主人公がいない!でも進む物語
「おい!純一、頼むから返事をしてくれ!」
焦りを滲ませた大声で呼びかけるが彼の望む。私の望んだ声は返ってこない。
「純一?純一ってのは・・・たしか佐藤のことだよな?」
「あー、あの地味な子?」
「なんだぁ・・・」
ヒソヒソとした話し声で囁き合う三人組。
明らかに自分たちと交友関係にある仲の良い生徒じゃなくてホッと息をつき安堵した彼らを私は見逃さなかった。
「あなたたち!今、安心したわよね?」
「げっ!」
明確に発せられた「げっ!」という悪事がバレ、それを指摘された際にしか使わない驚き方をする男子生徒。
「い、いや!してないって!」
「そうそう!」
私が詰め寄るも彼らは誤魔化す。
「いいえ、私は見たもの!自分たちと交友がある人じゃなくて良かった、とか思ったでしょ!」
「うっ・・・そ、それは・・・」
「し、仕方ねぇだろ!俺たちだって動揺してるんだ!」
「何?開き直るの?」
激しい口論を繰り広げる私たちに一組の男女からの仲裁が入った。
「舞原ぁー今はそんなことどうだっていいだろぉ?」
「そうよそうよ!あんなの一人いなくなったくらいで喚かないで」
制服を着崩し見るからに不良といった感じの男、志村和樹と派手なメイクで凄く短いスカートを履く女、目黒香織だ。私が大嫌いな、できれば関わりを持ちたくない二人組。
「そんなこと?一人いなくなったくらいで?何言ってるのあなたたちは。クラスメイトの安否が不明なのよ!」
「いや、興味ねぇし」
「あたしもー。てかあたしさぁ、あいつのこと嫌いだったし丁度良かったわ」
私の叱責に対し笑って全く意に介さない二人。
人の生死がかかってるのに信じられない話をする二人への憤りで私の頭に血が上る。
「もういいだろ?あのジジィも待ちくたびれてるぞ?」
「待ちなさい!話はまだ・・・」
「行きましょ、和樹」
私の制止の声を無視して彼らは去っていった。
大切な幼なじみを馬鹿にされた怒り、悔しさを私は歯を食いしばって何とか抑え込んだ。
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29人の男女が注目する先には冠をかぶったおじいさん立っており、今まさに理解不能の現状の説明をするべく、口を開こうとするところであった。
「わしはパラディン王国の国王、ルーデ・パラディンじゃ」
「君たちには申し訳ないことをした」
開口一番に謝罪される。私たちそれに答えずに黙ったまま話の続きを待つ。
「君たちは転移の儀式で召喚されたのじゃ。我々をこの世界を魔族の手から救ってもらう為に」
転移?召喚?魔族?現実味の無いワードが私たちの頭を更に混乱させる。
「はぁ?異世界?なんだそりゃ?」
「ほら、あれだろ?最近のアニメとかライトノベルとかで流行ってる異世界転生系の・・・」
「なんだよそれ・・・俺たちに魔族なんかと戦えってか?無理に決まってんだろ!」
「そうよ!早く日本に帰して!」
生徒から抗議の声が上がる。
「すまない、魔王を倒しこの世界に平和が訪れるまでは君たちを帰す儀式は行えないのじゃよ」
「はぁ!ふざけんな!」
「身勝手すぎる!」
「それに魔族ってなんだよ!?」
避難の嵐の中で上がった疑問におじいさんは答える。
「・・・少し長い話になるがよいか?」
おじいさんの問いに私たちは頷き了承した。
「元はこの世界”アルデミラン”は陸続きの六つの大陸に巨人族、狼獣族、亜人族、蛇族、魔族、エルフ族、人間族、竜人族の八つの種族が共存していたのじゃ。・・・四百年前までは」
「四百年前?それって・・・」
誰かが尋ねた。
「四百年前の今日。ある一人の魔族によって世界は二つに別れ、この世の終わりのような争いが起きたのじゃ」
