ゾンビと出会った時の対処法
あれから二ヶ月が経った。
僕は約束通りにリンスとの修行を終えて彼女と共にパラディン王国とやらへ向かっている最中・・・のはずだったんだけど急遽二日前にリンスからある申し出があったので一人で歩いていた。
───二日前の夜───
「純一・・・話があるの」
夕飯も済ませもうそろそろ寝ようか、と寝床の準備をしていた僕にリンスが声をかけた。
「なに?」
僕から目を逸らしながら申し訳なさそうにする彼女に違和感を感じつつも僕は普通を装って尋ねた。
「急遽、私だけ先に王国に帰らなきゃいけなくなったのよ」
「えっ?じゃあ僕も一緒に・・・」
と僕が言いかけたところで彼女は、待ったをかける。
「ごめんなさい。それはできないわ」
「なんで?」
「・・・秘密よ」
「そんなこと言われたって」
「純一が心配する気持ちは痛いくらいにわかるわ。私だって、あなたの身にもしもの事があったらって気が気でないもの」
うん?まぁ・・・確かに王国への帰り道を僕は知らないから心配っちゃ心配だけど・・・。
「だから、これをあなたに・・・」
妙に食い違う会話に悩んでいると彼女は胸元から1枚の紙切れを僕に手渡す。
「この紙には王国までの道のりが記さているの。しっかり確認して進めば十日程で王国に着くわ」
「無くさないでね?」
こうしてリンスは僕に地図を渡すと荷物を持って名残惜しそうに森を後にしたのであった─────。
以上が僕が現在一人でパラディン王国へと向かうこととなった経緯である。
そして現在僕は順調に道に迷っていた。
地図を見れば解決するのだろうが残念ながら僕の手元にはその大事な地図は無い。
・・・・・・昨夜はいつにも増して冷え込んだ夜であった。僕は焚き火をし、暖を取りながら火を絶やさないように細心の注意を払ってくつろいでいた。
その成果もあり、寒さを凌ぐには十分な火の強さを維持することができたのだ。そして火の暖かさからついつい横に寝っ転がってしまった。
これが悪手だった。
ふわふわする頭で、要するに寝ぼけながら薪をくべてると僕は痛恨のミスを犯す。
ポイポイと投げ入れていた薪と一緒にうっかり地図も火の中に放り込んでいたのだ。
ハッとして、目が覚めたが気づいた時には既に手遅れであった。僕は紙を投入したことで一層火力が上がり燃え盛る火を眺めて少し考える。
「ごめんね、リンス。無くすどころか燃やしちゃったよ」
そう言って彼女には届かないが謝っておき、僕はもう一度横になって目を閉じる。
つまり、諦めました。
だって仕方ないじゃないか、あの寝るか寝ないかの境目のふわふわとした気持ちの良い状態が僕は大好きなんだ。
・・・と冗談はこれくらいにして、マジでどうしようかな。
直感で森を抜けれたのは良かったのだが地図を一度も見ること無く焚き火の材料にしてしまった僕。
東京生まれ東京育ちのくせに結局、瑛太の道案内がない限り東京の駅・路線を彷徨い歩き学校に遅刻しまくった自他共に認める方向音痴の僕が、未知の異世界で地図も無しに目的地に辿り着けるわけがない。
と思っていたけど、そんな悩めるいい歳をした迷子に兆しが舞い込む。
「おっ!誰かいるぞ!」
前方に人影を確認した僕はすぐに駆け出した。
「すみませーん!迷っちゃったんですけどパラディン王国ってどうやって行けばいいんで・・・ん?」
近寄ってみると何やら村人の様子がおかしい。
肌はボロボロで血が通っておらず、既に服とは呼びがたい布切れを身に纏い、フラフラとした覚束無い足取りで歩いている。
そして極めつけには辺りに漂っていた強烈な腐敗臭が僕の鼻を襲う。
僕はようやく理解した。
こ、こいつはまさか、ゾンビってやつか!!
異世界と言えばアンデッド系モンスター、アンデッド系モンスターと言えばゾンビ。これが世の理。
バイオ映画を見て以来、密かに憧れ抱いていたゾンビとの初対面に僕は興奮した。
すると、僕の声に気づいたゾンビは全速力で僕目掛けて走ってきた。
さて、ここで一つ。みんなはゾンビと鉢合わせた時どうするのかな?
