にナマコにされている。今のモナミちゃんは海に落ちてるナマコそのもの。
……俯瞰で見てると脳がバグる。勿論フルダイブなので感覚はナマコそのものだ。手も足もない。全身に太陽が温い。そして潮風が気持ちいい。
なんだこれは!
極楽よ!
ぷへ~。極楽、極楽~。
『……ナビとしてどう反応するか困るじゃん。適応してもらえたのは嬉しいけど現実を疎かにしてはダメじゃん。友達にメールくらいは返すじゃん』
まったりしているモナミちゃんの微睡みを妨害してくるのは南国の島をぶんぶんと飛ぶ光る虫っぽいナビキャラ……なのかな。私がゲームを始めてすぐ出会って初期設定とかした相手だ。まさかキャラの設定から専属でナビが付くとは思わなかったけど……ナマコにされるこのゲームならそれも当然なのかなぁ。
ゲーム始めてすぐにナマコだもん。意味分かんない。でもこのリゾートは良いものだ。大変に良いものなので、まったりさせてもらうの。ぷへ~。
「……めんどい。適当にやっといて」
どうせ奴は現実世界ですぐ隣にいるのだ。あっちも今頃ナマコってるはずなのに何故かメールで助けを求めてきたのだ。
「モナヘルプ!」とね。
こんなに快適なナマコライフなのに何があったのかしら。まぁどうでもいいけど。
『ものぐさじゃん!? せめて内容ぐらいは教えて欲しいじゃん!?』
「あー……百合子に……キャラ名はリリーだっけ? 生理がキツいから休むって」
いやー、キッツいわー。ナマコの生理はおっもいわー。はふ~……なんか溶けるぅぅ。太陽がぬくいぃぃぃ。
『それズルいじゃん!? いきなり最終兵器をぶちこむのはどうかと思うじゃん!?』
「いいのいいの……私はナマコになるー……」
でんでろり~ん。ナマコは太陽に愛されてるの~。
『既にナマコじゃん……とりあえず送ったじゃん……返信来たじゃん』
「はやっ!」
思わず溶けてた体が元に戻ったわ! 溶けてないけど! あと干しナマコになったりしないわよね。よね?
『……内容読み上げるじゃん。えーと……スカート捲って確認してやる……こいつも問題児じゃん!?』
ナビっぽい光玉が驚きの声を上げた。うん。問題児なのよねぇ。
「ちっ……やはり同じ部屋でゲームするのは危険だったか。でもなー、他の部屋にマシーンは置けないし」
私の使っているダイブマッスィーンは巨大なのだ。そんなの自分の部屋に置いたら圧迫感で息が詰まるわ。
『……友達は選ぶべきじゃん。つーかリアルで仲良しじゃん。あ、本体に異常を検知しました。ゲームを強制終了します』
「へ?」
そして、ブツン! という音がした。ポカンとしていた私は急速に闇に包まれていった。冷たく暗く深い闇の底へと。
◇
「モナァァァァ! なんですぐに来てくれなかったのよぉぉぉぉ!」
「……とりあえず腹パンしとくわね」
「こぼぉあ!?」
私のボディーブローで百合子は浮いた。でもこの子は頑丈だから大丈夫。胃液っぽい液体も吐いたが大丈夫。拭けばいい。
現実世界に強制的に戻された私はすぐに百合子に襲われたのだ。よって正当防衛である。
マシーンの強制終了により私のナマコライフも奪われた。私は怒っていた。よってこれは正義の執行である。
場所はマシンの置いてあるシアタールーム。一緒にゲームが出来るようにと、バカみたいにでっかいマシンが二台置かれちゃってシアタールームとして使えなくなったここだ。
吐くものを吐いて落ち着いた犯人を床に正座させてのお説教タイムはすぐに始まった。
モナちゃんは怒髪天なのよ!
「百合子ちゃん、知ってるよね。フルダイブシステムの強制終了って本当に危険だってことを。何より百合子ちゃんが言ってたことよね!」
場合によっては精神に異常を来すこともあるとか。それをあれだけ説明してた百合子がそれをするとは……許すまじ。いくらこの最新ダイブマシーンを手配したのが百合子でも許さぬ!
ナマコライフを……私の桃源郷を!
「ううっ、はい。でもでも! あんな狂ったゲームなら強制終了するのも当然だと思います!」
「だまらっしゃい!」
「へぶっ!?」
とりあえず正座してる百合子の顔面を足の裏で蹴ってみた。大丈夫。百合子は頑丈だ。そして変態だ。むしろご褒美になりかねない。
「……はぁぁ、モナ様のおみ足……蒸れた足での顔面キックご褒美なんて……」
「言葉ぁ!」
ふかふか絨毯の床に倒れながらも恍惚の表情を浮かべる悪友に私はどうすれば良かったのだろうか。私の足は蒸れてない。決して蒸れてなどいないのだ!
「もっと……もっとそのニーソに包まれたおみ足で私の顔をグリグリしてくださいぃぃぃぃ!」
「うっさいわ!」
「あひーん!」
親友と認めるのは許しがたく、かといって完全な悪友とも言い難い。本当の姉妹のような関係ではあるけれど、それを無理矢理に定義するならば……
「モナ様ぁ! この卑しきメス豚に更なるお慰みを!」
「お黙りぃ! このド変態!」
「あひーん!」
……違うの。私は至ってノーマルなの。私は普通の女の子で一般的な女子高生なの。百合子がド変態なだけなんだもん。
かなり締まらない感じになったが、こういう訳で私は『ナマコオンライン』というゲームと運命的な出会いを果たすのであった。
……うん、私は至って普通の女子高生で足は蒸れてないの。幼なじみが変態なだけの普通の女の子なの。私の足は蒸れてない! 蒸れてなどいないのだ!
この完結編では主人公をモナミちゃんに戻してます。戻して書いて……150話まで書いて……全部カットしたのです。げふっ。つまりは、ひとつの完結作品にするために50話くらいでまとめたのです。泣く泣くね。本当に泣く泣くね。カットした100話……それが本編後のオマケなのですよ。供養……ですねぇ。蛇足とは思いますが面白いものが書けたので載せてます。本編とはまた違うストーリー展開になってますので二次作品みたいな感じでお楽しみください。