超越者の活動ネーム
みんなもご存知の通り敵地潜入において一番してはいけない、なんとしても避けなければならない事、それはもちろん敵に自分の存在がバレてしまう事である。
敵に自分の存在を悟られないように細心の注意を払って息を潜め行動し、目的を達成する、隠密行動。超越者たるものこれしきの事は朝飯前で済ますべきなのだが、予期しない不運に見舞われ僕は不覚にもバレてしまった。
まぁ、バレてしまったものはしょうがない。ピンチになった時こそ頭は冷静に。これ以上あの子に迷惑をかけるのは流石に歳上としての威厳が保てずあまりに情けない。
僕に残された手段はただ一つ、これが一番簡単だし結果も伴ってくる手段だと僕は思う・・・というか、これしか残されていないと言い直す方が正しいかもしれないね。
で、僕が行き着いたその手段とは・・・。
「・・・・・・やっぱり殺すしかないよねぇ」
三人に届かないくらいの声量で僕は呟く。
目撃者さえ殺してしまえば・・・そう、つまり僕以外のこの場で起こった出来事を知る者さえ殺してしまえばある程度の騒ぎにはなるだろうけど、僕という者の存在が知られない為の最低限のノルマは達成できる一番手っ取り早く便利な方法。
しかし、問題点もある。
それは僕の超越者計画に支障が出る事だ。
”超越者計画”その計画とは僕が常日頃から脳内でしていた超越者ライフの妄想を詰め込んだ夢のような計画である。
例を挙げれば今回のイベントボス以外の敵雑魚キャラを圧倒的な力で蹴散らし一掃して己の力を誇示し、俺超つええぇぇぇぇぇぇえぇ!!!的なムーブをする事だ。
しかしそんな呑気な事を言ってられるほど今の状況は甘くない。かなーり名残惜しいけども背に腹はかえられん。この計画はまた次の機会まで楽しみにしておこうか。
「・・・スキル透視」
僕は小さな声で呟いた。
門兵の立ち位置は左に1体、右に1体、そして僕の真下に1体の計3体。
奴らの能力を透視で確認するとそれぞれレベル25、23、23となんともお粗末な能力。はっきり言って雑魚キャラである。
僕としては強敵に出くわして騒ぎを大きくするより、侵入を悟られないように門兵三体を一瞬で殺しちゃう方が楽でいいんだけど・・・。でもさぁ、大きな角を二本生やして、いかにも魔族ですって風貌の門兵くんたちが森にいた魔物よりもレベルが低いってどうなのさ。
仮にも君たちは門兵だろ?
なんて考えていると僕から見て右側に立つ門兵が叫ぶ。
「何者だ貴様は!?」
「貴様、この国の民ではないな?下等種族が我々に何の用だ!」
「王国の刺客じゃないだろうな?・・・それと貴様はさっさと俺の上から離れろ!」
左側に立つ門兵、そして未だに僕に踏まれている門兵が続ける。
彼らは突如、窓を蹴破り侵入してきた者に戸惑い、焦っている。彼らは動揺しながらも口調は荒く人間である僕を見下したような態度を取り続けた。リンスには魔族はプライドが高い、と聞いていたがここまでとは。
「おい!答えろ!」
僕を急かす門兵。
「僕かい?僕の名前はさと・・・」
門兵の問いかけに答えるため、いざ名乗ろうかと口を開き言葉を発したが途中で辞める。
急遽、僕の中である問題が浮上したのだ
それは超越者としての名前、いわゆる活動ネームをどうするか、という極めて重要な今後の超越者人生を左右する僕にとっては大学受験と同等の問題である。
迷うなぁ・・・。個人的に和名はダサいと感じてる、なるべく英語が良い。例えば、ラグナロクとかアポカリプスとか人ならざるもの的な・・・そんな感じの神話とかに由来するかっこいい活動ネームが理想だ。
「何故黙ってる!?」
更に急かす門兵。
やれやれ、せっかちな魔族さんだこと。こっちは君らに構ってる暇なんてないんだ、ちょっとは配慮というモノを覚えてほしい。
「ごほんっ、・・・僕の・・・我の名は・・・・・・」
ちょっとばかし声を低くして良い声で話す。
僕の声に門兵たちは少し後ずさり。
日本で夜な夜なスマホの通話アプリを使い練習したイケボの成果が十分発揮されたことに僕は満足する。
「超越者・ウラノス。この世の全てを超越し、この世界を統べる者だ」
僕が名乗り終えると辺りに静寂の時が流れた。
三体の門兵は顔を見合せ、そして・・・。
「くっ、はっはっははっ」
と笑った。
「ガキが威勢よく何を言うかと思えば、超越者?馬鹿じゃねぇのか?」
「ぼくぅはぁ、ヒーローごっこに付き合ってほいしんでちゅかぁ?」
「いっひっひっひ、やべぇ、腹痛てぇ!」
薄ら笑いを浮かべ僕を馬鹿にし、嘲笑う門兵たち。
どうやら僕は馬鹿にされているらしい。
ここは一つ挑発でもして相手を奮い立たせるしかないかな。
「はぁ、御託はいいからさっさとかかってこい。一方的に嬲り殺すのは僕の良心が痛む」
僕は片手でちょいちょいっと、門兵たちを挑発し刺激する。
「ほぉ、痛い目みないとわからないみたいだな?いいぜ、お前ら容赦すんなよ!」
「おう!」
「ぶち殺してやる!」
門兵Aに呼応して二人の門兵も叫ぶ。うーん、単純な頭で僕は嬉しいよ。とても扱いやすい。
まんまと挑発に乗ってくれた門兵A、Bは僕の左右か
らそれぞれ剣、槍を構え突撃してくる。
「お前らやっちまえ!」
未だに僕に踏みつけられたままで身動きが取れない門兵Cが叫ぶ。
魔族のプライドがそうするのか威勢だけは良いので少しは楽しめそうかな?
