ロリコンではない
僕は走っていた。
両脚に魔力を込めて地面を蹴る。
軽々と車をも追い抜く速度で。
すると、前方に四つの人影を確認した。
三つはゾンビ、一つは小さな女の子だ。
女の子は一生懸命に足を動かして逃げている、この様子なら僕が追いつくのに十分間に合うであろう。
しかし、だ。
これはゾンビが絡む案件、絶対に何か起きるに違いない。
「あ、転んだ」
僕の予想通りに少女は偶然道のど真ん中に落ちていた小さな石ころに躓き転んでしまう。
ゾンビから逃げている際の転倒率、車のエンジンが一発でかからない率はほぼ100パーセントである。
「ちょっと不味いな」
少々、余裕が無くなった僕は更に両脚へ込める魔力を増やす。
魔力を倍にした瞬間、両脚から変な音が聞こえたが問題なしだ。
恐らく急に膨大な魔力を流したせいで爪が剥がれたか肉が裂けたか。しかし痛覚を鈍らせている僕にしてみれば大した問題ではない。むしろ明確な強化ポイントを把握出来たのでラッキー!って思ったくらい。
「ふん!」
やっとのことで追いついた僕は手前のゾンビの首を斬り飛ばす。
その勢いのままにすかさず、二体目を回し蹴りで蹴飛ばし、残り一体少女の肩に触れようとするゾンビの首に腕を回すと、チョークスリーパーを決めて一気にねじ切った。
「やあ、お待たせ」
一仕事終えて晴れやかな顔で僕は少女に手を差し伸べた。
片手にゾンビの頭を抱えながら。
「ひっ!」
少女は地面を這いつくばって僕から距離を置こうと必死にもがく。
突如現れゾンビを一蹴し、片手に生首を持って少女に語りかける青年。
恐らく100人に聞いたら100人が不審者と答えるだろう。
僕は後ろを向き、大きく振りかぶった。そして力を込めて美しい投球フォームでゾンビの頭部を投げた。
そこにはさっき蹴り飛ばしたゾンビか丁度起き上がったところで、僕の投げた頭が直撃するとグシャッと音を立てて潰れた。
「ごめんね、怖がらせちゃったかな?」
僕は可能な範囲での優しい口調を心掛ける。
「ぐすっ・・・だ、大丈夫。私こそ怖がっちゃって・・・ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げる少女。どうにか警戒は解いてくれたようだ。
「ほんとに大丈夫?」
「うん!お兄ちゃんが助けてくれたおかげだよ!」
「そっか。とりあえず周辺にはもうゾンビの気配はないから安心していいよ」
「ありがと!それにしてもお兄ちゃん強いんだね!怖いゾンビをあんな一瞬で!」
キラキラとした視線を向けてくる少女。
あぁ、なんか超越者っぽいことしてる感じがするな・・・。
少女の僕を強者と認め崇める、尊敬する眼差しに快感を覚えた僕は常日頃から練り続けていた決め台詞を唱える。
「ふっ、当たり前だ。なぜなら僕はこの世界を統べる超越者となる男だからね!」
決まったな。
脳内で幾度となくシミュレーションして備えていた甲斐があり詰まることなくスムーズに言えた。
感動で目を輝かせているであろう少女をはやく見たくて僕は目を開いた・・・が視界が捉えたのは想像とは全く異なる少女の冷めた表情であった。
「・・・お兄ちゃんはイタイ人なんだね!」
一転して憐れむような視線を向けてくる少女。
待て待て待て、なんで?なんか間違った?それとこの世界にイタイとかの概念が有るのも驚きだな。
渾身の決め台詞がスベり焦りまくる僕を他所に少女は語り出す。
「私ね、罰で砦から追い出されちゃったの」
「罰?砦?」
「うん」
僕の問いに頷いて答える少女。全く話が見えてこない。
「税を収められなかった家の中から誰か一人を選ぶの。それでね、砦の外に出してゾンビに食べられちゃうんだぁ」
「誰に追い出されたの?」
僕は尋ねた。
「将軍」
少女は答えた。
「将軍?なにそれ?」
「将軍ってのはね、すっごくすーっごく悪い人なんだよ!襲ってきた魔族軍の偉い人らしいんだけど国のみんなからお金を巻き上げて私たちを苦しめてるの!」
「へぇーそうなんだぁ」
「だからさ!お兄ちゃん、将軍をやっつけてよ!」
少女は瞳をウルウルとさせて僕に懇願する。
そんな儚い少女に対する僕の返答はとてもシンプルなものだった。
「うん、いいよ。任せといて!」
「やったぁー!ありがとう!お兄ちゃん!」
胸を張って答える僕に少女は更に目を輝かせてはしゃいだ。
歳相応に可愛らしい姿を見せる少女に僕の頬は緩んだ。それと同時に頭に一つのある疑問が浮かんだ。
「そういえばさ君って僕が助けに入らなかったら死んでたし、そのつもりで将軍って奴も追い出したんだよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあさ、君は生きて帰っていいの?」
ふと頭に浮かんだ疑問、何気なく呟いた一言。大して深い意味はないその問いに少女の瞳は潤い、やがて目尻に涙が溢れてきた。
「えっ?・・・私・・・生きてちゃダメな子なの?」
やべっ、言い方ミスった。
僕に少女を泣かせる趣味など無いし、人智を超えた存在、超越者になる男と言っても人間としての矜恃を捨てるつもりも無い。
僕は慌てて訂正する。
「ごめん、言い方が悪かった。その・・・将軍はさ君を死んでると思ってるわけだからさ、急に君が生きてる!ってなったら黙ってないと思うんだよ」
「っ・・・!言われてみれば・・・。将軍が私はまだ生きてるって知ったら・・・パパとママが殺されちゃうかも・・・」
「そうなんだよ。だから慎重に君を両親の元へ送らなきゃならないんだ」
僕の話に少女は手を顎に据えて考えるポーズを取って可愛らしく考えている。
「そうだ!ひとまず、おじいちゃんなら私のこと助けてくれるかも!」
「おじいちゃん?」
「うん、私と友達にいつも優しくしてくれるおじいちゃんがいるんだけどね?その人の家には将軍たちにまだバレてない地下室があるの!」
ほほぅ、なかなかやり手のおじいちゃんのようだ。
「それでパパとママと友達も一緒にお兄ちゃんが将軍を倒すまで匿ってもらう!」
「よし、決まりだね」
とりあえずこの子の身の安全を確保する算段はついたので細かい事は砦に向かいながら決めるとしよう。
「じゃあ、行こっか」
「うん!」
一歩踏み出したところで少女は振り返った。
「あっ!私の名前はシズカ・マイレーンていうの!」
「僕は佐藤純一だよ」
お互いに自己紹介を終えると少女はこっちよ!と僕の手を引いて前を歩いた。
シズカかぁ・・・随分と和風な名前だな。・・・!?待てよ・・・もしや、僕だけが別の時代に転移されて・・・この子は一緒に魔法陣に連れ去られたクラスメイトの子供なのでは!?いや絶対そうじゃん!やばいやばい!テンション上がってきたぁ!めちゃくちゃ面白いぞ!
厨二心を擽られる激アツ展開を妄想しながら僕はこれから起こりうるイベントに期待して、少女を襲いかかって来るゾンビから守りつつ砦へと向かったのであった。




