名はアルデミラン
「最果ての・・・森?」
僕の問いかけにリンスは答える。
「そうよ。ここは最果ての森。世界の終着の地と言われ、一度迷えば二度と外には出られない」
「ふむふむ」
「この森に住み着く魔物は他とは桁違いに強くてね。武を極めようと志す者が最後に訪れる修行の地なのよ」
なるほど。僕にとっては願ってもない最高の場所に転移したわけだ。しかし、神様の粋な計らいに歓喜している僕とは対照的にうかない顔をしたリンスが続ける。
「でね?その・・・今のあなたのレベルではこの森はまだ時期早々かなって・・・」
と言って僕を心配するリンス。
「レベルって?君は僕の強さがわかるの?」
「えぇ、だってステータスに書いてあるもの」
首を傾げリンスは言う。
なんかサラッと仰られましたけど、ステータスだって?つくづく男のロマンを満たしてくれる世界だな。
「え?なにステータスって?僕も見たい!」
「あなた・・・ほんとに不思議な人ね。ステータスは心で念じたらすぐ見れるわよ」
僕は早速、リンスの指示通りに心で念じる。
すると、目の前に僕の名前、能力値が刻まれた石版が浮かび上がった。
「へぇー、レベル制かぁ・・・。良いシステムだね」
自分の成長を数字で実感出来るというのは修行するにあたって結構励みになるものだ。ほら、野球の投手だって自分の球速が上がったら嬉しいでしょ?まぁ、そんな感じだ。
「この世界では子供でも知ってる常識なんだけど・・・」
「そうなの?ごめんね、僕はこの世界の住人じゃないからさ」
「え?」
「信じられないかもだけど、元は地球ってとこに住んでてね。ある日突然現れた魔法陣に連れ・・・拉致られてきたんだよ」
「・・・にわかには信じがたい話ね」
うん、ごもっともな感想だ。
「別に絶対に信じてくれってわけじゃない。ただ僕がこの世界のことは何も知らない、ということだけは理解してほしいんだ」
と、口ではそう言ったが別に転移者って事実を信じても信じなくてもどっちでもいいんだよね。この世界の仕組み、魔力の使い方さえ教えてくれればさ。
僕の話を聞いて腕を組み、しばらくの間考える素振りを見せたリンス。
待つこと2分弱。
彼女は何かを決意したようなキリッとした顔つきで答えた。
「・・・いいえ、私は純一の話を信じるわ。私がこの世界の、”アルデミラン”の事を教えてあげる」
おっ、ラッキー!信じてくれるなら話が早くて済む。いったい何が彼女を突き動かしているのかは分からないけどサポートキャラがいるに越したことはない。僕だったら絶対に信じないし、そのまま放置するような件だけど。
「じゃあ、早速お願いって言いたいところなんだけど・・・お腹が空いたなー」
「ふふっ、日も落ちてきたことだし、ご飯にしましょっか」
僕がお腹を擦って言うとリンスは目を細め笑って食事の準備を始めた。
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「じゅんいちぃー!できたわよ」
20分ほど待っていると美味しそうな匂いと共にリンスの僕を呼ぶ声が聞こえたので、グゥグゥーと空腹の限界を知らせる警鐘を鳴らしながら僕は「はーい!」と返事をする。
何から何まで至れり尽くせりで僕はまるで高級旅館にでも宿泊している気分だ。
「わぁー、凄いねリンスは。料理も出来るんだ」
「えぇ、こんな森には見ての通り料理屋とか市場なんて無いし、近隣に小さな町・村すら無いからね。自分で食材を調達して自炊しなきゃいけないのよ」
リンスはそう言ってお椀に僕の分のシチューをよそって手渡してくれる。
僕はそれを受け取ると手を合わせ「いただきます」と言って湯気が立ち上るシチューを掬い口に運んだ。
そして僕は衝撃を覚える。
「っ!?」
めちゃくちゃ美味しかったのだ。
こんなに美味いシチューは日本で母親の不倫旅行のアリバイ工作の為に連れてかれたホテルで食べたシチュー以来だね。
当時の僕は同行させてくれたことにまだ母親に母性が残っていたのかと思っていたのだが、成長するにつれその甘い考えに疑問を持つようになり気づけば消え去っていた。
母は息子と一緒に旅行!という建前を作りたかったに過ぎず、父もそれを理解していたのか快く見送ってくれたのだ。恐らく家に不倫相手を呼べてホテル代が浮くからであろう。
僕がそんな感じで黙々と食べていると感想を言われないことに不安になったのか、リンスが眉尻を下げて尋ねてくる。
「純一?もしかして・・・口に合わなかった?」
「いや、そんなことないよ。めちゃくちゃ美味しい。こんなに美味しいシチューを食べたのは生まれて初めてだ」
と、僕は感想を述べる。多少のお世辞を添えて。相手と良い関係を築くには褒めすぎるくらいが丁度良いのだ。
「そ、そうかしら?」
「うん」
「な、ならいいのよ。さっ、まだまだあるからいっぱい食べてね」
と、あからさまにご機嫌になるリンス。
僕は彼女の好意に素直に甘えて計3杯を食べた。
リンスは食器を片しながら僕に話題を振ってくる。
「あなたレベル1なのによくレベル40のバーモンキーと戦えてたわね。その地球ってとこで何かやってたの?」
「そうだね。武術なんかを少々かじってたかな」
「妙に慣れていたのはそのせいだったのね。能力値もレベル1とは思えない高さだし」
「僕って能力高いの?」
「誤差はあるけどあなたの能力値はレベル1にしては異様に高いわね」
「ふ、ふーん。そうなんだぁ」
と、リンスに言われたので内心浮かれたが冷静を装って返答すると、僕はすぐに心でステータスと念じた。
佐藤純一
Lv1
HP100 力 50 素早さ 80 防御力 80 魔力 100
僕は自分の記されている能力値を眺める。
そして眺めているとある項目に目がいった。
「ねぇ、この”スキル”ってのはなんなの?」
「選ばれし者に与えられる個性よ」
「個性?」
「そう。神に選ばれた者だけが持っているものでね、そのスキルによって様々な自分に合った戦闘スタイルを確立していくの」
へぇー、面白そうな設定だな。
リンスは続ける。
「大半の人は騎士とか弓使いとか下級スキルって呼ばれるスキルが備わってるんだけど、稀に中級スキル・上級スキルを持って産まれてくる人もいるのよね」
「へぇー」
「それこそ、王国軍の幹部レベルになるとみんな揃って中級以上のスキルの持ち主よ。もはや中級以上のスキルが幹部昇格に必要最低限の条件になってるらしいわ」
「なるほどなるほど・・・」
リンスの説明を受けて僕は改めて自分のステータスにあるスキル欄を見てみる。
スキル SM
特性:S=相手に加虐性の高い攻撃をくわえる度に能力上昇
M=自身が攻撃を受ける度に能力上昇
戦闘、特訓では自身が痛みを伴わない限り成長しない 痛みは強ければ強いほど効果を得る
これスキルの名称はアレだけど使い方によっては1番早く成長できるし最強になれるんじゃないかな?