僕は腰に携えていた剣を二本抜き取った。
僕は時と場合にもよるが基本二刀流だ。理由はみんなならわかってくれると思う。そしてその理由とはもちろん・・・剣を両手に構えた際のシルエットがとても格好良く実力者っぽくて素晴らしいから、という理由だ。
「一丁前に二本使うのか。生意気なクソガキだなぁ!?」
何か喚きながら突っ込んでくる。
その動きには作戦も何もあったもんじゃない、まるで素人の動きそのものだ。恐らく自分たちよりも立場の弱い者を痛めつけるだけで鍛錬をせずにあぐらをかいていたのだろう
全く、情けない奴らだ。
僕は溜息をつくと左手に持つ剣を鞘に収める。こいつらには一本で十分か、無駄に剣を汚したくもないし、魔族の血は汚く、こびりついたらなかなか取れないとも聞く。
「どうした、武器をしまいやがって?ふははっ、我ら魔族に怖気付いたのか?」
「仕方あるまい!所詮は人間、種族として我らに劣る劣等種よ!」
絶妙な小物感のあるセリフを吐き突撃してくる門兵A、B。君たちの役者魂に僕は感服するよ。
「死ねえぇぇぇぇ!」
コンマ数秒速かったのは門兵A、右側に居た魔族。
両手で剣を握り頭上に構えながら僕の首を狙い間合いを詰め、そして剣を振り下ろした。
ガキンッ!!
「な、に・・・!?」
門兵Aは驚愕する。
確かに剣は僕の首を捉えた。だが捉えただけで鈍い金属音を鳴らし真っ二つに折れたのだ。
「ば、馬鹿な!?何故だ!今確かにお前の首を・・・」
「うーん、そうだね。普通の人なら死んでたよ」
「・・・っ!」
「でも僕は普通じゃないから」
僕は口角を上げ笑顔を見せると、剣を薙ぎ払い門兵Aを真っ二つにした。
「ぐはぁっ!」
真っ黒な血飛沫を撒き散らして彼の胴体は分裂する。分裂した上半身がしばらくピクピクと痙攣していたがやがてそれも収まり門兵Aは絶命した。
「ほらほらほらぁ、もっと頑張ってくれよ。じゃないと僕が楽しめないじゃないか」
「く、くそおぉぉぉ!」
門兵Bが突っ込んでくる。
魔族は頭が悪いのか全然学習しないな。目の前で同胞が為す術なく殺されたのを見て、何故同じような行動を取るのか。
「はぁー、つまらないな」
僕は溜息をつき、ゆっくりと剣を縦に振り下ろす。すると門兵Bの持つ槍は音を立てて砕け散った。
「な、なんだ・・・ぐほぉ!」
僕は固まってる門兵Bの顔面を鷲掴みにして手から膨大な魔力を流して力を込める。流し込んだ魔力を体内の血管で暴発させ過剰な速度で血を巡らせる。そして最後に僕の魔力と彼の血を頭部へと全部集中させ、破裂しそうなくらいに膨らんだ頭をそのまま握りつぶして終了。
これめちゃくちゃ楽で確実に相手を仕留められるんだ。欠点があるとすれば返り血をもろに浴びるくらい。
「うへぇ・・・くっさいなぁ、魔族の血は」
思ったよりも浴びてしまった血を拭うのを諦め僕は下で全ての過程を見ていた門兵Cに視線を落とす。
「ひぃぃ!た、助けてく、れぇ!」
僕と目が合った門兵Cの顔が恐怖で歪み泣き叫ぶ。
魔族って泣くんだ、とか思いながら僕は彼に問う。
「助けてほしいの?」
「あ、あぁ!頼む、なんでも言うことを聞くぞ!」
「へぇー」
門兵Cの言葉に僕は腕を組んで考える素振りを見せる。
「別にいらないよ」
「なっ・・・!」
素振りを見せただけで僕は剣を彼の頭部に突き刺した。
僕は剣に付着した血だけを拭き取ると入ってきた窓から今度こそ壁を登ったのであった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「お待たせー」
茂みに隠れ約束通りに僕を待つシズカちゃんに声をかける。
「もう、遅いよお兄ちゃん!いったい何して・・・きゃあ!」
シズカちゃんは僕の全身が返り血まみれの姿を見るなり悲鳴を上げた。当然である。たった数分前に別れた青年が再会したら全身真っ赤になった姿で手を振り自分の元へと向かっているのだ。驚くな、という方が無理がある。
「どうしたのその血は!?この少しの時間で何したらそうなるの!?」
「うーん、ちょっと世直しをね」
この国に蔓延る悪の組織の配下を殺したのだ、説明としては間違ってないはず。
「もう!まったく。すごく心配したんだからね!」
「申し訳ないです」
「わかったならよし!・・・でもお兄ちゃんが無事で良かった」
目を細めて笑顔を見せるシズカちゃん。うーん、なんて良い子。
「これからどうするんだっけ?」
「もう!さっき言った通り私の知り合いのジャルおじいさんがやってる居酒屋に行くんだよ!」
「そうだった・・・じゃあ行こっか」
「うん!」
こうして僕とシズカちゃんは、その何ちゃらおじいさんの居酒屋とやらに向けて出発した。
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