天才の笑み。
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石原の言葉を思い出した。——最近悪夢や幻覚を見る。それはとにかく命を奪う場面だった。
そう言っていたということは石原の記憶に、少なくともそういう虐殺の場面があるということだ。
石原によると銀河へ繰り出すようになってまだ半年しか経っていないという。
半年の間にそんな虐殺ができるのか?
虐殺の話はレオリコも知っている。半年前、丁度石原が銀河へ姿を現した時だ。
教科書に載っている程度の話だが、古代の闇の錬金術師達は光の錬金術師達を完璧な作戦で粛清したそうだ。
そして闇の錬金術師による絶対支配を確立する帝国を設立したのだ。しかしそんな栄光も長くは続かなかった。
光に転向した闇の錬金術師が反乱を起こしたのだ。第二次アルストロメリア計画の準備中に電力起動塔に、自分の命と引き換えに負のエネルギーを注ぎ込み、闇の錬金術師一億人もろとも帝国を破壊したのだ。
ドクテルマテオ台頭後銀河に平和が戻って、また光の錬金術師達も復興を辿りつつあった。
クルーストサキ星系の山岳地帯で寺院が設立され、光の錬金術師が育成されてきていた。
これが教科書に載っているだけの話だ。
だが、今ドクテルマテオが崩壊していること、帝国が台頭していること、皇帝が闇の錬金術師であるという説があること、光の錬金術師達が、結局一人もいないということを繋ぎ合わせて考えると、やはり教育機関では到底語ることができない陰謀があるということだ。
行政機関が全力で隠し通そうとする理由も分からない以上詮索するのは賢明とはいえない。
反乱軍の総裁をしていてもその陰謀について触れることもなかったし周りの人間も誰も何も話していなかった。
つまり反乱軍という正義の集団は知るべきではないということだ。だがしかし帝国ではそれに関する機密情報がどっさりあるに違いない。
レオリコは不吉な思考を遮断した。嫌な予感がしたからだ。
石原春は消沈して通りを歩いていた。大気圏に突出した高層ビル群の間を歩いていると前の景色が影の暗闇に隠れてしまって何も見えない時がある。
ただ太陽の前から雲が少し移動すると光が差す時もある。真昼間ということもあり高層ビル群の前を通る者は誰もいなかった。
一人きりになりたかった石原にとっては好都合だった。
くそ。どうして俺がこんな目に遭うんだ。反乱軍に戻ってきてもこれだ。帝国の中でもトラウマをフラッシュバックさせられるし本当にくそだ。
おまけに復讐の為のステップをまだ一つも踏んでいないという事実も再確認させられた。
罵詈雑言を吐きたい気分だった。大きな声で叫びたい気分だった。だが決してしない。
何故なら反乱軍に迷惑がかかってしまう。脱獄した凶悪指名手配犯が発狂しているからと帝国に変な言いがかりをつけられるのも業腹だ。
石原は別に反乱軍に、レオリコに迷惑をかけるつもりはない。
ただ今の石原にあるのは帝国を潰す。その一択だけだった。
くそう。どうやればうまく帝国を潰せるのか。
マイナスのことを延々と考えながら道端の小石を蹴りつける。そして造船会社と思われるビルの前にある木のベンチに腰を下ろした。
両肘を両膝に乗せて指を組んだ。
地球の道路とは違ってゴミや空き缶の一つ落ちていない。綺麗な道だ。環境も良いのだろう。空気も澄んでいる。
そんな新鮮な空気を胸一杯に吸い込んで気持ちを落ち着けた。
帝国を軍事的に潰すのは今の自分達には不可能に近い。だが社会的にはどうだろうか帝国が自分達にしたように陰謀論をでっちあげて社会的に潰すのはどうだろうか。
こっちが姑息な嘘をつくようなことは世間体的にはできない。
「ん?」
石原は閃いたというように目を見開いて顔を前に上げた。
そうだった。忘れていたが自分は帝国に最高の爆弾を置いてきたのだ。
「ふっふっふ‥‥」石原は全てを理解したような不敵な笑みを浮かべた。
まだ勝機はある。こぼすな掴み取れ。
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