どこかで見た巨大な壁
一羽の鳥が上空を優雅に羽ばたき飛行する。真っ白な鳥だ。大きな翼を広げて鶴みたいな上品さを醸し出し自由気ままに大空を飛び回る。いつかは僕もあんな風に空を飛んでみたいものだね・・・と感想を述べてみたものの、正直今はどうでもいい。僕は鳥になんて興味無いしタンパク質の補給に便利な食べ物、程度の認識だ。
どうでもいい話が出来るくらいには脳は働いている。
僕は目の前にそびえ立つ40メートルはゆうに超えようかという巨大な壁を眺め、見上げていた。
「おぉ、でっかいなぁー・・・」
思わずこぼれる感嘆の声。
シズカちゃんに連れられて歩くこと数十分。ようやく砦とやらに着いた僕を待ち構えていたのはこの巨大な壁であった。砦と聞いていたのでゾンビの侵入を防ぐ為の柵が設けられている程度・・・と予想していたが、来てみれば予想を遥かに上回る立派な壁で囲まれていたのだ。そして砦内へと通じていると思われる正面の門は固く閉ざされ外部からの侵入を拒んでいる。
そしてこの某○○の巨人を連想させる巨大な壁を前に腕組みをし、目前にそり立つ壁を見上げている僕に抜け穴を探していたシズカちゃんから声がかかった。
「あった!ほらお兄ちゃん早く来て!」
手招きをして少女は僕を呼び寄せる。
「この穴はね、私の親友と二人で探した抜け穴なんだよ!」
「あっ・・・でもお兄ちゃんの大きさだと潜れないかな?」
そう言ってシズカちゃんは抜け穴と僕を見比べる。そしてそのサイズの違いから僕が穴を通れないのではないかと危惧した。
だから僕は軽く笑みを浮かべ少女を安堵させる。
「僕のことなら心配いらないよ」
「ふぇ?」
「僕はこの壁を登ってくから」
首を傾げるシズカちゃんに僕は壁を指差して言う。
「えっ?登るって?・・・この壁を!?」
「そうだよ。だから先に内側に行ってて」
「いやいや、お兄ちゃんが強いのは知ってるけど。無理があるでしょ!」
「心配ないさ、僕は強いからね」
「答えになってないよ?お兄ちゃん」
意外にもなかなか引き下がってはくれないシズカちゃんを僕は何度も先に壁の向こう側へ行くように促す。数刻の攻防が続いたあと、シズカちゃんは腑に落ちないが渋々といった様子で抜け穴に手をかけ、僕の方へと振り返る。
「むぅー・・・じゃあ先に行くからちゃんと来てね?絶対だよ!」
そう言ってシズカちゃんは僕に念を押すと抜け穴を隠していたと思われる草をどかして穴を潜っていった。
僕はそれを見送りなから己の信用の無さを嘆いたのであった。
「・・・さて、怒られる前に登っちゃうかな」
女性を待たせるのはガチのマジで怖い。これは僕がリンスとの修行期間二ヶ月で得た教訓である。
修行を開始して一ヶ月が経った頃、僕の修行一ヶ月記念やらなんやらで翌日僕はリンスと近隣の・・・と言っても山を三つ程越えた先にあるもう殆ど人が住んでいない村に出掛ける約束をしていたのだ。
前日の夜から彼女は今までどこに隠していたのかと驚くほどの大量の服を次々と手に取り身体に当てて、これは合わないわね、あっこの服良さそう!などと呟きながら一人ファッションショーをしていた。
しかもどれも高そうな服ばかりなのである。
服を選ぶ彼女は恋する乙女さながらに瞳をキラキラと輝かせてはしゃいで、僕はたまに飛んでくる彼女からの、この服似合う?とかの質問に適当に相槌を打ちながら服選びに没頭する彼女を他所にこっそりと魔力コントロールの修行に勤しむ。
そして数時間してようやく満足したのかリンスは僕に、早く寝なさいね?と言っていつもよりすこし早めに眠りについた。
それはまるで、遠足に行く前夜の明日が待ちきれない子供のように無邪気な姿であった。