自分の中ではチート級のスキルだが客観的な意見も欲しいのでリンスに確認を試みる。
「・・・このSMってのは何級なの?」
「へ?えす、えむ?」
僕が尋ねるとリンスは首をコテンと傾けて僕の言葉を繰り返す。どうやら理解が追いついていないらしい。
「うん、SM」
「え、SMって、あっちのSM?」
「うん、性的嗜好のね」
「・・・つ!?は、は、は・・・」
なんだろう。彼女は俯いて身をわなわなと震わせている。僕は彼女が何か言いかけているのに気づいたので聞き返した。
「は・・・なに?」
「ハレンチよ!!」
バチンッ!
顔を真っ赤に染めた彼女からの強烈な平手打ちに僕は反応できずに思っいきりくらう。そして後方にぶっ飛ばされると、背後に生えていた木にぶつかり意識を失った。
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「ごめんなさい・・・取り乱してしまって」
「いや、いいよ。僕も言い方が悪かった」
HPが残り5となっていた僕は絶賛リンスに治癒してもらっている最中だ。
案外乙女な彼女にSMスキルの話をこのまま続けると命の危険があるため僕は話題を変える。
「リンスはさ、あとどれくらいこの森に滞在予定なの?」
「約2ヶ月よ」
と、リンスは答える。
2ヶ月、2ヶ月かぁ・・・うん、ギリギリ間に合うかな?2ヶ月もあれば彼女の剣技習得、レベル100到達するくらいはスキルSMを駆使すれば可能と思われる、というか絶対にやってみせる。
目標を定めた僕はリンスに対して真正面に向かい合う形をとった。
「純一?どうしたの?」
「リンス、君に一つだけ・・・僕の人生を賭けたお願いがあるんだ」
「・・・わかったわ。言ってみなさい」
リンスは僕の本気度を感じたのか真剣な表情になって僕を見つめた。僕はそれを確認するといよいよその”お願い”を彼女に伝える。
「僕の超越者への道を隣で支えてくれないか?」
僕がそう伝えると彼女は一瞬呆けたような顔をした。そして・・・
「ふぇ?・・・・・・ええぇぇええぇえぇ━━━!」
またもや顔を真っ赤にして森全体に響き渡る声を上げ目をぱちくりとさせる。
「そ、そんな!いきなり困るわ。私もあなたのことは憎からず想ってるけども」
「そ、それに私には既に・・・ほんとは嫌だけど・・・親からの命令で私の隣は決まってるのよ・・・・・・」
と、悲痛な表情でリンスは言う。
隣は決まっている?もう修行する相手は決まってるってことか?いや待ってくれ、それは困るぞ。
焦った僕は脳内に浮かんだ言葉を片っ端から伝えた。
「だったら僕がそいつを倒してその席を奪い取るよ」
「えぇ!で、でも私たち、まだ出会ったばかりだし・・・」
「・・・?時間なんて関係ないよ。大事なのは僕の気持ち、君の気持ちだ!」
僕は必死に想いを告げる。
なぜなら、僕は料理なんてものは全くしてこなかったので自炊スキルは皆無に等しい。その為、ここでリンスに断られてしまうと正直かなりしんどいのだ。毎日魔物の丸焼きなんて食ってたら気がどうにかなっちゃうよ。
だから、僕は彼女を全力で説得する。
充実した修行生活のため、そして飯のために!
「・・・っ!?・・・・・・わかりました。君の、純一の熱い想いは受け止めます」
「二人ならどんな困難にも運命にも抗えるわよね」
ん?困難、運命?なんかちょっと大袈裟すぎる気もするけど言ってることはあながち間違ってないような・・・でも、間違ってるような・・・まぁ、そんなことは後回し。とにかく今はただ押すのみ!もう少しで彼女も了承してくれそうだからね。
「もちろん。そんなもの僕が全部ぶち壊すよ」
なぜなら超越者になる男だから!
「殿方にこんな熱烈に・・・プロ・・・ーズされたのなんて初めて・・・」
と、言いながら頬に手を当て身を捩らせるリンス。僕の提案を引き受けてくれたのだろう、これで一安心だ。
こうして修行相手の確保に成功した僕はこれからの修行計画を頭の中で、あーでもないこーでもないと一人議論をしながら立てていくのであった。