「この世の終わり・・・」
どこからか生唾を飲む音が聞こえる。
いや、もしかしたら私自身のかもしれない。
それくらいに私は王様の話に聞き入っていたのだ。
「大地は燃え、真っ赤な血が世界を彩った・・・と文献に記されるくらいに多くの血が流れる悲惨な争いじゃったらしい。その争いをわしらはこう呼ぶ・・・‪”‬ラグナロク‪”‬とな」
ラグナロク・・・聞いたことがある。
神話に出てくる世界の終焉の日。世界を混沌に陥れた邪神ロキを主犯とする神々の争い。
「熾烈を極める攻防の結果、見事に勝利を収めた人間族、竜人族、魔族、エルフ族は彼らを封印しもう二度とこのような悲劇を起こさないために”四種族永劫平和条約”を定め、約四百年あまりの時の中争いの無い平和な世界を作り上げた」
「じゃが、五年前に突如として魔族の中で台頭してきた過激派組織。魔族による魔族のためだけの世界を、と唄う”ヘル・アスダーク”の連中の手で前魔王、共存派は全て殺された。そしてそやつらは新しい王を据えた」
「それから魔族領内を統一した奴らは強大な軍を起こし我々に戦争を仕掛けたのじゃ」
「魔独選有会・・・」
誰かがその名を復唱した。
「最初に狙われたのは竜人族であった。竜人族も魔族に負けず劣らずの武力を持つ誇り高き種族であった・・・のじゃが・・・」
「結果は?」
言い淀む王様に桜井くんが続きを促す。
王様は一呼吸おいてから再び口を開いた。
「魔族の圧勝だったのじゃよ。竜人族は殆ど無抵抗のまま敗れ去った、そして生き残りも僅かに居たようじゃがみんな散り散りになって今や竜人族の目撃情報は一切あがってこないのじゃ」
「魔族やべー」
「ちょー怖いんですけどぉー」
深刻な場の空気にそぐわないチャラップルの声。
私も他のクラスメイトも口は出さなかった。
「竜人族が負けたとなると・・・次は人間族?」
質問したのは先程までうずくまってホームシックに陥っていた流川くんだ。みんなはその変わり身の速さに脱帽するも、やはり口は出さない。
「いや、我々人間族は幸い魔族から一番離れた場所に栄えていたおかげで侵攻は一番遅かったのじゃ。これも神の御加護かのぉ」
そう言って服と同様に立派な髭をビヨーンとさせる王様。
「では・・・次の標的はエルフ族ですか?」
冷静に分析し王様と会話する流川くん。もう一度言うが先程までのマザコン流川くんの面影は残っていない。
「そうじゃ、標的はエルフ族・・・のはずだったのじゃが。彼らはなんと魔族に和睦を申し立てたのじゃ!」
「争いを避けたのですか?」
「うむ、竜人族の惨敗を受けて恐れたのじゃろう。しかし魔族はすんなりとは応じなかった」
「可能な限り自分たちに有利な条件で結ぶ。戦においては鉄則じゃな。そこで魔族は一つの条件を掲示した」
「・・・」
周りの子たちは真剣な表情で聞き入っている。
戦、和睦・・・様々な単語が飛び交うが未だに現実感はなくて、私は王様が何を言っているのか全くわからない。
「その条件は・・・?」
「・・・エルフの姫と魔王の婚約じゃ」
「えぇー!」
主に女子生徒からの驚きの声が響く。
年頃の乙女だから勝手に将来を誓い合う相手を決められるのは衝撃的なのだろう。
「絶対に裏切らせないという意味が篭もる条件じゃな。エルフ族は悩みに悩んだ末に魔族の条件を呑んだのじゃ」
「じゃがここで問題が起きた」
「問題?」
「エルフの姫が魔王との婚約を拒否して行方を晦ませたのじゃ」
王様の発言に男女で対照的な反応を示した。
「姫ちゃん、ナイス!」
「頑張って逃げ切るのよ!真実の愛の為に!」
メルヘンチックな思考でエルフの姫を応援する女子生徒。
「おいおい、もうちょい国のこと考えろよな・・・」
「自分勝手なお姫様だなぁ」
片や現実的に考え、エルフ姫を批判する男子生徒。