そして僕はというとリンスが寝た事によって滅多にない誰にも邪魔されず極限まで集中出来る環境が整った為、最近密かに試している人間の常識を覆すであろう、超越者への階段を三段くらい駆け上がるであろう、ある実験に取り組み始めた。
思った以上に上手くいき、ついつい実験にのめり込んでしまったせいで気付けばあと一時間程で朝日が昇る時間となっていた。
流石の僕でも睡眠無しで活動出来る領域までには達していなかった為、少し仮眠を・・・と軽い気持ちで重くなっていた瞼を閉じた。
常人では魔力が枯渇し最悪の場合死に至る程の、僕だからギリギリ可能な莫大な魔力を消費したのでたった一時間程度の仮眠で済むわけがなかった。
まぁ結果的に実験は大成功を収めたので僕としては大満足だが、その代償はとてつもなく大きかった。
日が傾き始めた頃に目を覚ました僕の視界が一番最初に捉えたのは鬼の形相をしたリンスの顔と悲しそうな瞳。
盛大な寝坊をかました僕。
ため息をつきながらもリンスは手際良く僕に支度をさせると行き先を近場の湖に変更してすぐに出発した。
そして湖から帰り、僕を待ち受けていたのは三日三晩に及んだリンスからのお説教であった。隙を見て体内で魔力の錬成でもしようかと考えたが、そんな僕の魂胆はお見通しな彼女は魔力の使用を許さず僕はただ話を聞くだけの苦痛の時間を過ごす。
とまぁ、無駄話もこれくらいで改めて僕は立ちはだかる巨大な壁と向き合った。
「これまで数多の敵の侵入を阻み絶望を与え、乗り越えるなんて不可能とされる巨大な壁に囲まれた難関不落の要塞・・・」
「周囲の者は予想以上の巨大な壁に落胆し諦め踵を返し去ってゆく・・・しかし!ただ一人だけそこには壁など存在しないかのようにただ悠然と乗り越えてゆく超越者・・・不可能を可能とする圧倒的な力・・・」
と僕は独り言を呟く。謎の実力者感があってかっこいい。
僕は両脚にありったけの魔力を込め、大きく跳躍した。恥ずかしながら、一回の跳躍で到達可能な高さは20メートルほどで超越者としてはまだまだ未熟な僕。
そのまま無策に飛び続けても未来永劫・・・は言い過ぎで二、三日くらいで飛べるようになると思うけど生憎そんな事に費やす時間はない。
そこで僕はこの壁を一目見た時から考えていた策を実行する。
「おっとっと、ちょい弱かったかな?」
その策というのは、魔力を足裏に纏わせて一旦中間地点で着地を試みるというものだ。
魔力は体内で練り込み、粘着性を出す事で長時間とはいかなくとも如何なる断崖絶壁だろうとも、かの有名な蜘蛛のスーパーヒーローのように張り付き、その場で立ったり歩いたり出来るとても便利な力なのだ。
その力を利用してまずは中間地点まで跳躍し、足裏に纏わせた魔力で壁に張り付く。そしてまたその位置から跳躍して壁の上を目指すという具合に、二回に分けて行えば簡単に壁を越えられるという単純な策である。
うん、完璧だね。
策自体は単純に聞こえるが、実は魔力に粘着性を持たせるのもそうだけど魔力の性質を変化させるのはとても高度な魔力コントロールと精神力が必要なんだよ。でも、僕には出来るんだ。なぜなら超越者になる男だからさ!
内心で自画自賛をし、良い気分に浸っていた僕は壁の中間地点に勢い良く着地した。
・・・・・・はずが、
ガタンッ!
「へ?」
「あぁ?」
着地点に定めた壁だと思っていた場所が突然、窓のように開くと、中にいた魔族らしき門兵と目が合う。勢いをつけた人間、それも格好つける為に少々気合いを入れてる人間が急に止まれる訳もなく・・・。
「ぐはぁっ!」
「あっごめん」
結果的に門兵くんに僕の渾身の飛び蹴りをくらわす形になった。
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