A、逃げる
B、立ち向かう
C、泣き叫ぶ
だいたいの人間はこの3つの内のどれかだろう。
しかし、僕が選んだ選択肢は・・・・・・D、とりあえず噛み付かれる、だ。
「あぁー!」
ガブッ!
ゾンビは僕の肩を掴み、逃げられないようにすると首筋に思いっきり噛み付いた。
うん、活きのいい噛みっぷりだね。
冷静に考察をする僕。
わざと噛まれたのにはちゃんとした理由かある。
それは、噛み付いた首筋から魔力をゾンビに伝わせて奴の全身を巡らせその魔力を取り込めば、もしかしたらゾンビ系の魔法とか使えるようになるんじゃ?とか思ったからだ。
僕は期待に胸を膨らませてガジガジと噛みちぎろうと四苦八苦するゾンビに好き勝手させること約一時間。残酷なことに僕の希望は塵と化した。
「魔力に変化無し・・・か」
僕の期待と無駄になった一時間を返して欲しい。
まぁ、死人にそんなこと言ったって意味は無いので僕は未だに噛み付くゾンビを蹴飛ばすと腰に携えていた剣を抜き、一振り。
首を切り落とすとゾンビの動きは止まり、切り離された胴体も地面に倒れた。
「ふぅー、肩凝ったなぁ」
かれこれ一時間、同じ姿勢は思ったよりもきつくて僕は肩を揉んだ。
本来ならゾンビに噛まれぐちゃぐちゃになっているはずの肩だけど、見てみればなんと無傷。
いくら超越者になる男といえども過度な自傷行為はいずれ身体に限界が来る。所詮は人間の身体だ。魔族らに比べたらその耐久性は遥かに劣る。
だからこそ僕はスキルを最大限に生かしつつ、自身を更に強化する方法を模索した。そして幾度もの失敗を乗り越えた末に僕はリンスから教わった治癒魔法を応用し、常に体内で発動させることで、細胞を活性化させ怪我してもすぐに自動で治癒するといった仕組みを体内で構築したのだ。
結果、歯が突き刺さる度に治癒を繰り返すおかげで僕にはかすり傷一つない。
超越者が一々怪我を気にして戦いを行うなんて言語道断だからこの能力はめちゃくちゃ有難かったんだよ。さすが超越者になる男、佐藤純一だ。
・・・・・・まぁ、自画自賛も程々に、今はとにかく人に道を聞かなきゃ僕は一生パラディン王国に辿り着けない。
凝り固まった体をほぐすために屈伸をしてまた人を探そうとしたその時、不意に微かな魔力を察知する。
小さくか弱い魔力だ。
今にも潰えてしまいそうな魔力。
流石に見過ごす訳にはいかない。
方角は・・・。
「あっちか!」
僕は走り出した!・・・が数歩進んだところで立ち止まる。
「・・・・・・いや、こっちか・・・?」
そう呟いて正反対の方向に振り向くと、改めて走り出した。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
三体のゾンビに追われるも必死に足を動かし逃げ回る少女。
「パパァ、ママァ!怖いよぉー!」
隠れては見つかり、走って逃げて、また隠れる。かれこれ三時間は繰り返しているゾンビとの生死を賭けた鬼ごっこ。
しかし少女の足、体力は既に限界を迎えていた。
「きゃっ!」
少女は落ちていた小さな石ころに躓いて転んでしまう。
「あぅあぁぁー!」
少女に伸びる魔の手、辺りを見渡しても助けてくれそうな人影は見えない。
「いやぁ、やめて・・・死にたくないよぉ!」
少女の叫び声が響く、しかし無情にもその声はただ響いただけであった。
少女は目を瞑る、脳裏に思い浮かべるは両親の笑顔。
幼いながらに覚悟を決め、やって来る痛みに耐えようと唇を噛み締める・・・が、なかなかやって来ない痛み。
少女は恐る恐る目を開けるとそこに広がっていた光景は・・・。
「やあ、お待たせ」
一人の青年が三体のゾンビを斬り伏せている姿であった。