両者の主張はどちらもわからんでもないがそこは男女の差、お互いに睨み合って一触即発、喧嘩に発展しそうな雰囲気になる。
「おほん。結局姫は見つからなかった為、仕方なく魔族とエルフ族は姫が見つかるまでは停戦の形をとったのじゃ」
しかし、その空気をいち早く察知した王様が話を続けたことによりお互い怒りの矛を納め事なきを得た。
「そしていよいよ魔族が牙を向けたのは我々、人間族」
ゴクリ、とクラスメイトたちの唾を飲み込む音が聞こえる。
「我々は必死に抗った。はじめの頃は各国協力し合い兵士の士気も高かったゆえ、魔族相手に奮戦していたのじゃが・・・ある戦を境に我々人間軍は各地で敗戦を重ねた」
「その戦・・・とは?」
「・・・剣聖アイリン・スーザン率いる我々パラディン軍が大敗を喫したのじゃ」
「その敗戦以来、剣聖様は自分を見つめ直すと言い残して姿を消されてしまった」
パラディン王が渋い表情で言う。
「あの・・・剣聖ってなんですか?」
尋ねるのは一人の女子生徒。
「おぉ、そうじゃったな。お主らは知らぬか、剣聖とは」
「剣聖ってのはな、剣の道を極めた者。その国の武勇の象徴だ!」
「ぬぉっ!?」
王様の言葉を遮ったのは鬼塚くんであった。
「なんであんたが知ってんのよ」
「純一がよく言ってたんだ・・・剣聖は凄い!ってな」
親友を失った鬼塚くんの寂しそうな言葉で辺りに静寂が訪れる。
「おほん、では気を取り直して・・・自分らで言うのも気が引けるが我々パラディン軍は人間軍の主戦力だったのじゃよ」
「もちろん我々の軍の騎士たちの力もあるのじゃが、やはり一番は剣聖の圧倒的な力じゃった。我々も剣聖様が自ら先頭に立って軍を指揮して剣を振るってくださるとなって、当時の軍の主力部隊を持て余すことなく投入し、満を持して挑んだ」
「しかしじゃ、そんな剣聖様が呆気なく負けてしまったのじゃよ。その結果我々の士気は地の底まで落ちて防衛線も次々と突破されたのじゃ」
「そして気づけばこの有様、六大陸のうち四大陸を支配されてもうた・・・」
自分たちが生活していた戦争もない平和な時代の日本とのギャップの凄さに言葉を失ってしまう。
「もう後がない我々は古くからの言い伝えにあった儀式を執り行った。その結果呼ばれたのが君たちなのじゃよ」
王様は私たち一人一人の顔を見渡して言う。
「頼む!我々を人間族を世界を救ってくれないか?」
そして深々と頭を下げた。
一国の王がこんな学生なんかに頭を下げているという信じ難い光景にみなが戸惑う中、一人声を上げる者が現れる。
「・・・わかりました。ここまで事情を聞いてしまったからには見過ごすことなんて絶対にできません!」
声の正体は今まで珍しく沈黙を貫いて話を聞いていた桜井くんであった。
「そうだろ?みんなぁ!大勢の人が助けを求めてるんだ。男子は今やらなきゃ男が廃るぞ!」
彼は振り返って私たちクラスメイトに発破をかけた。
「そ、そうだな!桜井の言う通りだ。やってやろうぜ、みんな!」
「どうせこのままウジウジしてたって帰れないんだし・・・そうね、うん。やりましょう」
桜井くんの言葉に乗せられ奮起する生徒たち。
クラスの中心、人気者の決断ともあって多くの賛同を得た。
「ありがとう・・・君たちの勇敢な心、ワシがこの世界を代表して敬意を表する」
会ってから険しいばかりだった王様の顔がようやく緩んだ気がした
「では、これより二ヶ月で君たちに魔力の使い方、基本的な戦闘の仕方を教え込む。君たちに備わる”スキル”の正しい使用方法もな」
「覚悟は良いな?この世界の命運をお主らに託すぞ!」
と力強く王様が言う。
「はい!頑張ります!」
「任せとけ!」
「こんな私でも力になれるなら・・・!」
