私の好きな人
私には好きな人がいる。
その人は小学生の頃は女子人気が高めで、たまーにだけどかっこいいと噂されていた記憶がある。でもいつしか彼は前髪を長く伸ばしてメガネを掛け顔を隠し、目立つ事を避け始めた。
そしてそんな彼は学校中で人気者のスポーツ万能男子、とか超がつくほどの成績優秀者なんかじゃない。
どこにでもいるような、街を歩けば必ず見かけるような平凡な人、及びちょっとだけ根暗っぽい雰囲気がある男の子。
でも、私からすればそんな事どうでもいい。彼は昔から互いを知るたった1人の男の子・・・なんて、急に語り出したのは引かれたかな?
いきなりであまりにも唐突な羞恥色混じる告白だと私自身でもそう思うけど、少しだけ恋する乙女の話に耳を傾けてほしい。
私の名前は舞原聖香、華の高校1年生。
部活は陸上部に入ってて休むことなく参加してるわ。これがまた思ったよりも厳しい部で入部したことを少しだけ後悔してるのは秘密ね。
部活が忙しい、を理由にしたくない私は勉学の方にも抜かりはなく毎日の予習、復習を欠かさない。加えて自分で言うのは恥ずかしいけど美貌を保つ努力も怠らないわ。ヨガに入浴後の保湿ケア、全てが終わってから布団に入る、これが私のルーティン。
おかげで成績は入学からずっとトップを維持して、みんなからは才色兼備の完璧美少女と呼ばれている。
そんな私が想いを寄せる相手は幼なじみの佐藤純一って男子生徒。
可もなく不可もなくといった人畜無害な青年で周りの女子生徒の恋バナで話題になるようなイケメンってわけじゃない。
でも、好きなの。
彼の好きな所を10個、答えなさい!って問題を出されても私は絶対に10個も言えない、せいぜい3個ほど上げるだけで健闘した部類に入ると思う。
だけど、好きなのだ。
小学生時代、彼と一緒に下校している最中。私がいろんな話題を振っても軽く相槌を打つだけでどこか上の空だった彼。
中学に進学した頃から、彼は私と一緒に帰ってはくれなくなった。帰りの会が終わり次第すぐにリュックを担いで気づいた時には既に校門を出ていた。
委員長をしていた私はそんな彼の背中を眺めることしかできなかった。
内心はまた私も彼と一緒に下校したかった、彼とたわいもない話をしながらどこかに寄り道したかった。
でも無理だった。
私に幼なじみだからって何かに没頭する彼の邪魔をする権利はもちろん無い。彼は昔から心に凄く強い信念を持っているの。私にはそれが何かはわからないし、彼は教えてくれないけど、私はその手助けがしたい。彼の力になりたい。
完璧美少女と呼ばれる私だって一人の恋する乙女。
少女漫画で培った恋愛知識をフル活用して何度も話しかけようと試みる・・・けども肝心なところでのあと一歩が踏み出せなかった。奥手な自分にもどかしさを感じながらも、また明日!と意気込みそして失敗する。
全く進展しなかったけど、毎日が充実してドキドキが止まらない楽しい日々だった。
そしてこれからも、そんな日常が続いてくのだと思っていた・・・。
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「いやー!お母さぁん!」
「助けてくれぇー!誰かぁー!」
生徒たちの悲鳴があちこちで聞こえる。
私はあまりの衝撃、限界を超えた恐怖で悲鳴をあげることすらままならずに立ち尽くすのみであった。
すると、抵抗できない私たちを嘲笑うかのように一瞬強烈な光を放つと空に描かれた何か、から降り注がれた光にクラスメイトは次々と悲鳴と共に飲み込まれ一人また一人と消えていく。
そして、遂に回ってきた私の番。
無くなってゆく手足の感覚に怯えながらも想い人のいる方に顔を向ける。
「あっ、笑ってる顔・・・久しぶりに見たな・・・」
私が最後に見たのは赤黒い空を見つめ笑っている彼の懐かしい笑顔であった。
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「・・・香!・・・っかり・・・て・・・!」
朦朧とする意識の中で聞こえてくる誰かの声。
その声に答えるために私は起き上がった。
「聖香!しっかりして!」
「・・・んっ・・・何よ、萌?」
私がそう言って起き上がると、萌こと笹川萌は勢いよく私に抱きついてきた。
声の主、笹川萌。小柄な彼女は同性の私から見てもとても可愛らしい、小動物系の女の子で私の親友兼、恋の相談役だ。
同じクラスの鬼塚くんと付き合っており彼から純一の情報を頻繁に聞き出し提供してもらっている。
こんな可愛らしい女の子と付き合えるなんて鬼塚くんは本当に恵まれているのを自覚してほしいわね。同性でなければ絶対に私があの手この手で彼女を口説いて付き合っていたわ。
「良かったぁー!死んじゃったかと思ったよ!」
「そんな簡単に死なないわよ・・・でも心配してくれてありがとね」
「うん!」
目尻に涙を溜めながらも嬉しそうに笑う彼女。こんなに心配してくれるなんて私は本当に良い友達を持ったものね。
萌の可愛い仕草、言動についつい抱き締めたくなるがさすがに自重しておく。
「萌、それでここはどこなの?みんなも居るようだけど・・・」
私は尋ねる。なぜなら私たちが今、居る場所は豪華なシャンデリアに煌びやかな装飾が施される巨大な空間、まるで絵本に出てきそうなお城のパーティールームであったからだ。
「理由は今から、あそこに立っているおじさんが教えてくれるらしいよ」
私の質問に答えたのは萌ではなかった。
「桜井くん・・・」
桜井くんは私たちのクラスの人気者でめちゃくちゃイケメン・・・らしい、というのも友人がキャーキャーと黄色い声を発しながら話していたことで、実際私はそこまでかっこいいとは思わない。それに少し苦手意識がある。
「おじさん?」
「うん、ほらあそこにいる人だよ」
桜井くんに言われ、彼の指差す方向に視線を向ける。
するとそこには王様みたいな立派な服を着込んだ貫禄のあるおじいさんが傍に男性数名を従えて私たちを眺めていた。
「おっ、もうじき話が始まるみたいだ。俺は先に行ってるよ」
「えぇ、わかったわ」
彼はそう言って王様らしき人物の元へと歩いていく。
「聖香立てる?」
「うーん、まだ少し足に痺れが残ってるかなぁ・・・手貸してくれる?」
「もちろん!」
「ふふっ、ありがと」
そんな彼の背中を見送った私たちは再び顔を合わせて互いに頷くと、私は萌が差し出した手をとって立ち上がりおじいさんの元へと向かった。
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ちらほらと集まりだした生徒たち。そして数分もしないうちに全員が揃った・・・はずだった。
「ね、ねぇ、一人足りなくない?」
「・・・いや、そんなわけ・・・1、2、3・・・・・・っ!!ほんとだ・・・一人足りないぞ!」
「誰だ!?くそっ、全然わかんねぇよ!」
「こんな時は・・・委員長!誰がいないか知ってるか?」
その声にみんな一斉に流川くんを見る。
しかし、私たちの目に映ったのは普段のしっかり者の彼ではなくて・・・。
「ママぁ・・・ここどこだよぉ・・・会いたいよぉ・・・」
小さくうずくまりカタカタと肩を震わせながら怯えている流川くんの姿であった。面を喰らった私たちはしばらく呆気にとられたがみんな暗黙の了解で見なかったことにした。
そんな中で一人だけ目を見開き、呆然と立ち竦む男子生徒がいる。
「純一がいねぇ・・・」
悲壮感の篭った鬼塚くんの呟き。
「純一?」
「ほら、あの男の子よ。えーっと」
「確か・・・佐藤って奴だったような・・・?」
未だにみんなは告げられた名前にピンときていないようだが、生憎私はそれどころではない。
「・・・嘘でしょ?」
純一の親友の言葉に私の頭は真っ白にそして目の前は真っ暗になってゆくのであった。