みんなは気合い十分といった具合だ。日本では味わえない非日常感に高揚しているんだと思う。
所詮は学生、まだまだ子供で少なからずこういったファンタジー世界には憧れを持っていた。
「うむ、ではまずはお主らの力を知りたい。心でステータスと念じてくれんか?」
王様の指示通りに私たちはステータスと念じる。
目の前に現れたのは謎の数値が羅列する石版であった。
「みな成功したようじゃな。それではステータスに記されておる”スキル”の欄を各々確認してくれ」
王様に言われ私は自分のステータスを眺める。
《スキル・聖女》
「それはスキルと言ってな。選ばれた者だけに備わる、言わば特殊能力じゃ。このスキルによって今後のお主らの成長の仕方、戦闘方法が変わってくる」
説明を受けつつ各自で自分のステータスの確認を行う。
「おっ、何だ何だ・・・騎士だって?」
「いいなぁお前、かっこいいじゃん。俺なんて鍛冶師だぜ?」
「私は・・・ヒーラー?回復役ってことかしら?」
「えぇー!なにこれ!?戦士って・・・私、女の子なんですけど!」
みんながそれぞれの与えれれているスキルの名に一喜一憂して騒いでいる中で王様に質問をする者が一人。
「すみません!この勇者ってのはどんなスキルなんですか?」
またしても、声の主は桜井くんであった。
桜井くんが勇者スキル・・・確かにスキルに名前負けしない、彼に相応しいスキルだ。
「おぉ!なんと!お主が選ばれし勇者スキルの使い手であったか!」
王様はやけに興奮した様子で彼の手を握り握手を交わす。
「選ばれし者の中から更に選ばれし者に宿る最上位スキルの一つ。それが勇者じゃ。」
「よいぞ、よいぞ!神はまだ我らを見放しておらんだ!」
「で、では!この勇者スキルと対となるスキル”聖女”の持ち主はおらぬか?」
そして興奮冷めやらぬままに辺りを見渡す。
その目は心做しか血走っているように見えることから王様の必死さが伝わってきた。
・・・って聖女?それ私のスキルじゃない?
「あのぉ・・・その聖女っていうスキルは私です」
私は恐る恐る手を挙げて名乗り出た。
「そうかそうか、お主が聖女の持ち主か。えらい美人じゃのぉ。わしがもう少し若ければ惚れておったわ」
「あはは・・・」
豪快に笑う王様に私は愛想笑いで答えるが心の内では、あーぁどうせなら純一とが良かったなぁ。と私は不満を愚痴っていた。
「かぁー!やっぱり美男美女ってお似合いなのかねぇ
!」
「ちくしょう!舞原さんとペアなんて羨ましい!」
「やっぱり桜井くんよねぇー。勇者ってスキルが似合ってるわ」
「そうそう!舞原さんいいなぁー」
妬む者、感心する者、羨む者など反応は三者三様である。
「おいおいみんな茶化すなよ!ごめんね舞原さん」
みんなを軽く注意して申し訳なさそうに謝るの桜井くん。こんな風に謝罪されては私も居た堪れない気分になる。
「き、気にしなくていいわ。こっちこそ私なんかでごめんね?」
「いやいや、むしろ光栄だよ」
「あはは・・・」
私は得意の愛想笑いで返すとその場を離れた。
「このスキルで絶対にお前を見つけ出してやるからな。待ってろよ純一」
耳に入ってきた鬼塚くんの言葉、並々ならぬ決意を感じる声で私はハッとした。
そうだった。私は純一ともう一度会いたい!スキル・聖女・・・これがいったいどのような効果があり私を強くしてくれるのか、まだ想像もつかない。だけど今の私には一つだけ明確な目的がある。
これで、このスキルで純一を見つけることができるなら何でもいい。また、彼に会いたい。
その為だったらこの先待ち受けるどんな困難だって乗り越えてやる!
私は鬼塚くん同様に意気込むが、この時私は気づかなかった。桜井くんが決意を新たに意気込む私のことを不敵な笑みを浮かべ見つめていたことに。




